この40年間に日本人は睡眠を減らしてまでも何をやりたかったのであろうか。この問に答えるために、社会生活基本調査(総務庁統計局)の生活時間統計における各生活行動時間の変化をグラフにした。結論からいえば、実は、出歩いて自由時間を謳歌したかったのだ。

 時系列変化は男女有業者ベースで追っている。学生・無業者を含んだ国民全体ベースで変化を追うと、有業率(労働力率)の変化や年齢構成の変化による生活時間の変化の要素が含まれてしまう。例えば高齢化が進めば、働いていない高齢者の割合が増え、仕事時間は平均で減少する。また、女性について有業率(労働力率)が上昇すれば、仕事時間が平均で減少する。有業者ベースで変化を追えば、こうした要素を除去して、変化の内容を評価することができるのである。もちろん、有業者ベースでは、国民全体ベースでは重要な学校での学業の時間の変化や専業主婦や無業高齢者の生活時間の変化は分からないので注意が必要である。また有業者ベースであっても、正社員とパート・アルバイトの比率が変化すると、仕事時間などにその影響があらわれる点にも留意が必要である。

 さて、本題であるが、1976年から2016年にかけて、睡眠時間は、男性有業者の場合、8:12(8時間12分、以下同様)から7:29へと43分も減少しており、女性の場合、7:45から7:15へと30分も減少している。この40年間の根本的ともいえる変化である。

 仕事や家事が忙しくて眠ってもいられないのであろうか。実はそうではない。

 日本人のエコノミックアニマルぶりが世界中から批判を浴びた1980年代半ばまでは、そうした面もあった。有償の労働時間をあらわす仕事の時間は男性の場合、1986年まで、女性の場合も1981年までは増加していたのである。しかし、それ以降、男女ともに仕事時間は大きく減少している。この減少は、1988年に改正された労働基準法の影響が大きい(図録3100参照)。女性の場合は、パート労働が大きく拡大したため有業者平均で仕事時間が減少している側面も無視し得ない(図録32003250参照)。

 一方、家庭内の無償労働というべき家事については、同じ有業者で男女の差が激しいことが日本の場合、目立っているが、家事時間の長い女性の場合、一時期増加したこともあったが、全体的には、減少傾向にある。家事労働の省力化に寄与する家電製品の普及や少子化などが影響していると考えられる。男性の場合家事時間はかなり増加しているが、もともとレベルが低いので、女性の減少を補って余りあるとはいえない程度である。

 それでは、睡眠を減らしてまで日本人がやりたかったことは何だったのであろうか。ここで、まず、生活時間統計の生活行動の種類について、付表を末尾に掲げておく。

 有業者ベースで分析しているので、この図録では、学業・学習などは趣味・娯楽・スポーツに一括し、また平均すると時間数の小さいボランティ活動、医療などはその他に一括した。

 さらに、折れ線グラフでは、明確でない各生活行動の増減の程度を詳しく見るため、第2の図では、40年間の増減そのものをグラフにした(傾向線である回帰直線の傾きから40年間の増減を計算している)。

 この間、生活時間の中で増加が特に目立っているのは、4つである。すなわち、「通勤通学以外の移動」、「趣味・娯楽・学習・スポーツ」、「身の回りの用事」、「休養・くつろぎ」の4つである。この4つを合わせると、図のベースで、男性の場合、82分、女性の場合、何と、108分の増加となっている。睡眠と仕事の減少の多くを埋め合わせているレベルである。

 「移動」には、旅行の他、外出一般に要する時間が含まれる点、「身の回りの用事」には、化粧や身だしなみ、おしゃれが含まれる点を考え合わせると、「レジャー・趣味・習い事・身体ケアのための外出」がこの4つの生活行動の基幹部分であると考えられる。「交際・付き合い」の時間が余り伸びていないのが整合的でないようにも見えるが、その時間が男性で減少し、女性で横ばいであることからも想像されるように、友達などとの付き合いは増えているが、職場仲間や上司との付き合い酒は減少し、相互に相殺し合っていると理解できる。また「休養・くつろぎ」に属するような「まったりとした」つきあいの時間は増えている。

 このようにデータを、素直に読めば、日本人は、この40年間で、特に、女性がリードしながら、24時間都市化する環境の中、眠る時間もないほど外を出歩いて自由時間を謳歌するようになったのだ。1990年前後を境に、日本経済はバブルが崩壊し、低成長下で推移している。1990年頃までは、モノの豊かさとモノの消費時間で贅沢をしようとしたのだろうと思われる。しかし、バブル崩壊後は、所得は伸びない、モノを切り詰める生活の中で、カネをかけず、時間そのもので贅沢したり、個人のおしゃれや身体のケアに時間をかける形で生活の充足を得ようとしてきたように見える(世代別の身の回りの時間の増加については図録2329d参照、女性の楽しみが増えたと女性が思っている点については図録2475参照)。

 また、身の回りの用事時間に含まれる入浴時間の拡大(頻度増)が安眠を促すことによって睡眠時間の減少を可能にしたという連関も成り立たないわけではないという点については図録2325にふれた。国際的に見て、日本人の睡眠時間が短いのは、入浴時間を他民族より多く取っているからだと考えられないわけでもない(睡眠時間の国際比較は図録2329参照)。

 2011年から16年にかけての最近の変化の特徴としては以下の3点を指摘することができる。

@マスコミ接触時間の激減
 「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌」に費やす時間が激減しているのが最近の目立った特徴である。インターネットやスマホの普及の影響であることはいうまでもあるまい。

A遊びは近場で仕事は遠くで
 「移動(通勤・通学以外)」の増加幅は従来と比較して縮小している(男性の場合はマイナス)反面、「通勤・通学」(有業者なのでほとんど通勤)は男女とも増加している。人びとのつきあいや娯楽・スポーツなどは近場志向、仕事は遠くまでという傾向だと思われる。

B外交的というよりくつろぎ志向
 「休養・くつろぎ」が1996年以降増加を続け、特に2006〜11年にこれまで以上の「休養・くつろぎ」の時間の増加が見られるのはこの生活時間区分が含む「家族との団らん」が東日本大震災の影響で大きく見直された結果と見ることもできる(東日本大震災の影響と見られる意識変化を生じた図録2410も参照)。2011〜16年もさらにこの傾向が継続しているので、大震災の影響だけではなく、収入が伸び悩む中で、所得志向、外向重視からまったりとした時間への志向、内向重視が強まる傾向にあるのかもしれない。いや、むしろ、他に分類されるような特定の目的をもたないインターネット、スマホ利用の時間がここに区分けされるので増加を続けていると見た方がよいかもしれない。

 EU諸国との比較では、なお、日本人の労働時間は長く、睡眠を犠牲にしてまで働いているようにも見える(図録2322参照)が、時系列変化を見れば、労働のために睡眠を減らしている訳ではないことが明確である。

 女性を中心に睡眠を減らしておしゃれや身体ケアに力を入れてきた様子は、図録2325参照。若い女性のやせの傾向(図録2200参照)、美容師の倍増(図録3550参照)もこれと無関係ではなかろう。

 家族や社会の絆が失われてきている状況から、個々人が、自分だけでなく、他者の心身を相互にケアすることに時間を割く必要が生じているといえる。しかし、なお、ボランティア活動への参加時間は少なく、参加率も目立って上昇していない(図録3000参照)。

(2006年8月4日収録、8月7日コメント修正、2007年10月19日更新、2012年10月1日更新、12月16日「休養・くつろぎ」コメント追加、2014年12月31日入浴と睡眠の関係コメント追加、2017年9月25日更新、2019年10月12日「休養・くつろぎ」コメント補訂)


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分野 生活
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付表 生活行動の種類と内容例示(平成23年社会生活基本調査)
行動の種類 内容例示 備 考 図における区分
1 睡眠 夜間の睡眠 昼寝 仮眠 ベットで眠りに落ちるのを待つ
  • 就寝から起床までの時間をいう。
  • うたたねは「13 休養・くつろぎ」とする。
睡眠
2 身の回りの用事 洗顔 入浴 トイレ 身じたく 着替え 化粧 整髪 ひげそり 理美容室でのパーマ・カット エステ 巡回入浴サービスを利用した入浴・介護サービスなどを利用して行う場合もここに含める。
  • 自分のための用事をいう。
  • 炊事,掃除,洗濯は「7 家事」とする。
身の回りの用事
3 食事 家庭での食事・飲食 外食店などでの食事 学校給食 仕事場での食事
  • 飲食・交際のための食事・飲食は「18 交際・つきあい」とする。
  • 飲食・間食(おやつ)は「13 休養・くつろぎ」とする。
食事
4 通勤・通学 自宅と仕事場の行き帰り 自宅と学校(各種学校・専修学校を含む)との行き帰り
  • 途中で寄り道をした場合も,ふだんの経路を大きくはずれない場合の移動の時間はここに含める。
通勤・通学
5 仕事 通常の仕事 仕事の準備・後片付け 残業 自宅に持ち帰ってする仕事 アルバイト 内職 自家営業の手伝い 仕事中の移動
  • 本人または自家の収入を伴う仕事をいう。
  • 休憩時間などのため仕事をしない時間は除く。
  • 出張先への行き帰りの移動は「11 移動」とする。
仕事
6 学業 学校(小学・中学・高校・高専・短大・大学・大学院・予備校など)の授業や予習・復習・宿題 校内清掃 ホームルーム 家庭教師に習う 学園祭の準備
  • 必修科目として行うものでないクラブ活動・部活動はその内容により「15 趣味・娯楽」,または「16 スポーツ」などとする。
  • 学習塾での勉強はここに含める。
趣味・娯楽・学習・スポーツ@
7 家事 炊事 食事の後片付け 掃除 ゴミ捨て 洗濯 アイロンかけ つくろいもの ふとん干し 衣類の整理片付け 家族の身の回りの世話 家計簿の記入 株価のチェック・株式の売買 庭の草とり 銀行・市役所などの用事 車の手入れ 家具の修繕 
  • 通勤・通学者などの送迎はここに含める。
  • 自家消費用の作物の栽培などもここに含める。ただし,趣味として行っている場合は「15 趣味・娯楽」とする。
  • インターネットによる株価のチェック・株式の売買もここに含める。
家事(育児、介護を含む)  
8 介護・看護 家族・他の世帯にいる親族に対する日常生活における入浴・トイレ・移動・食事などの手助け 看病
  • 一時的な病気などで寝ている家族に対する介護・看護もここに含める。
  • 家族以外の人に対する無報酬の介護・看護は「17 ボランティア活動・社会参加活動」とする。
9 育児 乳幼児の世話 子供のつきそい 子供の勉強の相手 子供の遊びの相手 乳幼児の送迎 保護者会に出席
  • 子供の教育に関する行動を含む。
  • 就学後の子供の身の回りの世話は「7 家事」とする。
10 買い物 食料品・日用品・電化製品・レジャー用品など各種の買い物 ビデオのレンタル
  • ウィンドーショッピング,インターネットによる買い物も含む。
買い物
11 移動(通勤・通学を除く) 電車やバスに乗っている時間・待ち時間・乗換え時間 自動車に乗っている時間 歩いている時間
  • 「4 通勤・通学」以外の移動で,出発地から目的地までの時間をいう。
移動(通勤・通学を除く)
12 テレビ・ラジオ・新聞・雑誌 テレビ・ラジオの視聴 新聞・雑誌の講読 テレビから録画したビデオを見る インターネットで新聞を読む
  • テレビ(録画を含む)・ラジオ(録音を含む)・新聞・雑誌による学習は「14 学習・自己啓発・訓練(学業以外)」とする。
  • 購入・レンタルなどによるビデオの視聴は「14 学習・自己啓発・訓練(学業以外)」または「15 趣味・娯楽」などとする。
テレビ・ラジオ・新聞・雑誌
13 休養・くつろぎ 家族との団らん 仕事場または学校の休憩時間 おやつ・お茶の時間 食休み うたたね
  • テレビ・ラジオなどを視聴しながらくつろいだ時間は「12 テレビ・ラジオ・新聞・雑誌」とする。
休養・くつろぎ
14 学習・自己啓発・研究(学業以外) 学級・講座・教室 社会通信教育 テレビ・ラジオによる学習 クラブ活動・部活動で行うパソコン学習など 自動車教習
  • 個人の自由時間に行う学習をいう。
  • 職場で命ぜられて受けた研修は「5 仕事」とする。
  • 学校の宿題の「自由研究」は「6 学業」とする。
趣味・娯楽・学習・スポーツA  
15 趣味・娯楽 映画・美術・スポーツなどの観覧・鑑賞 観光地の見物 ドライブ ペットの世話 テレビゲーム 趣味としての読書(漫画を含む) クラブ活動・部活動で行う楽器の演奏
  • 菓子作りなど,趣味として行っている場合はここに含める。
16 スポーツ 各種競技会 全身運動を伴う遊び 家庭での美容体操 クラブ活動・部活動で行う野球など(学生が授業などで行うスポーツを除く) つり 
  • 運動としての散歩を含む。ただし,特別の目的がある移動(職場に歩いて行く)は含めない。
17 ボランティア活動・社会参加活動 (ボランティア活動) 道路や公園の清掃 施設の慰問 点訳 手話 災害地などへの援護物資の調達 献血 高齢者の日常生活の手助け 民生委員 子供会の世話 美術館ガイド リサイクル運動  交通安全運動  (社会参加活動)労働運動 政治活動 布教活動 選挙の投票
  • 自分の所属する町内会・PTA・同業者団体のために行う世話はここに含める。
  • 自分の所属する地域・団体で行うバザー,お祭り,運動会などへの単なる参加は「10 買い物」,「15 趣味・娯楽」,「16 スポーツ」などとする。 
その他@
18 交際・付き合い 知人と飲食 冠婚葬祭 同窓会への出席・準備 あいさつ回り 見舞い 友達との電話・会話 手紙を書く  
  • 交際のための趣味・娯楽,スポーツはそれぞれ「15 趣味・娯楽」, 「16 スポーツ」とする。
交際・付き合い
19 受診・療養 病院での受診・治療 自宅での療養   その他A 
20 その他 求職活動 墓参り 仏壇を拝む 調査票を記入する  


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