家計調査によると年間支出金額(2022〜24年平均)は、全国平均で、生鮮肉が8.0万円、生鮮魚介が4.1万円、生鮮野菜が7.2万円となっている。 従っていずれの金額が多いかで地域を区分すると魚好きの地域は少なくなってしまう(実際ゼロ)。そこでここでの地域区分は、それぞれの品目の支出額の都道府県ランキングを算出し、最も順位の高い品目で各都道府県を区分するという方法を採った。なお、家計調査では県庁所在都市の値しか得られないので、それを都道府県の値と仮定している。 何らかの理由による単年の変動の影響を避けるため2022年〜24年に3か年平均の値を対象とし、以上のように区分した結果で色分けした分布図を掲げた。参考のため支出額の多いトップ10地域の表も付加しておいた。 描いた統計地図を見ると、基本的に、西日本は「肉好き」、東日本は「野菜好き」、半島的あるいは外洋に面するような漁業の盛んな地域は「魚好き」という地域傾向が明らかとなっている。 地域区分は、ほぼ、ひとかたまり、すなわち連坦しているが、隣接地域と異なる飛び地的な分布としては沖縄の野菜好きが目立っている。 東京、大阪については、それぞれ野菜好き、肉好きに区分されるが、魚の消費額も全国3〜4位と高く、東西の首都ならではの高級品嗜好が影響していると想像される。 沖縄が野菜好き地域に区分されるのは、低い所得水準の影響もあって肉や魚の支出額がそう多くないせいであろう。 消費支出額上位3位の地域を掲げると以下の通りである。 生鮮肉:@大阪、A京都、B奈良 生鮮魚介:@富山、A兵庫、B東京 生鮮野菜:@東京、A新潟、B神奈川 生鮮肉については、西日本の中でも、京都、奈良という日本を代表する古都とその周辺がトップ地域である点が目立っている。肉好きについて、肉食など食の洋風化をもっともはやく取り入れた神戸や横浜、あるいは東京ではなく、むしろ、全国の中でも最も伝統を引き継いでいるとされる古都がリードしているという事実は、案外であり、きわめて興味深い。京都はパンやコーヒーの消費が多いことでも知られており(消費金額でパンが1位、コーヒーが3位)、我が国最大の伝統都市は、かえって、伝統食にこだわることなくもっとも洋風化が進んだ都市なのである。 生鮮魚介については、富山などもともと魚介類の豊富な地域に次いで、兵庫、東京という大都市が登場している。これは上記の通り中心都市ならではの高級品嗜好が影響している。家計調査では消費金額だけでなく消費数量を調べているが、数量ベースでは生鮮魚介のトップ3は、@青森、A鳥取、B秋田となっており、金額3位の東京はなんと32位、金額1位の大阪は20位とかなり下位に位置していることからもそれがうかがわれる。同じ魚種でも値段が高いものを買っているのに加えて、アジ、サバといったいわゆる大衆魚というより、マグロ、エビなど単価の高い魚介類を多く食しているからと考えられる。 中尾佐助が指摘しているように日本人の野菜好きは、大根めしなど主食増量剤であるカテモノとして野菜を重用してきた歴史が影響していると考えられる(図録0205参照)(注)。東北など東日本が野菜好きエリアとなっているのは、貧困や飢饉のため野菜をこうした目的で食することが多かったという理由も大きかろう。「朝夕の食事はうまからずともほめて食うべし」と伊達政宗が言っていたことなども思い起こされる。 (注)大根めしは山形の寒村を舞台にしたNHK朝の連続テレビ小説「おしん」でもよく登場した。米の不足を東国ではかて飯、西国では粥でおぎなっていた。「ごく大ざっぱにいうならば、水田が普及し、人口の稠密な西国では米の不足分を水でおぎない、畑の多い東国ではかて飯や雑穀にたよっていた、とみてよろしかろう」(篠田統「増訂米の文化史」社会思想社、p.54)。 そうした点から東北をB級グルメ地帯と位置づけている論者もいる。「野菜と魚貝、あるいは肉類をごった煮にすることで「うま味」を作り出す方法は、まさにB級グルメそのものであり、近畿を中心とした煮出しをたっぷりきかせたうえで炊き合わせ(煮物)たり、水煮・つけ汁の水鍋とは全く非対称のものです」(加藤純一「ヒネリの食文化誌」プレジデント社、1995年)。かつて東日本でカレー好きが鮮明だったのも同じ理由と見なすことが可能であろう(図録7745参照)。 もっとも生鮮野菜の支出金額について東京、神奈川がそれぞれ首位、3位を占めているのは、この2地域が東日本に位置することに加え、やはり、健康志向を優先するトレンディな県民が多いせいであろう。生鮮魚介と異なり、数量ベースでも東京、神奈川はそれぞれ6位、7位と上位である点からもそうした点がうかがわれるのである。 県民意識調査で肉、魚、野菜のうちどれが一番好きかの結果を分布図にした図録7239も参照されたい。 (2023年5月14日収録、5月27日東北野菜好きカテモノ要因説、12月28日伊達政宗言、加藤純一引用、2025年2月2日篠田統引用、3月11日更新)
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