日本の職場において女性の力が充分に活用されていない例として、管理職の女性比率が低いことが指摘される。政府(安倍政権)は2014年策定の成長戦略で女性の活用を柱に掲げ、社会のあらゆる分野で「2020年に指導的地位に占める女性の割合を30%にする」との目標を掲げている(注)。この図録では、管理職女性比率について、日本の現状を諸外国との比較で明らかにしておこう。

(注)「202030」とも呼ばれる。もとは2003年の小泉政権下で掲げられた国の目標。2020年には「2030年までのできるだけ早期」にと先送りされた。

 就業者の分類として、産業分類と職業分類とがあり、いずれも、国際的に基準の統一が図られている。産業分類は就業者の職場がどの産業に属しているかの分類であり、職業分類は、就業者がそこで主にどんな仕事をしているかの分類である。職業分類には、管理職という区分がある。ここには、議員や上級公務員も含まれているが、ほとんどは企業の管理職(マネージャー)である。そこで、この管理職区分の女性比率をグラフにした。なお、産業分類上の公務員(行政部門就業者)の女性比率については、図録5190、図録5193参照。

 日本の値は11.1%と韓国を除くと最も低くなっており、米国の43.7%の約4分の1、同じアジアの香港の32.8%と比較しても極端に低く、やはり日本は大きく世界の潮流から遅れていると見なせる。日本の管理職女性比率の低さは、海外と日本のテレビドラマの女性登場人物の状況を比較すると分かりやすい(巻末コラム参照)。

 ただし、気をつけておくべきなのは、どこまでを管理職ととらえるかが国ごとにかなり異なるという点である。日本では、民間企業の管理職の女性割合(2012年)が係長相当職で14.4%、課長相当職で7.9%、部長相当職で4.9%である(平成25年版男女共同参画白書)。すなわち上位の管理職ほど女性の比率が小さくなっているのである。日本では管理職の定義はおおむね課長以上ということになっているが、国名の下に付記した各国の管理職割合を見ても分かるとおり、諸外国では課長まで行かない小さな職場単位の責任者でも管理職と捉えている場合が多いと考えられる。そうであれば、日本の係長相当職のように女性比率はそれだけ高くなるわけである。
(注)管理職の定義

 管理職(管理的職業従事者)の定義は、日本標準職業分類(平成21年)によれば、「事業経営方針の決定・経営方針に基づく執行計画の樹立・作業の監督・統制など、経営体の全般又は課(課相当を含む)以上の内部組織の経営・管理に従事するものをいう。国・地方公共団体の各機関の公選された公務員も含まれる。」となっている。国会や自治体議会の議員を除けば、会社やその他の団体の役員や課長以上ということであり、だいたい、一般的な通念と同じと考えられる。ILOが定めている国際標準分類(ISCO-08)の定義もほぼ同様であるが、「課(課相当を含む)以上の」がすっぽり抜けており、内部組織(organizational units)としてどこまで含めるかによって国ごとの大きなちがいが生じうると考えられる。実際、日本のように2.4%しか管理職がいない国と米国のように15.9%が管理職の国とでは管理職じたいの性格が異なると考えなければならない。

 これを年齢分布の点から示す図を下に掲げた。日本の場合、他国と比較して、30代半ばまで、特に20代には管理職に就く者が非常に少なく、逆に、50代では非常に多いことが分かる。管理職じたいの性格が異なると考えないとこれは理解が出来ない。なお、案外、日本と似ているのは米国であることも分かり、興味深い。



 そこで、管理職割合と女性比率の相関図にしたので見て欲しい。この図から管理職の定義を広く取っている国ほど女性比率が高くなっていることが分かる。この傾向を一次回帰直線があらわしているが、この線から下に離れているほど管理職に女性が少ないと判断すべきなのである。

 すると、日本は、やはり、女性の管理職登用が少ないと判断することが妥当である。それとともに、日本とともに儒教圏に属する韓国、香港、シンガポールがいずれも一次回帰直線より下に位置しており、職場における男女共同参画はこうした国の共通課題であることにも気づかされる。

 米国において女性の活躍が目立つ根拠として米国の管理職女性比率の高さが指摘されることも多いが、図に見られるように、米国の位置は一次回帰直線を上回るもののそこからそれほど離れていない。従って米国の管理職女性比率の高さは、管理職種を幅広く考えているという要因が大きいことがうかがわれる。

 一方、フィリピンの管理職女性比率の高さについては、一次回帰直線からの乖離度も非常に大きい。従って、フィリピンの女性登用は掛け値なしに世界一といえよう。フィリピンはアジア途上国の中では、女性教育のレベルがもっとも高い国である(図録3930に見られるとおりフィリピンの就学年数は男女同レベル)。フィリピンの管理職女性比率の高さはこうした背景によるものと考えられる。

 冒頭に紹介した政府の女性管理職30%目標も管理職比率が日本よりずっと高いオーストラリアの水準というより、日本に近いデンマーク、タイ、ドイツの水準ととらえる必要があろう。


 さらに、各国の労働力調査の結果ではない別ソースのデータでも同じことが当て嵌まっているかを検証しておこう。上には、各国研究機関が共同で実施している国際比較調査のISSP調査の結果から、他の従業員を管理・監督する立場にある(あった)者(Do/did you supervise other employees?にYesと回答した者)を管理職経験者とし、上と同様の考え方で相関図を描いた。

 退職後の高齢者までカウントしているので、管理職比率より管理職経験者比率が当然高くなる。X軸の幅は20%でなく50%である点にこのことがあらわれている。この点を考えに入れてデータを見なければならない。

 ロシア、ラトビア、リトアニア、チェコ、ブルガリアといった旧ソ連・東欧圏の国で、おそらく社会主義的な男女平等の考え方の影響で、管理職経験者比率が低い割に女性比率が高いのが目立っているが、これを除くと、やはり管理職の幅を大きくとる国ほど管理職の女性比率も高いという傾向が認められる。日本は、管理職経験者比率が低い以上に女性比率は低くなっているとやはりいえるだろう。

 ただし、フィリピンはこちらでは両比率ともに高くはなく、食い違いが目立っている。フィリピンの場合はマネージャーと言う職業分類は実際は他の従業員を管理・監督する職業ではないのではなかろうか。また、理由は分らないが、韓国の場合、女性比率がやけに高い点が目立つ。

【コラム】日本のテレビドラマは「おっさんだらけ」

 日本の管理職女性比率の低さは、「ホームランド」、「ファーゴ」、「コペンハーゲン(BORGEN)」、「ブリッジ」など海外の人気ドラマにおける捜査官や政治家、ジャーナリスト、スパイ、犯罪者などの女性の活躍と比較して、日本のテレビドラマの女性登場人物の低調な状況を例にとると分かりやすい。こうした点につて皮肉たっぷりにふれている文章を、東京新聞の「本音のコラム」の斎藤美奈子「おっさんだらけ」(2020年7月29日)から以下に引用する。

 50%どころか30%の管理職すらいない職場が絵的にどう見えるか。端的にいえばそれは「おっさんだらけ」である。

 最近のテレビドラマを考えてみよう。「半沢直樹」はどうですか。東京セントラル証券も東京中央銀行もおっさんだらけですよね。「ハケンの品格」はどうでしょう。主人公はじめ三人の女性は派遣社員。S&Fなる食品会社も社長も部長も課長もおっさんだ。「半沢直樹」は七年ぶり、「ハケンの品格」は十三年ぶりの新作なのに前と何も変わっていない。

 企業ドラマも警察ドラマもおっさんだらけで、女性の登場人物は職場のアイドル的な若手社員と内助の功を発揮する妻と小料理屋の女将(おかみ)だけ。それが日本のドラマの伝統で、理由はおそらくテレビ局の上部もおっさんだらけだからだろう。

 当図録で取り上げた国数は22であり、具体的には、管理職女性比率の高い順に、フィリピン、米国、フランス、ロシア、ブラジル、カナダ、スウェーデン、オーストラリア、英国、ニュージーランド、シンガポール、香港、ノルウェー、フィンランド、オランダ、ドイツ、デンマーク、タイ、イタリア、マレーシア、日本、韓国である。また、ISSP調査の対象国は、やはり管理職女性比率の高い順に、アイルランド、オーストラリア、フランス、英国、米国、ドイツ、デンマーク、アイスランド、ノルウェー、ポーランド、スイス、スロベニア、イスラエル、スウェーデン、フィンランド、スペイン、メキシコ、中国、韓国、アルゼンチン、クロアチア、チリ、ロシア、スロバキア、ラトビア、ベネズエラ、台湾、オーストリア、チェコ、リトアニア、ブルガリア、インド、トルコ、フィリピン、日本、南アフリカである。

(2014年1月29日収録、8月20日更新、2015年6月24日ISSP調査結果を追加、6月26日同左カナダ除外、2019年5月6日管理職年齢分布,2020年7月29日コラム)


[ 本図録と関連するコンテンツ ]



関連図録リスト
分野 労働
テーマ  
情報提供 図書案内
アマゾン検索

 

(ここからの購入による紹介料がサイト支援につながります。是非ご協力下さい)