地域別の食塩摂取量を掲げた。

 かつて(1980年)は、東北・北関東は漬物などしょっぱいものが好きな地域であり食塩摂取量も全国より2割以上多かった。九州も関東に近く、逆にもっとも食塩摂取量が少ないのは近畿地方であった。

 ところが、その後40年で全体的に食塩摂取量が減少するとともにこうした地域差は大きく縮小した。最も食塩摂取量の多い東北でも10.4gと全国の12%超過であり、また南九州はかつてと異なり全国平均レベルとなっている。

 食塩摂取量を決める要因仮説としては、米食の調味量としての役割(おにぎりの塩味が典型)、及び腐敗防止の保存料としての役割(塩蔵肉、塩干魚介類、漬物など)が考えられる。

 これに対応して、地域差の説明要因としても、コメへの特化度(米が主食である程度)、及び北方地域や内陸部ほど冬季の食材不足や鮮魚不足を補うために消費される塩蔵・塩干物が多くなる点による説明がありえる。

 食塩摂取量の地域差がなお大きかった1980年の段階のコメ消費と食塩摂取量の相関図を下に掲げた。


 コメの摂取量が多い地域ほど食塩摂取量が多い傾向が認められるが、中四国、東海、近畿U(京阪神以外の近畿)では東北、北関東(関東U)と同じぐらいコメを多く食べるのに食塩摂取量は少ないという大きな例外が存在する。こうした地域の塩分摂取量の少なさは、暖地なので、太古以来、塩漬け保存に親しむ環境が東北、北関東ほどなかったためと解釈できよう。

 一般に、西日本の料理の薄味が東日本の味の濃さと対比されることが多いが、同様の要因によるものであろう。

 内陸部の長野で食塩摂取量が多いなどの点が分かる都道府県別の食塩摂取量については図録7309参照。

 なお、明治38年の専売制の施行の後、日本国中に塩が十分供給されるようになるまで、地域によっては塩分不足で弊害が出ていたと宮本常一は指摘している。明治10年段階の現地報告がなされているイサベラ・バード「日本奥地紀行」は「東北地方の山中の人たちの不潔、きたなさ、吹出物の多いこと、目の悪いことなどをあげております。(中略)それにはいろいろの原因が考えられますが、風呂に入ることが少ないということも原因の一つでしょうし、そのほか、いろいろの理由があったと思いますけれども、一つにはやはり、塩分の不足があったのではないかと考えられます」(「塩の道」講談社学術文庫、p.77)。

 もし、東北が気象条件や地形上の理由で、一時期、塩分不足で悩まされていたとすると、1980年頃の塩分消費の多さはその反動だったとも考えられる。不足、その後の過剰の両方で健康上の障害を被った東北は、現在は、ほぼ適正の水準に落ち着きつつあるということになろうか。

(どんな食品から塩分を摂っているか)

 それぞれの地域がどんな食品から塩分を摂取しているのかを見るため、以下には、まだ食塩摂取量が比較的多かった1990年の国民栄養調査の報告書から、ブロック別の塩分摂取量の食品別構成のデータを掲げた。

 東北と関東U(北関東及び山梨・長野)では、全国の中で塩分摂取量最多(及び2位)を占める食品は「つけもの」だけであり、その他の食品は全国の中で特に多くはなってはいない。つまり、「つけもの」を多く食べるほかはまんべんなくいろいろな食品から塩分を摂取している塩分好きの地域という特徴が見られる。

 これと異なっているのが、東北、関東Uについで全体の塩分摂取が多い近畿Uと南九州である。近畿U(奈良・和歌山・滋賀)の場合は、「その他の調味料」(ソース、ケチャップ、ドレッシング)、「魚介加工品」(塩干魚介類)、「小麦加工品」(つまりうどん・中華麺やパン)、「その他の食品」(つまり調理済み食品)が全国首位であり、南九州の場合は、「しょうゆ」、「味噌」、「食塩」といった伝統調味料が首位である。すなわち、近畿Uは洋風食品に傾斜した塩分摂取、南九州は伝統食品に傾斜した食生活が特徴と言えよう。

 関東T(南関東)と近畿T(京阪神)は全体としては塩分摂取量が少ないが、「小麦加工品」は全国首位であり、「その他の食品」も近畿Uに次いで多くなっている。東京圏や京阪神圏ではパン食や調理済み食品が多い都会的な食生活が特徴だと捉えられよう。


(2018年4月17日図録2173より分離独立、米摂取量との相関図、2018年7月10日更新、2021年8月19日更新、12月12日宮本常一引用、2023年12月29日食塩の食品群別摂取量データ)


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