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関連図録は以下を参照。 また、日本人が悩んでいる主な病気が何かについて、ここで触れている「死因」のほか、「患者数」、「症状」、「DALY値」のそれぞれについて比較した記事をプレジデント・オンラインに掲載したので参照されたい(2020年7月、ここ)。 戦前の死亡原因としてもっとも深刻だったのは、「肺炎」や「胃腸炎」といった感染症であった。「肺炎」とここではあらわしていない「気管支炎」を合計すると1899年から1922年まで第1位の死因であった。 1918年から20年までは感染症の中でもインフルエンザの世界的な流行(いわゆるスペイン風邪)があり、日本でも高い死亡率を示した。表示選択の「病死のみ」には「インフルエンザ」(当時は「流行性感冒」と呼ばれた)を死因とする死亡者数の推移も示した。 平凡社大百科事典よれば「世界中でこのインフルエンザにより、約2500万人の死者を算したと推定され、細菌学的医学の勝利に冷水をあびせ、大戦の死者をはるかにしのぐ伝染病の猛威のまえに、「疫病の時代はまだ去っていない」と疫学者をして嘆じさせた。日本でも罹患者2500万、死者38万余というこれまでにない惨禍をもたらした」とされる。 感染症が疾病の中心だったことは、日本医師会の創立者兼初代会長が、血清療法及びペスト菌の発見者であり、「日本の細菌学の父」として知られる北里柴三郎だったことからもうかがえよう。なお、北里とともに血清療法を発見したベーリングが受賞した第1回ノーベル生理学・医学賞を北里が逃したのは、東大医学部や陸軍の森鴎外らが誤って信じ込んでいた「脚気細菌説」を批判したこともあり、日本からの推薦がなかったせいだとも言われる。 感染症が猛威を振るっていた時代における大都市の平均寿命の低さについては図録7254参照。戦前の食中毒死者数の多さについては図録1964参照。 1930年代から戦後しばらくまでは「結核」が死因第1位となった。結核はかつて国民病とまで言われ、1936年から結核予防国民運動が展開、1937年に保健所法が制定され、10カ年計画で全国に550保健所が建設されることが決められた。もともと感染症対策でつくられた保健所が新型コロナ対策でも大きな役割を果たし、海外と比較して感染被害規模が小さい理由の一つとなっていると思われているのも当然だとも言えよう。 「保健所は、クラスター対策も最前線で担った。日本の対策には海外にない特徴があるという。海外では、感染者を見つけるとこれから感染を広げかねない周囲の接触者を見つける疫学調査が対策の主流のようだ。日本ではこれに加え、感染源を見つけるため、感染者がどこで感染したかの経路をたどる「さかのぼり調査」を同時に行う。長年の結核対策で培った手法だという」(東京新聞社説「コロナと保健所」2020.7.22)。 戦後、BCG接種による予防、全国民一律の胸部 X 線検査による患者発見、さらに抗生物質を用いた化学療法による治療などにより結核事情は一変した。BCG接種が日本の新型コロナ被害が欧米として軽くなっている一因だという説があるが、そうだとすれば、これも保健所と並んで結核対策の予期せぬプラス効果だといえよう。日本の医療機器において X 線検査装置をはじめとする画像診断機器が世界的な競争力を有している(ただし普及版において)のも当時の取り組みが元である(図録5400参照)。ただ、この時の成功体験がかつて医療費問題のひとつとして大きくクローズアップされた検査漬けにも結びついた。 以上のように我が国においては、「結核」という感染症の蔓延という負の遺産を何とか克服してきた取り組みが、逆に、正の遺産(レガシー)として、今回の新型コロナという感染症に対してプラスに作用した可能性が高いのである。 第2次大戦後、栄養状態の改善やサルファ剤、抗生物質などの出現にともない感染性疾患が大幅に減少し、結核対策も進んだ結果、これらに代わって「悪性新生物(がん)」、「脳血管疾患」、「心臓疾患」など老化と結びついた疾患が増大してきた。1957年頃からこれらは「3大成人病」と称され、主たる克服対象となった。 その後、1996年ごろからは、「3大成人病」をはじめとして「腎臓病」、「糖尿病」、「慢性肝疾患」などが、永い年月を経ての各個人の生活習慣とそれらの疾患の発症との間に深い関係があることが明らかになってきていることから、成人病は新たに「生活習慣病」と称されるようになった。 近年の特徴としては、生活習慣病の中でも「脳血管疾患」の死亡率が低下する中で「がん」と「心疾患」の死亡率が傾向的に上昇している点、高齢者が「肺炎」や「誤嚥性肺炎」で死ぬことが多くなっている点などが目立っている(もっとも2017年には「肺炎」は急落)。 「がん」に次ぐ2大死因である「脳血管疾患」と「心疾患」の推移を比べると、戦前から戦後高度成長期までは、前者が後者を大きく上回っていたが、その後、「脳血管疾患」は漸減したのに対して「心疾患」は増加傾向にあるため、両者が大きく逆転したのが目立っている。食生活の欧風化により、塩分、炭水化物の多い食事から肉類、油脂類の摂取が多い食事へと変化した点が背景として考えられよう。 「脳血管疾患」は大きくは脳梗塞と脳出血からなる。脳梗塞は、昭和の時代には「命に関わる病気」、平成半ばまでは「(麻痺などの)後遺症が遺る病気」と恐れられていたが、医療・リハビリテーションの進展により、今では、発症直後(数時間以内)から適切な治療等を受ければ、発症前の生活に戻ることができ、介護の必要もない状況で暮らし続けることができるケースが多くなっている。 新型コロナ3年目の2022年には心疾患、脳血管疾患、腎臓病など複数の疾患で死亡率が急上昇しているが、これは新型コロナの患者数急増による病床のひっ迫でさまざまな病気の患者の診療に支障が生じたためと見られる(図録1553参照)。 病気以外の死因としては、前世紀には「老衰」で死ぬ人が少なくなっていたが、これは死亡診断書に医師が具体的な死因を記述するようになったため減少したという側面が大きい。もっとも21世紀に入り、近年は老衰死が多い後期高齢者の死亡割合が大きく上昇しているため、老衰死の死亡率も顕著に上昇して来ている(図録2084参照)。 また、「不慮の事故」による死亡率が1923年と1995年と2011年で飛び跳ねており、それぞれ関東大震災、阪神・淡路大震災、東日本大震災によるものである点、「自殺率」が1998年から上昇し最近は再度低下した点、などが目立っている。 なお、「悪性新生物(がん)」の死亡率が上昇している大きな理由として、「悪性新生物」による死亡率の高い高齢者の比率が上昇している点をあげることができる。もし高齢者比率が不変であるとしたら「悪性新生物」による死亡率は上昇しているであろうか。これを確かめるためには年齢調整死亡率を調べればよい。これはある時点の人口構成のまま推移したと仮定した場合の死亡率である(年齢別死亡率から算出)。 下に「悪性新生物(がん)」について、普通の死亡率(粗死亡率)と年齢調整死亡率を対比させて示した。これを見ると実は「がん」の死亡率の上昇の大きな理由は高齢化によるものであり、高齢化の要因を除くと、男性は1995年以降、女性は1960年から、がんによる死亡率は低下していることが分かる。がんは減少しているとも言えるのである(同じことを国際比較で示した図録2162参照。また部位別の年齢調整死亡率の推移は図録2158a参照)。 同時に示した「糖尿病」や「肺炎」についての粗死亡率と年齢調整死亡率の推移比較から「糖尿病」や「肺炎」についても同様だということが分かる(「肺炎」の場合最新年を除く)。 なお、参考のために、末尾に、図で取り上げた主要な死因だけでなくすべての死因(簡単分類、いくつかの項目は三桁基本分類)についての2015年の死亡者数と女性比率、高齢者比率の表を掲げておいた(これについては5年毎ぐらいに更新予定)。 死因簡単分類死亡数・女性比率・高齢者比率 (2015年)
(注)餓死は「栄養失調(症)(E40-E46)」+「その他の栄養欠乏症(E50-E64)」+「食糧の不足(X53)」で計算される場合もあるが前2者は飢えというよりは病気に起因するものが多いので3番目の項目に限定したほうがよいと考えられる。
(資料)厚生労働省「人口動態統計」(2006年2月9日収録、2007年7月18日更新・がんの年齢調整死亡率追加、2008年6月4日更新、2010年6月17日更新、2011年6月2日更新、10月12日がん年齢調整死亡率更新、2012年9月10日更新、2013年6月5日更新、2014年6月4日更新、2015年1月15日確報による更新、6月5日更新、9月7日更新、12月22日死因簡単分類死亡数・女性比率・高齢者比率表追加、12月24日糖尿病の粗死亡率・年齢調整死亡率推移図追加、2016年1月27日死亡者数原データ修正反映、5月24日更新、2017年6月6日更新、2018年6月1・2日更新、2019年6月8日更新、2020年1月26日年齢調整死亡率について2018年と肺炎を追加、6月10日更新、7月15日病死のみの推移を表示選択可能に、北里柴三郎、7月22日結核対策のレガシーがコロナに効果、2021年6月4日更新、2022年4月12日脳梗塞コメント、6月5日更新、10月14日最近の老衰死上昇要因を死因不明死の増ではなく年齢効果に変更、2023年6月2日更新、2024年6月5日更新)
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