国によって大きく異なる夫婦の役割意識 専業主婦が是か非かという点は、世界的にも考え方が分かれているため、国際共同意識調査のISSP調査でも取り上げられている。ここでは、この調査の結果をグラフにした。 調査対象35カ国(前回調査2カ国を含む)のうち、専業主婦賛成派の方が多い国は、8カ国であり、少ない国は、残りの27カ国である。世界的には、専業主婦反対派の国の方が多くなっていることが分かる。日本は、賛成超過の程度の順では15位であり、中間的な位置の国となっている。 賛成が多い国としては、フィリピン、スロバキア、ロシア、インド、中国、ハンガリーといったアジアや東欧における非西欧的な国が多くなっている。韓国、台湾、日本など儒教国は、従来は、もっと賛成派が多かったとみられるが、現在では、家族関係においても近代化が進み、反対派も多くなってきていると考えられる。内閣府世論調査によれば、1979年には、日本でも、賛成が72.5%と図のフィリピン並みの高さを示していたのである(図録2410参照)。 一方、反対が賛成を大きく上回っている国としては、アイスランド、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンと北欧諸国が目立っている。カトリック諸国でもスペイン、フランスなどは、反対が多くなっている。なお、英米、ドイツなど、特に米国は中間的な位置にある。 夫婦の役割意識が両極化する世界 ISSP調査では2008年、2012年にも同じ設問で国際調査を行っている。下図には、3年次(あるいは最初と最後の2年次)のデータがある国の変化を示した。
全体的な各国の分布としては、多くの国で共働き志向が一層深まる傾向にある中で、フィリピン、スロバキア、ロシア、ハンガリーといった専業主婦志向の国では、横ばいか、むしろ専業主婦志向が強まる推移となっており、両者が両極化する傾向が認められる。 その中間にあって、近年、専業主婦志向から共働き志向に転換した国としては、チェコ、トルコなどが目立っている。 共働き志向の国が多い中で、特に、イタリア、米国、英国、ドイツ、フランス、スペインといった欧米主要国は、この順番で共働き志向が強いが、すべて、一貫して共働き志向が深まる方向で変化している。フィンランド、スウェーデンなどの北欧諸国は、これら欧米主要国をさらに上回る共働き志向への傾斜を示している。 共働き志向の国で、むしろ共働き志向が弱まっているのはイスラエルぐらいである。 東アジア諸国も共働き志向への傾向にはあるが、韓国、台湾がその傾向を最近一層強めているのに対して、日本は2012〜18年に横ばいに転じている点が目立っている。 日本では、少し揺らいでいるとはいえ、基本的には西欧の考え方に近づく傾向にあり、日本人は、それが世界的な潮流と信じているところがあるが、ここでの動きは、むしろ、世界的潮流はむしろ両極化であると考えざるを得ない。そして人口は非西欧の方の規模が圧倒しており、しかも増加率も高い。欧米的価値観はかつてのような絶大な影響力を失っているのではなかろうか。 フランスの歴史人口学者・家族人類学者のエマニュエル・トッドはこう言っている。「人類学者からの助言を一つ付け加えます。自分たちの道徳観を地球全体に押し付けようとするアグレッシブな西洋人は、自分たちのほうがどうしようもなく少数派であり、量的に見れば父系制文化のほうが支配的だということを知ったほうがよろしい。私は個人的には、われわれの生活様式が気に入っているし、フランスで同性婚が認められたことをとても喜ばしいと思っています。しかしそうしたことを文明と外交の領域で主要なレファレンスにするのは、千年戦争をおっぱじめることであり、その戦争はわれわれにとって勝ち目のない戦争なのです」(「「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告」文春新書、p.114-5、インタビューは2014年6月)。 図で取り上げている35カ国を賛成超過の大きい順に掲げると、フィリピン、スロバキア、ロシア、インド、中国、ハンガリー、ブルガリア、リトアニア、ジョージア、トルコ、南アフリカ、チェコ、スリナム、タイ、日本、韓国、イスラエル、台湾、イタリア、スロベニア、米国、スイス、ニュージーランド、オーストリア、チリ、英国、クロアチア、ドイツ、フランス、スペイン、アイスランド、フィンランド、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーである。 (2014年10月2日収録、12月29日更新、2015年8月8日トッド引用、変化図形式変更、2021年2月12日更新)
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