NHK放送文化研究所が2008年に行った「テレビと気分」調査は、テレビ・ラジオの視聴の際の気分を調べようとしたものであるが、テレビ視聴だけでなく、食事や仕事やレジャーなどすべての生活行動にわたって、その時、楽しかったのか、忙しかったのか、退屈していたのかなど6区分でその時の気分を訊いている。 A.楽しい時間の長さ 男女年齢別に集計した楽しかった時間の合計をグラフにしてみると、3つの点が明解である。 (1)若い世代の方が楽しい時間が多い (2)女の方が男より楽しく生活している (3)20歳代の男性は女性ほど楽しくしていない 第一に、若い世代の方が楽しい時間が多いという点については、日曜日の結果に端的にあらわれている。男女ともに年齢が加わるのに比例して楽しい時間は減る傾向にある。ただし40歳代は女はそれほど減らず、40歳代なりの楽しみが多い(多分子どもとのかかわりや子どもを媒介とした付き合いなどによるもの)のに対して、男は大きく楽しい時間が減ってしまい、50歳代より楽しい時間が少ない。 平日である月曜日については、こうした年齢に伴う低減傾向は明確ではなくなる。女は、20歳代では平日でも楽しい時間が2時間以上と多いが、30歳以上でも1時間半程度は楽しい時間を維持している。男は、若い時期は1時間ほど楽しい時間があるが、40〜50歳代では20分と一日の中で楽しい時間はほんの少しとなる。むしろ、定年後の者が多い60歳以上で楽しい時間が復活する。70歳以上であると20歳代より楽しい時間が多い。 第二に、女の方が男より楽しく生活していることは確かである。平日、日曜ともに、すべての年齢で女の過ごす楽しい時間が男の過ごす楽しい時間より多い。 平日では20〜50歳代、日曜では20〜40歳代で男と女との格差が大きい。特に、40歳代の男は一週間を通して、絶対量でも、女との対比でも、楽しい時間は少なく、ほとんど悲惨ともいうべき毎日を送っていると云って良いであろう。 第三に、若い世代の象徴である20歳代の男女を比較すると女性は他の世代に比べて非常に楽しく過ごしているが、男性の方は、女性ほど他世代との差が顕著でない。ここに「草食男子」と「肉食女子」という現象の反映を見ることも可能である。昭和20年代生まれの私が中学生の頃、廊下で大きな声で騒いでいたのはもっぱら男子であり、女子は静かにしていたことを思い出す。最近の学校では女子の笑い声の方が目立つようである。 B.楽しい時間の割合(日曜日の行動について) こうした男女差が生じている理由としては、そもそも楽しいことが多い行動を女の方が多く行っているという側面もあろうが、何をするにせよ男より女の方が楽しみながら行っているという側面もあるであろう。後者の側面を確かめるため、日曜日の生活行動毎に男女の楽しい時間の割合を比較した。 これを見ると、「友人との会話」と「家事」を除いて、すべての行動で男性有職者は女性有職者より楽しい時間の割合が小さくなっている(「家事」については男は行う時間が少なく、また買物に特化しているので、楽しい時間の割合は余り意味がない)。生活の各側面にわたって女性の方が男性より生活をエンジョイしているのである。 女性有職者の「子どもなし」と「子どもあり」を比較すると、社会参加、家族との会話、テレビ、家事で「子どもあり」の方が楽しい時間が多くなっている。子どものいる女性有職者は非常に忙しい毎日を送っており、自由時間も少ないが、だからといって毎日が楽しくない訳でないのである。資料出所であるNHK放送文化研究所「放送研究と調査」2009年7月号ではこう述べている。「女性有職者(子どもあり)は、忙しい生活の中でも、より”楽しい”と感じている。この結果は、「『自由行動』時間の短さ=生活の『質』の低さ」といったような単純な構図で、生活時間調査の結果を説明しきれないということを示唆している。」 C.まとめ 若い男女の方が年寄りより楽しく暮らしているのは社会として正常なことであろう。そういう社会をつくるのが大人の役割であろう。平日の男20歳代の楽しい時間が男70歳以上より少ないのはむしろ問題である。 女性が笑顔でいれば男も幸せになれるので女が男より楽しい時間を送っているのは悪くない。逆であれば男として情けないという感じになるであろう。 ただし、男20歳代〜50歳代の楽しい時間をもう少し女性レベルに近づけた方が世の中全体が明るくなると思われる。男女共同参画は引き続き推進すべき課題であるがそれ以上に男子脱草食化計画や中年男性再活性化計画にも力を入れるべきである(図録3184参照)。 図録2475(生まれ変わるとしたら男がいいか女がいいか)では、女性の楽しみが増えているため、女に生まれ変わりたいとする女性が男に生まれ変わりたいとする女性を上回るに至っている点にふれたが、この図録はこれを裏づけるデータである。 D.米国との比較 米国では、幸福度(Subjective Well-being)指数をより客観的に計測しようとして、生活時間の感情調査から不快時間指数(U-index、Unpleasantness指数、楽しくない時間指数)が開発されている。下には結果の例を掲げた。これを見ると、日本とは反対に男性の方が女性より楽しい時間(不快でない時間)を多くすごしているとみられる。なお、年齢的には、65歳以上高齢者の方が不快時間指数が小さい(楽しく過ごしている)点は、日本の男性に近いパターンである。一方、婚姻状況別には、有配偶、離別では男女に差がないが、死別、未婚、同棲では男性の方が女性より楽しく過ごしており、この点は、日本と逆と思われる(図録2471予定)。
(2010年12月28日収録、2011年1月14日草食男子コメント追加、2014年8月18日米国U-Index紹介)
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