OECDが整理している各国の睡眠時間のランキングを低い方から図にした。対象国はOECD諸国に加えて参照国としてインド、中国、南アフリカが取り上げられている。日本やEUの生活時間調査によれば一般に睡眠時間は高齢者ほど長くなる傾向がある(図録2325参照)ので、高齢化の比率によるバイアスを除くため、ここでは高齢者を除いた成人の睡眠時間を比較している。

 各国の睡眠時間はけっこう差がある。最も良く眠る南アフリカ人(9時間13分)と最も眠らない日本人(7時間22分)の間には2時間近いの差があるのである。G7諸国だけをとっても米国(8時間51分)と日本とではかなりの差がある。

 日本人は韓国人とともに最も眠らない部類に属する。

 日本人は多忙なので睡眠時間が少ないという見方もあろうが、日本人と同じように多忙国民と見なされる米国人は南アフリカ人、中国人に次いで睡眠時間が長くなっており、単純な要因論では解釈しがたいようだ。

 こうした国際比較からは、日本人は忙しいように見えて、実は起きているときにそれほどテンションが高くない時間の過ごし方をしているので睡眠がそれほど必要ないが、米国や中国などは起床時のテンションが高いために、夜は疲れて長く寝る必要があるというような論を立てたくなる。

 実際、テンションが高いと多くなると考えられる食事量(供給カロリー)と睡眠時間の相関図を描いて見ると(下図)、両者には相関が認められる。


 現代人は夜も必ず灯りが点灯しているような都会生活の中で忙しい毎日を送っているので睡眠時間が短くなりがちだと考えられているが、それでは、原始人に近い生活を送っている人々はどれだけ眠っているのだろうかと調べた研究チームがある。自然の中で狩猟採集を中心として暮らすアフリカとボリビアの3つの未開部族の94人に調査のための器具を装着してもらい、延べ1,165日のデータを集めた結果では、彼らの睡眠時間は5.7時間から7.3時間であり平均すると約6.5時間だったという(The Economist October 17th 2015)。案外と未開人の睡眠時間は短いのである。

 こうした未開部族の短睡眠傾向は、昼間の仕事の忙しさや人間関係のストレスが少ないためと考えると、テンションと睡眠時間の相関論とも整合している。そうだとすると日本人は文明国でありながら未開部族のような平穏な生活を送れてるとも言える。

 日本人の生活時間の変化を追うと睡眠時間も仕事時間もともに短くなってきている(図録2320参照)。さらにこれらは食事量(供給カロリー)の減少傾向とも軌を一にしており、すべてが日本人の省エネ生活への傾斜を示していると考えると理解しやすい。

 男女別の睡眠時間についても図中に点グラフで示したが、多くの国では女性の方が男性より睡眠時間が長くなっている。

 日本人は、逆に、男性の方が女性より長く寝ている点が目立っている。日本と同じように男性の睡眠時間の方が長いのは、ギリシャ、スペイン、インドなど少数である。

 これについて、女性の方が忙しいためであり、男女差別のしわよせが女性に寄っているためだと立論すれば通りがよい。しかし、女性の方が生活のストレスから逃れられており、そんなに寝ないでも済んでいると考えることもできる。逆に、女性の方が睡眠時間の長い国の方が女性のストレスが大きい女性差別の国であり、また、それが世界の通例と考える方がリーズナブルである。そう考えると日本人が女性の幸福度が男性を上回っている珍しい国民だという国際意識調査の結果とも整合的である(図録2472、図録9488参照)。

 (2024年3月16日に更新した図録はタビジン・サイトを出所としたものであったが、原データに当たらなかったため高齢者を除外した数字であることが分からず、勘違いしたコメントになっていたし、高齢者を含む2006年版のデータとの比較もおかしかった。同年12月8日に修正しておいた。)


(更新前2006年版のコメント)

 上には、更新前の2006年版のランキング図と高齢化率との相関図を掲げた。以下は、それに対するコメントである。

 OECD諸国の睡眠時間を比較したグラフを掲げた。出所は、OECD, Society at a Glance 2009: OECD Social Indicators

 各国の睡眠時間はけっこう差がある。最も良く眠るフランス人(8時間50分)と最も眠らない韓国人(7時間49分)の間には1時間の差があるのである。

 日本人は韓国人とともに最も眠らない部類に属する。日本やEUの生活時間調査によれば一般に睡眠時間は高齢者ほど長くなる傾向がある(図録2325参照)。日本の高齢化率はOECD諸国の中で最も高いので、最も睡眠時間が長くても良いはずなのに、逆に最も短いという点はやはり驚異的である。

 日本人は多忙なので睡眠時間が少ないという見方もあろうが、日本人と同じように多忙国民と見なされる米国人はフランス人に次いで睡眠時間が長くなっており、単純な要因論では解釈しがたいようだ。性生活時間はどの国の生活時間調査でも調べられていないのでおそらく睡眠時間に含まれていると考えるとその影響も無視できないだろう(図録2319参照)。

 高齢者の方が睡眠時間が長いから(図録2325)、睡眠時間と高齢化率とは当然相関があるのではとX軸に65歳人口比率、Y軸に睡眠時間を取って描いた相関図を上に掲げた。

 図を見ると、想定外であったが、両者の間には相関が見られない。日本のように高齢者の多い国でも睡眠時間が短い国もあれば、トルコやメキシコのように高齢者は多くないにもかかわらず睡眠時間は長い国もある。

 トルコ、メキシコ、韓国といった途上国、あるいは少し前まで途上国の国を除いて先進各国の分布を鳥瞰すると、むしろ、高齢化率の高い国ほど睡眠時間が短くなるというような傾向も認められないでもない。これはいったいどうした事態か?謎である。

 アジア太平洋諸国の睡眠時間比較は図録2329a参照。

(2010年9月21日収録、2012年8月25日コメント加筆、2015年12月3日未開人についてのコメント追加、2024年3月16日2021年版データに更新、12月8日・9日修正)


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