ここでは、1次活動の内訳である睡眠、食事、身の回りの用事の生活時間の推移(有業者)と身の回りの時間の男女年齢別結果をグラフにした。 都道府県別の食事時間については図録7322に掲げた。 時系列変化は有業者ベースで追っている。学生・無業者を含んだ国民全体ベースで変化を追うと、有業率(労働力率)の変化や年齢構成の変化による生活時間の変化の要素が含まれてしまう。例えば高齢化が進めば、働いていない高齢者の割合が増え、仕事時間は平均で減少する。また、女性について有業率(労働力率)が上昇すれば、仕事時間が平均で増加する。有業者ベースで変化を追えば、こうした要素を除去して、変化の内容を評価することができるのである。 1976年以降の40年間の推移で目立っているのは、男女とも、睡眠時間の減少と身の回りの用事の時間の増加である。食事時間は1981年にかなり増加したのを除くとほぼ横ばいの傾向である。男性については、睡眠が43分短くなっており、身の回りの用事は17分長くなっている。女性については、睡眠が30分短くなっており、身の回りの用事が24分長くなっている。このように、睡眠の減少に身の回りの用事の増加がほぼ対応している(特に女性で)。 男女のちがいとしては、食事時間はほぼ同レベルであるが、全体として、睡眠は、女性の方が短く、身の回りの用事は女性の方が長くなっている。すなわち2016年で見ると、女性の睡眠は男性より14分短く、女性の身の回りの用事は男性より23分長くなっており、身の回りの用事を男性に近づければ女性の睡眠不足は解消するという形になっている。 睡眠、食事、身の回りの用事は、生理的な点で共通しているばかりでなく、時間的にも、朝起きてからと夜寝る前に隣接して営まれる点で相互関係が強いと思われる。上で述べた睡眠と身の回りの用事の時間の時系列的な変化の補完関係、及び男女の時間の補完関係から判断すると、どうやら、この40年間、日本人、特に女性は睡眠を減らして、身の回りの用事を増やしてきたと推測される。 それでは、身の回りの用事の中で何を増やしてきたのであろうか。身の回りの用事の内訳は、洗顔、入浴、トイレ、身じたく、着替え、化粧、整髪、ひげそり、理・美容室でのパーマ・カットなどである。純粋生理的なトイレなどは、そんなに増加するわけはないとすると、やはり、身だしなみや着替え、化粧や身体ケア、及び入浴、一言でいえば「おしゃれ」に時間を多くかけるようになったと考えざるを得ない。美容師の数は、同じ40年間にほぼ2倍になっているが(図録3550参照)、ここでの身の回りの用事にかける時間の増加と平行した現象と考えられる。また、若い女性から30〜40代の女性まで痩身(やせ)志向が進んでいる点も平行的な現象と考えられる(図録2200参照)。 日本人の生活時間の変化は、1次活動だけでなく、2次活動、3次活動を含めた全体で判断する必要がある。生活時間全体での時系列変化の分析は、図録2320で行っている。身の回りの用事に時間をかけるということは、自己満足的な行動の側面もあろうが、それだけとはいえず、移動時間(通勤・通学以外)の増加や外出先での自由時間活動の増加とリンクしていると考えられる。おしゃれな自分、格好いい自分を見てもらうということに満足を見出すものであることは言うまでもなかろう(図録7320xに都道府県別の自由時間との相関をグラフ化)。 さらに、睡眠時間と身の回りの用事時間の関係については、おしゃれして出掛けるのに忙しくて睡眠時間を減らしたという関連のほかに、入浴頻度が上がり、入浴の安眠効果によりぐっすり眠れるようになったため睡眠時間を減らしても疲れは取れるようになった、という関連もあるかも知れない。日本人の睡眠時間の減少については、労働時間が長くなって睡眠が減ったと簡単に考えてしまい(実際は労働時間は減少しているのに−図録2320)、他の要因分析が行われないのは、妙なことである。国際的に見て、日本人の睡眠時間が短いのは、入浴時間を他民族より多く取っているからだと考えられないわけでもない(睡眠時間の国際比較は図録2329参照)。 次ぎに、こうした時系列分析の背景把握として、男女年齢別の睡眠、食事、身の回りの時間がどうなっているかを見ておこう。 3つの活動ともに、高齢者がかける時間は長い。特に睡眠時間は高齢者では非常に長い。 睡眠時間が最も短いのは、男性では40歳代前半、女性では40歳代後半の世代である。逆に男女とも85歳以上で10時間と睡眠時間は最も長く、睡眠が最も短い働き盛りの年代と比べ、男性では2時間半、女性では3時間も長くなっている。 食事は10代後半〜20歳代前半以降は、一貫して長くなっていく傾向にある。男性の20歳代前半の食事時間が特に短いのが目立っている。 身の回りの用事の時間は、全体として、女性が男性を上回っており、身だしなみや美しさ、清潔さ、おしゃれにかける思いの程度の違いをあらわしている。女性は、化粧をはじめる20歳前半で所要時間が長くなり、その後、所要時間は短くなるが、高齢期になって再び所要時間が睡眠等と同様長くなる。高齢期では、恐らく、生理的に所要時間が長くなるためと思われる。男性の場合は、加齢とともに一貫して所要時間が長くなる傾向にある(特に60歳以上)。睡眠、食事と異なる身の回りの用事のこうした男女別年齢別のパターンの違いにも、上述のような身の回りの用事の特殊な性格があらわれているといえる。 身の回りの用事の時間の1996年から2016年にかけての20年間の伸びを男女年齢別に見ると40代〜50代前半の女性の時間の増加が特に大きく、この年代のおしゃれ努力度が増しているのだと考えられる。 (参考) 生活行動の種類と区分
(2006年8月22日収録、2007年10月19日更新、2012年10月1日更新、2014年12月31日入浴の安眠効果についてコメント追加、2017年9月26日更新)
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