統計数理研究所によって「日本人の国民性調査」が1953年以来、5年ごとに戦後継続的に行われている(同じ問を継続しているが問によっては必ずしも毎回聞いている訳ではない)。長期的な日本人の意識変化を見るためには貴重な調査である。この調査はすべて、全国の20歳以上(ただし2003年〜08年は80歳未満、2013年は85歳未満)の男女個人を調査対象とした標本調査である。各回とも層化多段無作為抽出法で標本を抽出し、個別面接聴取法で実施されている。2013年調査は10〜12月に行われ、回答者は3,170人だった(回収率50%)。

 ここでは、「生まれ変わるとしたら男がいいか女がいいか」という問への回答結果の長期推移を追った。

 結果は男性の回答と女性の回答で著しく異なっている。すなわち男性は無変化、女性は大変化である。男性は一貫して同じ男に生まれてきたいとする者が9割程度を占めているのに対して、女性は、かつては男に生まれたいとする者が6割以上の多数派であったのがこの約50年の間に女に生まれたいとする者が7割以上の多数派を占めるように変化したのである。女性の意識変化はまことに大きいといえよう。この結果、男女という存在についての見方が男性と女性でまったく異なるようになった。

 こうした結果となった要因を探るため、関連した2つの問、すなわち、男女のいずれが苦労が多いか、また男女のいずれが楽しみが多いかの回答結果の推移を見てみることにしよう。

 「苦労」の面では、男性の回答も女性の回答も、おおむね男の方が女より苦労が多いとしている。男性の回答の方が男の苦労をより大きめに評価しているとはいえる。時系列変化では男性も女性も男女の苦労の差については、男の苦労が多いという回答がやや減り、女の苦労が多いという回答が増えてきている傾向にある。そしてついに、2013年には、女性の回答で、女の苦労が男の苦労を50年ぶりに上回るに至っているのが目立っている。

 男女とも、これまでは、男は職場の人間関係に巻き込まれて苦労が多くて大変だ(大変ね)と考えていたようであるが、最近では、この点の男女差はなくなったといえよう。

 戦後の大きな意識変化が見られるのは「苦しみ」よりむしろ「楽しみ」の男女差についての見方である。男性の場合、男の方が楽しみが多いとしているが、その割合は下がってきている。むしろ女の楽しみの方が多いのではと思う男性が増えている。女性の場合は、大変化であり、昔は男の方が楽しみが多く、女は楽しみが少ないと思っていたのに、最近は、女の方が楽しみが多く、男は楽しみが少ないと評価しているのである(末尾の【コラム1】参照)。

 すなわち、結論的にまとめると、女性が、もう一度生まれるなら女に生まれてきたいと考えるに至ったのは、苦労の面の変化というより、楽しい人生を送れるのは女だと思うようになったからである。おしゃれして快活に笑っている美しい女性が多くなったと感じるにつけ、なるほどと思わせる意識調査結果である(なお同じ結論をうかがわせる男女の生活時間の内容変化を図録2320で掲げた。また日本、韓国、中国、米国の女子高校生に対する同じ問の回答結果は図録2482参照)。

 フェミニストは女性の目線ではなく、男性の目線で女性の生活や人生を評価している人たちではなかろうかと感じさせるデータでもある。何か勘違いをしているのは女性の方なのか、男性の方なのかよく考えてみる必要があろう。私は女性の方が勘違いしているとはどうしても思えない。この点については【コラム2】参照。

 なお、2008〜13年の変化としては、女は「苦労」も「楽しみ」もより多いと考えられるようになっており、その結果、両方が打ち消しあうようなかたちで「生まれ変わるとしたら男がいいか女がいいか」については回答は不変だった。

 関連した応用問題として、欲しい子どもは男の子か女の子かに関する調査結果にふれた図録2477を参照のこと。また本図録を裏づけるデータとして、男女年齢を問わず男より女の方が楽しい時間を過ごしている点については、図録2470参照。

【コラム1】笑いながら暮らす女性
       −女性が「笑顔」になる1日の平均時間は男性の2倍以上−

 住友生命保険が実施し、8月12日に公表したインターネットによるアンケート調査の結果分析によると「男性の笑顔の平均時間は1日当たり1時間16分だったのに対し、女性は2時間41分だった。

 男女の世代別では、20代以下の女性が最も長く、最も短かったのは40代と、50代以上の男性。男性は20代以下をピークに年齢を経るほど笑顔が減る傾向だ。

 一方、女性は30代と40代で若干減るものの、常に男性のほぼ2倍。50代以上は3倍近くに”格差”が広がった。」(東京新聞2010年8月13日)

【コラム2】リケジョ・ブームにひそむ危険

 この図録がうかがわせる社会背景を象徴する女性の活躍事例として、なでしこジャパンなどオリンピック等のスポーツ世界大会での女性選手の活躍、また最近では、リケジョ(理系女子)の活躍、特に、それを代表する事例として、2014年1月に万能細胞STAPの開発がメディアに大きく取り上げている理研発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子さん(30)の存在などが挙げられた(その後、落ちた偶像となったが)。小保方晴子さんについては、ファッションブランドから、写真特集、中学の作文を発掘して掲載、近所・知り合いの評判記など、研究成果に関係がない報道の過熱で研究活動に支障が出ていることが問題にされた。サイエンスライターの内田麻理香は、リケジョ・ブームに潜む問題点について、以下のようにブログ(2013/07/14)で書いているが、こうした点を先取りして警告する記事に結果としてなっていたといえよう。

 最近、リケジョ(*1)という言葉を耳にするようになり、理系女性に注目が集まっている。私も、及ばずながら理科系学問に関わる男女差に関し、協力できることがあれば協力してきたつもりだ。でも、その「リケジョ的方針」はあくまで「おじさま目線」のもの、取り組みが多いような気がしてならない。「理系女子、大歓迎!僕は好きだよ、応援するよ」…これは理系という現在のところ数少ない「アクセサリー」のある女性が良い、と言っているに過ぎない。装飾品としての理系。リケジョ、理系女子のアピールは「理系女子『だって』可愛いんです!キラキラしているんです!」路線が目立つ。これが理系女子を増やすことに繋がるのだろうか?

 理系女子・女性のイメージが悪いと思われるケースは少なくない。「理系に行ったら、自分の女性性が損なわれるのでは?」と心配している女子中高生も一定数いるだろうから、彼女らには有効だろう。しかし、おじさま目線の「理系女子だって可愛いよね」は、「ただ理系学問に興味があるのに、可愛らしさまで求められるのか?」とうんざりしてしまうに違いない。あと、まずいなと感じるのが、キラキラ理系女子路線に疑いもなく(ないように見える)乗っかってしまっていること。「おじさま目線を女性らが自らのものにして、それが自分の価値観となってしまっている」からだ。男性目線を気にするあまり、その男性の価値観に染まっている。厳しい言い方をすれば、おじさま目線を内なる指標とした「リケジョ」さんたちが、性差別を助長しているのだ。

*1:講談社の登録商標。調べれば出てきます。

 ボーボワールの「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」という有名なセリフなど、知らず知らずに男性の見方を女性が自分の価値観にしてしまう危険性がかねてより指摘されているところであるが、この記事も同様のことを危惧している。もちろん、小保方晴子さんがそうした危険に陥っているリケジョだということではないが。・・・と書いていたら、本当に、彼女はそうした危険に陥っていたことが明らかになった。

 ところで、私の考えによれば、本来、そうした危険からフリーであることを自認しているフェミニストじたいが、社会的事実については、男性の勘違いを共有している場合が多いのである。女性は恵まれていないという無理やりの論陣を張るのではなく、男性が恵まれていないのは女性にとっても不幸。なぜなら、男性が幸福になれないと女性も幸福になれないし、それ以上に、女性の幸福自体がいびつになって、本来ののびのびした幸せが得られないから、と主張すべきなのである(図録2473参照)。例えば、女性が管理職の責任と喜びを味わえないようでは、たとえ、苦労や楽しみの点で、それが女性に有利だとしても、やはり「いびつ」な幸福にしかつながっていないといえよう(図録3140)。

【コラム3】苦楽に関する男女の自己評価


 ここで掲げた図は、本文の図のデータを組み替えて、男の苦労、楽しみを男性の回答から追い、女の苦労、楽しみを女性の回答から追った結果である。

 この図で男女の苦楽を追ってみると、男性はいつでも異性との対比で楽しみの方が苦労より多いと感じているのに対して、女性は、かつては男性とは異なって楽しみより苦労が勝っていると感じていたのに、今では、楽しみの方が苦労を大きく上回ると感じるようになる大逆転が起こったことがよく分かる。

 これは本文の図でも分かることだったが、こちらの図からは、もう1つ、重要なことに気づかされる。すなわち、男性のほうは、苦労にせよ楽しみにせよ相対的に小さくなって来ているのに対して、女性の方は苦労は、一度下がった後、いくらか増加傾向、楽しみは一貫して急拡大と全体的には上昇傾向にある点が目立っている。人生を送る中で、男性は苦楽のテンションが下がり、女性は苦楽のテンションが上がって来ているのである。女性は苦労が多くなったと感じている訳であるが、それ以上に、楽しみが多くなったとも感じており、生きる醍醐味を大いに味わうようになったといえるだろう。

 図録2720(予定)でどんな悩みやストレスを男女が年齢ごとに感じているかについてふれるつもりであるが、女性の方が何かにつけて悩みやストレスが多いことが裏づけられている。だからといって、女性の方が不幸だと考えたらおかしくなることを示すために、ここで掲げた図が役立つのである。

(2010年3月4日収録、8月13日コラム追加、2014年2月1日コラム2追加、2014年10月31日更新、コラム2補訂、12月17日コラム3追加)


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