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魚介類:図録0260 大豆:図録0432 砂糖:図録0442 トウガラシ:図録0460 お茶:図録0476 調味料:図録0214 ここでは、世界各国で何を食べているか、また特色ある食品が何かを見るため、食料グループ別の供給カロリーの構成を示した(食料の分類については末尾を参照)。 肉、麺、パン、乳製品、雑穀などに依拠する世界各地の伝統的な食生活を紹介した「人間は何を食べてきたか」というNHKのドキュメンタリー・シリーズがあり、秀逸な内容であった。この図録の表題はこれに倣ったものである。 グローバル化が進んだ21世紀に入った時代の食生活の現状は、世界各地域の食文化が相互に影響を与えているほか、豊かさにともなう食の多様化が進み、伝統的な食文化が大きく変容していると考えられるが、以下に見るように、供給カロリーの構成から、なお、それぞれの地域の特徴をうかがうことができる。 ここで、消費カロリーといわずに供給カロリーとしているのは、グラフのもととなった食料需給表が各食品の生産・輸出入・在庫変動・加工用・種用などの統計から結果として国民に供給される栄養分を計算しているからであるが、実際上は、1人当たりの供給カロリーは各国国民の消費水準をあらわし、供給カロリーの構成は各国の食の特徴をあらわしていると考えてよい。 地域的には大陸毎にある程度バランスをとって主要国40カ国を取り上げ、グラフは食文化のまとまりも意識し、ヨーロッパの北欧、西欧、東欧、そして中近東・アフリカ、アジアの南アジア、東南アジア、東アジア、また大洋州(オセアニア)、米州(南北アメリカ)の順に並べた。 供給カロリーの総量では、ヨーロッパと大洋州、米州でほぼ3,000〜3,500キロカロリーと多くなっており、肥満が目立つ地域とも一致している(図録2220参照)。中近東・アフリカやアジアでは途上国が多いこともあって3,000キロカロリー以下、あるいは2,500キロカロリー以下の国が目立つ。中近東・アフリカやアジアの中ではトルコ、エジプト、イラン、韓国が3,000キロカロリーを超えて多い。韓国以外は体格が大きいことも影響していよう。 食料構成については、以下のような点が目立っている。 @肉食 ヨーロッパとその植民地として発達した大洋州、米州では、肉類の占めるシェアが大きく、肉食文化圏としての特色が出ている。肉類の構成比が最も高いのはアルゼンチンの17.9%である(下の構成比ランキング表参照)。 上記以外の地域の中では、中国の肉類比率が大きいのが目立っている(40カ国中4位)。中華料理の伝統に加え、経済発展とともに豚肉を中心に消費が拡大している結果である(図録0300)。 ヨーロッパ・中国以外でも経済発展した東アジアや東南アジアではある程度肉類のシェアが大きくなっているが、イスラム圏諸国あるいはインドでは肉食を忌避するもともとの食文化に加え経済発展度の低さから肉類は少ない。 日本は181kcal、6.7%と先進国の中では最低であるが、近代以前には仏教の影響で肉食忌避の習慣が長く続いていたためである。魚介類をたんぱく源として重視している影響も大きい。 A牛乳・乳製品 ヨーロッパと大洋州・米州の肉食圏では、牛乳・乳製品の消費量もおおむね大きい。 中国では肉類消費は大きいが牛乳・乳製品の消費量は少なく、食文化の違いが際立っている。 イスラム圏や南アジアでは、逆に、肉類消費は小さいが、牛乳・乳製品の消費量はかなりの大きさとなっている。例えば、パキスタンの牛乳・乳製品構成比は40カ国中3位となっている。もっともイスラム圏に属するとはいえインドネシアの牛乳・乳製品シェアは小さい。 中国、インドネシアだけでなく東アジア、東南アジアでは牛乳・乳製品の消費が少ないのが一般的である。明解な理由は不明とされるが、乳製品民族として知られるモンゴル人に対抗した農耕民の漢民族の影響という説や遺伝的な乳糖吸収困難の説が指摘される(D・グリッグ1995)。漢民族が乳製品を唐代にはシルクロード経由で西方から取り入れたが、それも時代とともに廃れてしまい、交流の多かった北方の遊牧民からはついに乳利用文化を受け取らなかった理由として、中尾佐助(1978)は、風土的な理由ではなく、抜きがたい文明、文化の優劣意識によるものとしている。すなわち進んだ西域からは乳利用文化を取り入れても、劣った北方民族のマネなどは出来ないという訳である。 以上を通して、米食が多い地域と牛乳・乳製品が少ない地域とは一致しており、栄養的な相互補完関係が影響していると考えれば理解しやすい。 米食圏の中で日本の消費が例外的にある程度多いのは学校給食の牛乳のように戦後栄養上普及を図ったことや豊かさに伴う結果である。仏教上の忌避の対象外である点も影響していると思われる。マレーシアの消費の多さは同地にはインド系住民が多い点と日本と同様の側面とが考えられる。 東アジア、東南アジアは、醤油・魚醤など大豆、魚介類の加工品が発達しており、同地域における乳製品の未発達がこれと関係づけられる場合もある。 ナイジェリアでは牛乳・乳製品の少なさは、同地がツェツェバエ地域であり眠り病禍から牛が少ないことが影響している。 B穀物(米、小麦、その他穀物) インド以東のアジア諸国では米が多く、その他では小麦が多い。ただし、サハラ以南アフリカ(ケニア、ナイジェリア)では雑穀、メキシコではトウモロコシが主たる作物となっているため、その他穀物が多い。 従来から、東アジアや東南アジアの米食文化圏では、米が主食であるため、パンなど麦類の消費が肉類や乳製品消費とセットである欧米の肉食文化圏より穀物シェアは高かった。 主食という概念自体が必須アミノ酸の過不足ない含有という点で米食国のみに成立するのであって、必須アミノ酸に欠けたところのあるパン食地域では最初から肉食等との組み合わせが必要であり主食概念は成立しなかったと考えられる(篠田統1973、図録0218参照)。現在でも、穀物シェア1位〜2位は、バングラデシュ、インドネシアといずれも米食国である。 アジアの米食圏では塩辛い副食が好まれた名残りで、現在でも、塩分摂取量が多い点については図録2174参照。 ところが従来からの米食国でも経済が発展すると多様な食品を食べるようになり穀物シェアは低下する。日本が先行し、韓国、中国が同じ道を辿っている(図録0200-1参照)。バングラデシュ等の穀物シェアの高さには経済発展度の遅れの側面も大きい。 なお、米食国以外でも肉食に制限のあるイスラム諸国では穀物消費は多くなる傾向がある(エジプト、トルコ、イラン)。 もともと古代ローマを支える穀倉地帯だった伝統もあり消費量が世界最大のエジプトの穀物について、米、小麦、とうもろこしなどその他穀物がいずれも多いのは、エジプトが文化の交差点といえる立地と歴史をもっているからであろう。「エジプト料理の系譜をたどると、様々な地域からの料理が浮かび上がる。明らかに外部から入ってきた料理として西アジアの砂漠地帯の住民の料理があり、特に中世以降のエジプト料理のマナーや材料に大きな影響を与えている。エジプトで普及しているシシ・カバーブはトルコ系であり、ピラフはインド・ペルシャ系、マハシやワラ・アイナブなどはレバノン・ギリシャから伝わった料理である。また、トウモロコシやトウジンビエがパンや酒に利用されるのは、サブ・サハラ地域の影響を強くうけたものと考えられる。これらに対して、エジプト本来の土着性がある料理としては、オオムギを煮込んだ粥、フール・ミダミス、ターメイヤ、ビザウ料理のように豆類を多用する料理がある」(高増雅子「「世界の食卓から見た豆」最終回:アフリカ」豆類協会「豆類時報」74、2014.03)。 西欧諸国の中ではパスタ類で知られるイタリアの穀物消費量の大きさが目立っている。 C魚介類 魚介類のウエイトが大きいのが日本の最大の特徴である(図録0260参照)。 この他、北欧でも供給カロリーが多くなっている。アジアでは、マレーシアや韓国で日本に次いで消費が多くなっている。 Dいも類 世界の2大いも地帯は、ニューギニア・太平洋諸島のタロイモなどの根菜文化圏とアフリカ熱帯雨林地域のヤムベルトである(図録0430)。ヤムベルトに属し、キャッサバやヤムイモの生産・消費のさかんなナイジェリアでは、いも類の供給シェアが21.4%と他を圧倒しているのが目立っている。いもは茹でて搗いて「フウフウ」として食べる。 E豆類 豆類のうち大豆、落花生などは搾油用途の重要性から、FAO食料需給表分類では、豆類ではなく油脂用作物に含まれている。油脂用作物は油脂に加工されるので供給カロリーとしては植物油脂としてカウントされる(末尾の分類表の(注)を参照)。ここでは直接の食用豆類(味噌や乾燥豆類を含む)として食料供給量を見るため、ひよこ豆・レンズ豆等々の豆類の中に大豆と落花生を含めて集計している。 豆類の食料供給シェアの高い国は、トップから5位までをあげると、順番にケニア、ナイジェリア、ブラジル、インド、日本である。 アフリカ諸国で豆類消費が重要となっている。アフリカのサバンナ地域は雑穀地帯となっているが、雑穀地帯では必須アミノ酸の補給を豆類に頼らざるを得ないとされる(篠田統1973)。ブラジルでは黒豆を肉と煮込んだフェイジョアーダが国民的代表料理として名高い。インドでも挽き割り豆を使ったカレー(ダル・カレー)が有名である。 日本の場合は、味噌、醤油、納豆、豆腐として消費される大豆の多さから、供給シェアが多くなっている。 F野菜 中国、韓国で消費量が多い。ヨーロッパでは南欧でやや消費水準が高いが全体としてそれほど多くない。 下表で見るように摂取カロリーに対する割合では日本は野菜が10位と野菜摂取量の多さが特徴である。植物学者・人類学者の中尾佐助は日本人の植物好きは、大根飯といった主食の増量剤、いわゆるカテモノ(糅物、糧物)として野菜を重用してきた歴史が影響していると言っている。 「ヨーロッパでは、ローマ時代の文献によると、キャベツ、カブ、ダイコン、タマネギなどがすでに栽培されていたが、それらは食卓の野菜の主力を占めていなかった。かわりに、香辛料的なハーブといわれるタイム、コリアンダーなど多数のものが幅をきかせていた。こんなものはたくさん食べられるものではない。今日あるカブ、ダイコン、タマネギ、キャベツなどは中世になって発達がいちじるしくなってきたものである。これらは、日本でダイコンが主食の増量剤として、いわゆる「カテモノ」として尊重されるように、ともに貧民によって発展させられたものである。ヨーロッパも日本も、中世・近世の大衆は貧弱な食物しか得られず、そのときに代用的に野菜が重用されて、栽培改良が進展した。野菜は社会の長期的な危機のさなかに発達したのである」(中尾佐助1976、p.215)。 東日本の日本人がどちらかというと野菜好きなのもこうした要因が作用していると考えられる(図録7708参照)。 G卵 供給カロリーの構成比から見ると日本が第1位である。新鮮な鶏卵を安価に買える環境が整っているためである。生卵を食するのは現代では日本人だけであるが、古代ローマではやはり卵を生のまま吸っていたことが「古代ローマの食卓」という料理の歴史書やペトロニウスの「サチュリコン」に出ているという(森誠「なぜニワトリは毎日卵を産むのか 鳥と人間のうんちく文化学」こぶし書房、2015年、p.14〜15)。スタミナ源としての生卵は江戸中期から知られていたようだ。川柳には「てふちんの骨継をする生マ卵」とあり、提灯の蛇腹が縮んでしまわないように骨継ぎとして生卵を食するということらしい(同上、p.18)。朝鮮戦争を描いた韓国の映画監督イム・グォンテク(林權澤)の「太白山脈」では生卵をいくつも飲んで女性を満足させるシーンがあるが、もともとの共通文化なのか、それとも日本の影響だろうか。 H油脂類 肉食文化圏では油脂類(植物油、獣脂)の消費量が多い。油脂類の供給カロリートップ2はスペイン、ハンガリーである。ハンガリー料理では、豚脂(ラード)が頻繁に使われ、パンにラードを塗って、玉ねぎの薄切りや塩、パプリカを少々振りかけたラードパン(ジーロシュ・ケニェール)が好まれているという。オリーブオイルを多く使うスペイン、イタリアで消費量が多い。 アジア、アフリカでは油脂類の消費が相対的に少ない。中華料理では油炒めが多いので油脂の消費量が多いように見えるが実際は中国の油脂類の食料供給カロリーは217キロカロリー(1人1日当たり)と少ない(米国751キロカロリー、日本359キロカロリー)。 日本、韓国は経済発展に伴って油脂類の消費量が格段に増加した(図録0316参照)。 I砂糖・甘味料 先進国を中心に砂糖・甘味料の消費の多い甘い物好きの国がある。上位3位はニュージーランド、スイス、米国であり、これらの国ではカロリー構成で15〜17%と肉類からの摂取カロリーを大きく上回っている。 一方、砂糖・甘味料の消費の少ない国としては、バングラデシュと中国が目立っている。バングラデシュは貧しいからといえるが、中国は他の食品の消費は拡大しているので甘味を好まない民族性というしかなかろう。 Jその他 経済発展度の低いバングラデシュでは穀物以外の食品供給量がいずれも非常に小さい点が目立っている。食品構成からいえば貧しい食生活といわざるを得ない。日本が穀物以外の総ての品目が総じて拡大しているのと対極にあるといってよい。
取り上げた40カ国をグラフの順に掲げるとノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、英国、アイルランド、スペイン、ポルトガル、フランス、イタリア、ドイツ、オランダ、スイス、チェコ、ポーランド、ハンガリー、ロシア、トルコ、エジプト、ケニア、ナイジェリア、イラン、パキスタン、インド、バングラデシュ、タイ、マレーシア、ベトナム、インドネシア、フィリピン、中国、韓国、日本、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、米国、メキシコ、ブラジル、アルゼンチンである。 【参考文献】 ・篠田統(1973)「主食と文化形態−あるいは「主食亡国論」」(石毛直道編「世界の食事文化」ドメス出版、1973年) ・中尾佐助(1976)「栽培植物の世界」中央公論自然選書 ・中尾佐助(1978)「現代文明ふたつの源流―照葉樹林文化・硬葉樹林文化」朝日選書 ・D・グリッグ(1995)「農業地理学」原著2版1995年 (2010年3月11日収録、3月12日コメント追加、2015年8月21日更新、8月25日一体図に加えて分離図を追加、8月26日穀物を米、小麦、その他に分けた図に変更、2016年4月15日卵についてコメント追加、2023年5月27日野菜のコメントに中尾1976引用)
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