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 世界の主要作物である小麦、大麦、コメ、トウモロコシ、ソルガム(モロコシ)、ミレット(トウジンビエ・キビ等)、いも類のうち収穫面積の最も大きなものを図示した。

 国や地域によって主たる作物は、様々であるが、それぞれ由来を有している。

(麦類)

 ヨーロッパや北アフリカ・西南アジア、またヨーロッパ人の植民を起源とする北米カナダ、南米アルゼンチン、チリ、オセアニアのオーストリアなどでは小麦が主たる作物となっている。これらはおおむねパン食を主とする地域である。

 パン食を主とする地域でも米国は、輸出向けを飼料用トウモロコシを中心に世界のトウモロコシの作付の4割、輸出量の6〜7割を占めているため、収穫面積も他の作物より多くなっている。

 また同じくパン食地域であるが、北欧諸国やスペインでは飼料用に用いられる大麦が一番面積の大きい作物となっている。

 麦はイネ科の冬作物一般を指す言葉であるが、冬らしい冬のない熱帯地域では栽培されない。麦作地帯である欧米語地域では、小麦、大麦、ライ麦といった言葉はあるが、麦という言葉はない。

(トウモロコシ)

 トウモロコシは原産地(メキシコ、中米)を含む中南米諸国で面積一位の作物となっているほか、東欧南部、アフリカ東南部でも主たる作物となっている。

 中南米以外の地域には、新大陸の発見以降、その高いカロリー価値から新たに導入されたものである(表示選択の伝播図参照)。

 すなわち、コロンブスのアメリカ大陸発見(1492年)により、種子がスペインにもたらされた後、またたく間にヨーロッパ諸国に広まり、その後、フランス、イタリア、トルコ、西北アフリカに伝わった。アジアへは16世紀半ばから始まり、中国、日本にはポルトガル、あるいはアフリカからチベット経由で伝播、またフィリピン、インドネシアにはスペインより伝えられ、それが東南アジアに広まったという。

 アフリカへは戻り奴隷船が、東欧南部バルカン地方へは18世紀にトルコ人がトウモロコシを持ち込んだとも言われる。

(コメ)

 コメは西南アジアを除くアジア諸国で主食としての地位を保っている。

 中国の北部やインドの西部では小麦やトウモロコシが主となっているが、国全体の平均ではコメが過半という結果となっている(中国とインドの地域別の主要作物マップを図録0431に掲げたので参照)。

 この他、アフリカ西南端、マダガスカル、中南米の一部などでもコメが最大の国がある。

 人口密度の高い国が多く、世界人口の半分近くがコメを主食としている。

 作物のイネと言えば、日本のジャポニカ米やアジアのインディカ米などのアジアイネ(O. sativa)を普通指すが、この他、アフリカ大陸西部のニジェール川周辺で栽培されているアフリカイネ・グラベリマ (O. glaberrima)がある。西アフリカは後にインド、中国へと伝わった雑穀農耕文化のおおもとの起源地であり、アフリカイネも湿生の雑穀としてアジアイネとは独自に栽培植物化されたものとされる(中尾佐助「栽培植物と農耕の起源」岩波新書、1966)。なおアフリカでも現代ではアジアイネが導入され、半数近くにのぼっており、陸稲と浮き稲は在来種、水田はアジア種が多くなっているという(中尾佐助「農業起源をたずねる旅―ニジェールからナイルへ 」岩波同時代ライブラリー1969)。

 同じアフリカでも西アフリカのコメと違ってマダガスカルのコメはアジアから伝わった稲作によるものである(マダガスカルは民族自体がアジアの流れである。図録8130参照)。

 コメ地帯の国に低地居住が多い点については図録9060参照。

(ソルガム、ミレット−末尾参考写真参照)

 西はアフリカから東はアラビア半島にかけ、サハラ砂漠、アラビア砂漠の南側の諸国は、ソルガム(モロコシ)やミレット(トウジンビエ)といった非常に短い栽培期間で収穫が可能なため乾燥にも強い雑穀が最大の地域となっている。ゴマやササゲ、スイカ、ひょうたん、オクラなどとともにアフリカを起源地としインド、中国へと広がる雑穀農耕文化圏の代表作物とされる(中尾佐助1966)。

 中国、日本など元から雑穀がさかんだった地域では、それぞれの植物が別名で呼ばれていたが、麦作地帯では、milletという総称名詞にfoxtail、common、finger、pearl、barnyardといった形容詞をつけて区別する(順にアワ、キビ、シコクビエ、トウジンビエ、ヒエの意味となる)。これは日本で麦に小、大、燕をつけて麦類を区別するのと同じである。

(いも類)

 いも類はパプアニューギニアや南洋諸島など、もともと在来民族が主食としていた地域や、アフリカ中部、キューバなどで最大面積となっている(キューバではコメもほぼ同等面積)。

 東北地方のいも煮会は、かつて日本が焼畑農耕によるいも類栽培を主としていた時代の名残であると考えられるが、起源地の南方地域ではなおいも類栽培が中心となっている訳である(図録7722、図録7756参照)。

 いも類のうち、キャッサバやジャガイモはとうもろこしと同じように中南米原産の作物であり、コロンブスの米大陸発見以降、世界に広がった(表示選択の伝播図参照)

 アフリカの熱帯雨林はヤムベルトという根菜農耕文化のエリアが成立しており(東南アジアから伝わったとも)、奴隷貿易を通じてブラジルから伝来したマニオク(キャッサバ、タピオカ原料)を加えてイモとバナナの食文化が根強い。

 ヤムベルトと重なる西アフリカの海岸部はアーボリカルチャー、ないしミックスト・プランテーションの地域であり、アブラヤシ、カポック、バナナなどの果樹園に地表作物や蔓性作物としてヤムイモ、ウリなどを植えた立体的な土地利用で高い生産力を誇り、人口密度も高いという(中尾佐助「現代文明ふたつの源流―照葉樹林文化・硬葉樹林文化」朝日選書、1978年)。


(2004年10月25日収録、10月31日コメント拡充、2008年5月26日更新、6月2日コメのコメント・中国作物地図追加、6月11日ミレットの訳をキビというよりトウジンビエに変更、その他加筆、2009年7月8日中国の地域別主要作物地図をインドの地域別主要作物地図と一緒にして新たに設けた図録0431に移動、2010年3月12日コメント追加、2012年6月26日穀物写真追加、2022年1月28日主要作物伝播図追加、コメント補訂)


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