国民の家庭観について、「夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである」という従来型の典型的な考え方がどう変化しているかをグラフで示した。データは内閣府世論調査の結果である。2016年から18〜19歳も対象に加わっている。国際比較については図録2411参照。

 図のように、2012年における「賛成」の逆転は、2014年以降、再逆転し、ふたたび「反対」が「賛成」を上回る傾向となった。やはり、2012年調査で賛成が増えた背景には、東日本大震災によって家族の絆を再認識するムードが強まった影響があったためとみられる。なお、同じ調査の女性の職業に関する設問の結果も同様の動きを示している(図録2409参照)。

 なお、実態上は、専業主婦世帯は減少し続けている(図録1480)。

 地域別に2022年の結果を見てみると、都市化が進んでいる地域ほど、旧来型でない見方が多くを占め、「反対」が多いかというと、必ずしもそうでない。むしろ、大都市、中都市より小都市でやや反対が増える。そして町村部は、反対がもっとも減り、賛成は最も多くなる。

 農林漁業のシェアが大きい中小都市ではもともと女性が家庭だけでなく、仕事でも大きな役割を果たしていたという側面や地方圏では経済低迷が続いて妻が働かざるを得ず、また3世代同居が多く、祖父母に子供を預けて妻が働きに出やすいという側面などが考えられる。町村部で逆に旧来型の意見が多くなるのは、市町村合併で町村自体の数が減ったので、町村ではリタイヤした高齢者が多くを占めているからだとも考えられる。

 専業主婦かキャリアウーマンかという女性のライフコースについて、男性の期待と女性の予定の推移を図録2408に示した。

 男女別に「賛成」の割合の推移を追ってみると(下図参照)、2007年までは男女差が広がったがそれ以降は、男女差が縮まっており、2016年以降は、再度、差が広がった。一時期、女性の方が家族の絆志向や専業主婦志向が強まっていたが現在では旧来の流れとなったといえよう。

 2019年について男女年齢別に見てみると、70歳以上は専業主婦志向が高く、伝統的な考え方を高齢者ほど強くもっているといえるが、60歳代以下では、むしろ、若い世代、特に30代の女性で、伝統的となっているのが目立つ。戦後の進歩的とされてきた考え方の影響が薄れ、むしろ、実際に子育てを担う世代ほどいわば儒教的ともいえる伝統的な考えに回帰しているのではなかろうか。

 2012年には若い世代ほど男女差が大きかったのとは異なり、最近は男性の理解が女性と一致するようになっているので男女差が若い世代ほど小さくなっている点が興味深い。

 海外では伝統的考えへの回帰が非西欧で起こっている点については図録2411参照。

 なお、30代(2016年には20代)の女性で「賛成」が多い点については、一般的には、「30代以上は少しずつ出産後の就業継続をイメージできるようになってきた。一方、20代は両立が大変で子どもが犠牲になるのではと漠然と不安に感じている。政府の「女性活躍推進」が、社会全体の価値観を転換させるには至っていないということだ」(大沢真知子・日本女子大現代女性キャリア研究所所長、毎日新聞2016.10.30)といった理解がされている。


(2014年調査結果の段階のコメント−後半)

 男女年齢別に見てみると、60歳代以上は専業主婦志向が高く、伝統的な考え方を高齢者ほど強くもっているといえるが、50歳代以下では、むしろ、若い世代ほど考え方が伝統的となっているのが目立った特徴である。戦後の進歩的とされてきた考え方の影響が薄れ、むしろ、若い世代ほどいわば儒教的ともいえる伝統的な考えに回帰しているのではなかろうか。しかも、若い男性のほうが若い女性よりこうした傾向が強い点も目立っている。実際のところは、専業主婦世帯は減少を続けているので(図録1480)、若い男性ほど現実とのギャップに苦しむ結果となっているのではなかろうか。

 男女の幸福度格差が狭まらない理由の1つの要因はここら辺にありそうである(図録2472)。韓国、台湾など日本以外の需要圏諸国でも同様の変化が起こっている可能性があろう。

(2012年調査結果の段階のコメント)

 2012年の結果はこれまでの傾向が逆転し、その逆転が非常に明確な点に特徴がある。msn産経ニュースによれば「内閣府の担当者は「東日本大震災後の家族の絆をより重視する傾向の表れとみられる」と分析している。」」(2012.12.15)とのことであるが、前回調査との間で起こった変化を思い起こせば当然そういう見方となる。問題はこれが一時的現象なのか、あるいは逆方向のはじまりなのかである。

 同じような動向は、2011年10月に行われた生活時間調査で、家族との団らんを含む「休養・くつろぎ」の時間が5年前の調査と比較してこれまでのトレンド以上に増加した点にも認められる(図録2320参照)。

 地域別では大都市ほど従来型意見というべき賛成が多いという都市規模別のパターンは同じであるが、賛成と反対の比率が全体的に賛成の方にシフトしている。

(2009年調査結果の段階のコメント)

 1979年当時は、「賛成」が7割以上、反対が2割と大勢を占める考え方であったが、年を経る毎に「賛成」が減り、「反対」が増加し、2002年には、同じ回答率となり、2004年にはついに逆転し、2009年には「賛成」が41.3%、「反対」が55.1%とかなり反対が上回る結果になっている。

(参考)
 同様の問(「夫は外で働き、妻は主婦業に専念すべきだ」)を既婚女性について訊いている全国家庭動向調査が国立社会保障・人口問題研究所によって1993年から5年おきに行われている。第4回調査(2008年)の結果概要によれば、はじめて、問に賛成と答えた専業主婦派の妻が増加した。「前回調査(03年)より3.9ポイント上昇の45%で、特に29歳以下(47.9%)が12.2ポイントの大幅アップとなった。「母親は育児に専念した方がよい」とする割合も増加しており、調査担当者は「伝統的価値観を否定する回答が増えていたこれまでの傾向に変化の兆しがみられる」と分析」(東京新聞2010.6.1)。

 下図はさらにその後の2018年までの変化である。下図は有配偶女性のみの結果なので離別死別女性を含んだ上記の数字とは異なっているが、変化の動きは同じである。2013年以降は再度賛成が減る傾向となった。2008年の賛成の増加は一時的なものだったと考えざるをえない。最新の結果では年齢別にみると若い世代ほど賛成が多くなる点が特徴であるが、20代以下では逆に30代より賛成が増えている。


(2005年5月16日収録、2009年10月28日更新、2009年12月8日更新、2010年6月1日参考追加、2012年12月16・17日更新、2014年8月10日男女別の推移と年齢構造の図追加、2014年11月1日・4日更新、2016年10月30日全国家庭動向調査の結果グラフ追加、10月31日更新、2019年11月16日更新、2023年3月15日更新)


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