2020〜21年はコロナ禍にあって日本人の生活は大きく変容した。従って2021年の調査結果はこれまでの趨勢とはかなり異なるものとなっている。このことから、これまでの趨勢に反する動きこそがコロナ禍の影響とみなすことが可能である。 以下では、2016年までの長期トレンドについてコメントし、最後に、2011〜16年の動きに続いて、コロナ禍の影響があらわれた2016〜21年の変化の特徴についてまとめよう。 時系列変化は男女有業者ベースで追っている。学生・無業者を含んだ国民全体ベースで変化を追うと、有業率(労働力率)の変化や年齢構成の変化による生活時間の変化の要素が含まれてしまう。例えば高齢化が進めば、働いていない高齢者の割合が増え、仕事時間は平均で減少する。また、女性について有業率(労働力率)が上昇すれば、仕事時間が平均で減少する。有業者ベースで変化を追えば、こうした要素を除去して、変化の内容を評価することができるのである。もちろん、有業者ベースでは、国民全体ベースでは重要な学校での学業の時間の変化や専業主婦や無業高齢者の生活時間の変化は分からないので注意が必要である。また有業者ベースであっても、正社員とパート・アルバイトの比率が変化すると、仕事時間などにその影響があらわれる点にも留意が必要である。 さて、本題であるが、1976年から2016年にかけて、睡眠時間は、男性有業者の場合、8:12(8時間12分、以下同様)から7:29へと43分も減少しており、女性の場合、7:45から7:15へと30分も減少している。この40年間の根本的ともいえる変化である。 仕事や家事が忙しくて眠ってもいられないのであろうか。実はそうではない。 日本人のエコノミックアニマルぶりが世界中から批判を浴びた1980年代半ばまでは、そうした面もあった。有償の労働時間をあらわす仕事の時間は男性の場合、1986年まで、女性の場合も1981年までは増加していたのである。しかし、それ以降、男女ともに仕事時間は大きく減少している。この減少は、1988年に改正された労働基準法の影響が大きい(図録3100参照)。女性の場合は、パート労働が大きく拡大したため有業者平均で仕事時間が減少している側面も無視し得ない(図録3200、3250参照)。 一方、家庭内の無償労働というべき家事については、同じ有業者で男女の差が激しいことが日本の場合、目立っているが、家事時間の長い女性の場合、一時期増加したこともあったが、全体的には、減少傾向にある。家事労働の省力化に寄与する家電製品の普及や少子化などが影響していると考えられる。男性の場合家事時間はかなり増加しているが、もともとレベルが低いので、女性の減少を補って余りあるとはいえない程度である。 それでは、睡眠を減らしてまで日本人がやりたかったことは何だったのであろうか。ここで、まず、生活時間統計の生活行動の種類について、付表を末尾に掲げておく。 有業者ベースで分析しているので、この図録では、学業・学習などは趣味・娯楽・スポーツに一括し、また平均すると時間数の小さいボランティ活動、医療などはその他に一括した。 さらに、折れ線グラフでは、明確でない各生活行動の増減の程度を詳しく見るため、第2の図では、40年間の増減そのものをグラフにした(傾向線である回帰直線の傾きから40年間の増減を計算している)。 この間、生活時間の中で増加が特に目立っているのは、4つである。すなわち、「通勤通学以外の移動」、「趣味・娯楽・学習・スポーツ」、「身の回りの用事」、「休養・くつろぎ」の4つである。この4つを合わせると、図のベースで、男性の場合、毎5年に10分、女性の場合、何と、14分の増加となっている。睡眠と仕事の減少の多くを埋め合わせているレベルである。 「移動」には、旅行の他、外出一般に要する時間が含まれる点、「身の回りの用事」には、化粧や身だしなみ、おしゃれが含まれる点を考え合わせると、「レジャー・趣味・習い事・身体ケアのための外出」がこの4つの生活行動の基幹部分であると考えられる。 「交際・付き合い」の時間が伸びていないのが整合的でないようにも見えるが、その時間が男性で減少し、女性で横ばいであることからも想像されるように、友達などとの付き合いは増えているが、職場仲間や上司との付き合い酒は減少し、相互に相殺し合っていると理解できる。またスマホに割く時間を含む「休養・くつろぎ」に代替し、リアルな交際がバーチャルな交際にシフトしている動きの側面もあろう。 このようにデータを、素直に読めば、日本人は、この40年間で、特に、女性がリードしながら、24時間都市化する環境の中、眠る時間もないほど外を出歩いて自由時間を謳歌するようになったのだ。1990年前後を境に、日本経済はバブルが崩壊し、低成長下で推移している。1990年頃までは、モノの豊かさとモノの消費時間で贅沢をしようとしたのだろうと思われる。しかし、バブル崩壊後は、所得は伸びない、モノを切り詰める生活の中で、カネをかけず、時間そのもので贅沢したり、個人のおしゃれや身体のケアに時間をかける形で生活の充足を得ようとしてきたように見える(世代別の身の回りの時間の増加については図録2329d参照、女性の楽しみが増えたと女性が思っている点については図録2475参照)。 しかし、日本人は食事量(カロリー摂取量)も減ってきていることを考え合わせると、むしろ、仕事や生活のストレスが減って来て、そんなに寝なくても元気を回復できるような省エネ型ライフへ傾斜してきているとも捉えられる(図録2329参照)。忙しいから寝る時間がないのではなく、忙しくないから寝る必要もなくなってきているのではなかろうか。 また、身の回りの用事時間に含まれる入浴時間の拡大(頻度増)が安眠を促すことによって睡眠時間の減少を可能にしたという連関も成り立たないわけではないという点については図録2325にふれた。国際的に見て、日本人の睡眠時間が短いのは、入浴時間を他民族より多く取っているからだと考えられないわけでもない(睡眠時間の国際比較は図録2329参照)。 EU諸国との比較では、なお、日本人の労働時間は長く、睡眠を犠牲にしてまで働いているようにも見える(図録2322参照)が、時系列変化を見れば、労働のために睡眠を減らしている訳ではないことが明確である。 女性を中心に睡眠を減らしておしゃれや身体ケアに力を入れてきた様子は、図録2325参照。若い女性のやせの傾向(図録2200参照)、美容師の倍増(図録3550参照)もこれと無関係ではなかろう。 家族や社会の絆が失われてきている状況から、個々人が、自分だけでなく、他者の心身を相互にケアすることに時間を割く必要が生じているといえる。しかし、なお、ボランティア活動への参加時間は少なく、参加率も目立って上昇していない(図録3000参照)。 (2011年から16年にかけての変化の特徴) @マスコミ接触時間の激減 「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌」に費やす時間が激減しているのが最近の目立った特徴である。インターネットやスマホの普及の影響であることはいうまでもあるまい。 A遊びは近場で仕事は遠くで 「移動(通勤・通学以外)」の増加幅は従来と比較して縮小している(男性の場合はマイナス)反面、「通勤・通学」(有業者なのでほとんど通勤)は男女とも増加している。人びとのつきあいや娯楽・スポーツなどは近場志向、仕事は遠くまでという傾向だと思われる。 B外交的というよりくつろぎ志向 「休養・くつろぎ」が1996年以降増加を続け、特に2006〜11年にこれまで以上の「休養・くつろぎ」の時間の増加が見られるのはこの生活時間区分が含む「家族との団らん」が東日本大震災の影響で大きく見直された結果とも見られた(東日本大震災の影響と見られる意識変化を生じた図録2410も参照)。しかし、2011〜16年もさらにこの傾向が継続しているので、むしろ、他に分類されるような特定の目的をもたないインターネット、スマホ利用の時間がここに区分けされるので増加を続けていると見た方がよいと思われる。 (2016〜21年の変化の特徴) この5年間は2020年からの新型コロナ感染拡大の影響を大きく受けた期間である。生活時間に対する在宅ワークの影響そのものについては在宅勤務の有無による生活時間の差を年齢別に掲げた図録2321を参照されたい。
(2006年8月4日収録、8月7日コメント修正、2007年10月19日更新、2012年10月1日更新、12月16日「休養・くつろぎ」コメント追加、2014年12月31日入浴と睡眠の関係コメント追加、2017年9月25日更新、2019年10月12日「休養・くつろぎ」コメント補訂、2022年11月8日更新、2023年4月9日増減図形式改訂、2024年12月8日省エネ型ライフ説) |
|
付表 生活行動の種類と内容例示(平成23年社会生活基本調査)
[ 本図録と関連するコンテンツ ] |