日本の一日当りの成人の塩分摂取量は12.4gとタイ、韓国、シンガポールに次ぐ高い水準であり、9g台前半が多い欧米先進国と比較するとかなり高い水準であることが明確である。 塩分摂取量の多い国のほとんどがアジアの米食民族である点が目立っている(米食が多い国民については図録0205参照)。なお、米食アジア人の中でも、台湾、あるいはマレーシアやインドネシアのようなイスラム国では例外的に塩分摂取量がそう高くない。 たんぱく質が小麦などと比べて比較的バランスよく含まれている米を主要食物とするアジア人は、米ばかり食べる食生活が染みついており、そのための副食物として塩分が欠かせなかった。塩をまぶしたおにぎりが典型的な食品だろう。このことが、今でもアジア人の塩分摂取量が世界の中で多い理由となっていると考えられる(図録0218参照)。 食の文化人類学の第一人者である石毛直道はこう述べている。「麦類にくらべて米にふくまれる必須アミノ酸のバランスは優れているので、米飯のどか食いをすれば、米をたんぱく質源として生きることも可能なのである。米を主食とする食生活においては、副食物は大量の飯を食べるための食欲増進剤としての機能が重視され、塩気とうま味のある少量のおかずさえあればよかった」(石毛「世界の食べもの――食の文化地理」講談社学術文庫、p.266)。 日本人の塩分摂取量の推移は図録2173、地域別比較については図録2173a参照。 欧米諸国の中では、イタリア、スペインなどカトリック国で塩分摂取量が多く、英米、ドイツなどプロテスタント国では少ないという傾向が見られる。カーニバルは「肉よさらば」という意味であり、復活祭までの46日間の四旬節で肉食を禁じられる前の大騒ぎのお祭りである。四旬節の間でも魚食は許されていたため、南欧の塩で北海漁場のタラを漬けたバカリャウ(タラの塩漬け)が開発され、「この戒律にきびしかったカトリックの国、つまりスペイン、ポルトガル、イタリアでは特に欠かせない食材となっていった」ことが要因とされる(「佐々木敏の栄養データはこう読む!」女子栄養大学出版部、p.77)。 下には、同じ原資料から塩分摂取量の世界分布図を掲げた。世界で最も塩分摂取量の多い地域は、実は、米食アジアではなく、世界一のカザフスタンを含む中央アジア諸国である。なお中央アジアと同じく旧ソ連圏(図録8975参照)であるアゼルバイジャンなどのカフカス諸国やモンゴルもやはり高くなっている。逆に塩分摂取量が特に低い地域は、サハラ以南アフリカや中南米太平洋岸の諸国となっている。 ランキング図で取り上げた27カ国を塩分摂取量の多い順に掲げると、タイ、韓国、シンガポール、日本、中国、ベトナム、ミャンマー、イタリア、フィリピン、ロシア、ブラジル、トルコ、スペイン、台湾、フランス、インド、カナダ、エジプト、スウェーデン、英国、米国、マレーシア、ドイツ、オーストラリア、インドネシア、オランダ、アルゼンチンである。 (2017年7月7日収録、7月8日マレーシア追加、世界マップ、2018年4月17日バカリャウ、2024年5月11日厚労省推奨値を追加)
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