OECDでは世界の15歳児童を対象に学力(学習到達度)に関して実際にテストを行う調査を3年ごとに行っている。この結果は、自国の学力レベルに関心を持つ各国国民の関心の的になっているので紹介することとする。

 なお、各国の成績レベルと成績向上度の散布図は図録3940f。大人の学力テストというべき成人スキル調査の結果は図録3936参照、またPISAによる子供の学力と成人スキル調査による大人の知力との相関については図録3937参照

 図には2018年の点数とともに2000年から3年ごとの順位を記した。点数はOECD加盟国の平均点が500点になるように配点を調整し、得点を出している。参加国はだんだんと増え79カ国に及んでいる(ただし2018年ではテストが基準を満たさない場合を除いて78カ国・地域(読解力はスペインを除く77カ国・地域)が比較対象)。

 日本の状況を分野ごと2000年から2018年について示す以下の通りである。


   2000年 2003年 2006年 2009年 2012年 2015年 2018年
点数 読解力 522点 498点 498点 520点 538点 516点 504点
数学的リテラシー 557点 534点 523点 529点 536点 532点 527点
科学的リテラシー 550点 548点 531点 539点 547点 538点 529点
順位 読解力 8位 14位 15位 8位 4位 8位 15位
数学的リテラシー 1位 6位 10位 9位 7位 5位 6位
科学的リテラシー 2位 2位 6位 5位 4位 2位 5位

(2018年調査について)

 日本の結果は、数学的リテラシーや科学的リテラシーもやや落ちているが、特に読解力が8位から15位に低下し、点数も504点とOECDの平均レベルまで落ちたことが目立っている。2003〜06年にやはり読解力が大きく低下し、脱ゆとり教育への転換を促したのであるが、そうした転換も結局は効果がなかったわけである。読解力の低下については、以下のような要因が挙げられている(毎日新聞2019.12.4)。
  • スマホやSNSの普及で読み書きやコミュニケーションが「短文中心」になっている
  • スマホの影響などで一人で動画やゲームに熱中し友達との会話や読書量が急減
  • 答えのない課題に対処する「課題解決型能力」を養う指導が学校では十分できていない
  • 学校のICT整備の遅れにより2015年からのPISA調査におけるコンピューター解答形式に不慣れ
 スマホやSNSの影響は日本だけではないので、順位の低下をそのせいにするのは安易だろう(海外の生徒の方がスマホやSNSへの依存が大きい点については図録3942o参照)。

 文科省は脱ゆとり教育自体の反省もなく今後整備したい学校ICT機器不整備のせいにし、新聞報道や著述家は新聞や書籍を読まなくなったせいにしたり、自分に都合の良い要因を強調する傾向にある。

 識者の論説や新聞の社説で参考になる意見は無いかとしばらく注視していたがほとんど無駄だった。その中で元文部科学省事務次官の前川喜平氏の「PISA2018」(東京新聞「本音のコラム」2019.12.8)だけが耳を傾けるに足るものだったので以下に引用する。

「日本の順位が過去最も高かったのは12年の調査だ。(OECD加盟国の中で−引用者)読解力1位、科学1位、数学2位。おかげで、当時初等中等教育局長だった僕は「学力低下批判」を浴びずに済んだ。「脱ゆとり教育」の成果とも言われたが、それは違う。12年調査の対象者は小一から中三まで授業時間数が最も少ない「ゆとり教育」(02〜11年)を受けた世代なのだ。むしろ18年調査の対象者ころ、授業時間を大幅に増やした「脱ゆとり教育」の世代だ。だから、読解力は「ゆとり教育」で上がり「脱ゆとり教育」で下がったとも言える。しかし、そもそも読解力テストは文化バイアスが大きく出る。18年の成績低下は、単に問題文が日本の生徒になじみのない内容だったからかもしれないのだ。3年後には成績急上昇ということもありうる。要は3年スパンで上がった下がったと一喜一憂しないことだ。少なくとも「授業時間をもっと増やせ」などという暴論が暴走しないよう気をつけよう」。

 なお、日本以外の動きとしては読解力について以下が目立っている。
  • 中華系諸国及びエストニア、カナダのトップ集団堅持
  • 米国、英国、スウェーデン、ポーランドなどの回復
  • ドイツ、フランス、イタリアの低迷
  • 韓国の伸び悩み
 前川氏の言う通り文化的なバイアスの影響が大きいとすると、今回の読解力の問題は、先進国の中では英米系で解きやすく、日本を含む非英米系で解きにくいものだったということになろう。

 この点について、今回の読解力テストの低落を、出題内容の変更とマスコミへの信頼度が低い英米と高い日本との対比から論じた記事をプレジデントオンラインに掲載したので参照されたい(2020年1月9日掲載「新聞やテレビを信じすぎる日本人の低い読解力」)。

 読解力得点の分散から見た学校間、学校内の学力格差の国際比較について、日本の学校間格差が大きい点を図録3941a(2018年結果による)に掲げた。

(2015年調査について)

 日本の結果は、読解力で4位から8位へ大きく低下、数学的リテラシーと科学的リテラシーで両方とも2位上昇。読解力の低下については、「文部科学省は要因について、問題表示や解答が紙での筆記からコンピューターの使用に変わったことを挙げ、「子どもたちに戸惑いがあった」としつつ、「情報を読み解き、言葉にする力で課題が浮かんだ。スマートフォンでインターネットを利用する時間が増える一方、筋だった長い文章を読む機会が減っている」(同省教育課程課)と分析する」(朝日新聞2016年12月7日)。

 国際的には、相変わらず、儒教圏諸国の上位ランクが目立っている。なお、北京ほか中国4都市は前回までは上海だけだったので順位は見かけ上低下している。

 3つの分野の共通傾向としては、韓国の低下傾向、ロシアの落ち込みからの回復、米国の長期停滞などが目立っている。

 三科目の平均点の順位、および移民生徒を除く順位については、図録3942g参照。

(2012年調査について)

 2012年調査では、日本の順位のV字回復が注目され、ゆとり教育の見直しの効果があらわれたとされた。新たに加わったベトナムを含め、アジアの儒教圏諸国の好成績が相変わらず目立っている。なお、OECD加盟34カ国中で、日本は、数学が2位、読解力と科学は1位とトップクラスであり、成人テストの結果と整合的だった(図録3936)。

 新聞各紙は、PISAの結果をゆとり教育の影響であるかの記事をこれまで書いて来ている。しかし、「ゆとり教育」が始まったのは、小学校、中学校で2002年度からなので、03年調査の15歳はわずか1年しか「ゆとり教育」の影響を受けていないので、06年調査の結果ならいざ知らず、03年調査の結果を「ゆとり教育」のせいにするのは言い過ぎであり、また、「脱ゆとり教育」が中学校で全面実施されたのは12年度からなので、12年調査の15歳の成績の上昇が「脱ゆとり教育」の影響ともいえないのではないか。

 こう指摘しているのは、池上彰氏である(朝日新聞2013年12月20日「池上彰の新聞ななめ読み」)。12年調査の成績上昇は、「むしろ、「ゆとり教育」導入と同時に始まった「総合的な学習の時間」の成果が出たという評価も可能になります。その点についての慎重な分析がないまま、「脱ゆとり教育」の成果だと論じてしまうのは、「自分たちの成果だ」と誇示したい文部科学省の発表に誘導されたものではないでしょうか。発表をうのみにせず、論理的に分析する。PISAが求める学力を、記者たちは持っているのでしょうか。」(同上)

 なお、池上氏は、同じ記事で、PISA参加国が増えているので、ランキングの回復は、事実上、ランキングの上昇と解釈すべきであり、「復調傾向」(読売新聞)というより「向上傾向」(朝日新聞)が正しいのではないかと論じているが、OECD平均を500点になるように調整している採点結果から見ると、3分野の平均では、2012年は543点と2000年の540点をなお下回っているので、やはり「復調」程度の表現の方が真実に近いのではないかと思われる。

 2012年調査の結果は、国際的には、アジアの上昇と北欧(特にフィンランド)の低迷が対照的となった点が指摘されている。また中国と対比した米国の悲惨な状況で「1957年のソ連のスプートニク打ち上げの時の様なショックによって新たな動機づけが生じることを期待する者までいる」という(The Economist December 7th 2013,"Finn-ished")。ベトナムが科学的リテラシーでいきなり8位となるなど、途上国の割にドイツ並みかそれ以上の高い得点を記しているのも注目された。高学力には「熱心な親たちも助けになっている。ベトナムの親たちの半分は子どもの学力向上を見張るために教師との定期的なコンタクトを持ち続けている」(同上)。

(2009年調査について)

 2009年調査では、日本の順位が回復し、教育界の努力が実ったともみなせるが、なお、学力格差が解消していない点が指摘された。また、新たに参加した上海、シンガポールを含め、アジア勢が上位を独占した点に注目が集まった。

(2006年調査について)

 2006年調査に関しては読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーのすべてで順位が低下し、マスコミでも危機感をもって大きく報道された(図録3940w参照)。

 科学得点の分散から見た学校間、学校内の学力格差の国際比較について、日本の学校間格差が大きい点を図録3941(2006年結果による)に掲げた。

 図に掲げた国は、読解力の高い順に、北京・上海・江蘇・浙江、シンガポール、マカオ、香港、エストニア、カナダ、フィンランド、アイルランド、韓国、ポーランド、スウェーデン、ニュージーランド、米国、英国、日本、オーストラリア、台湾、デンマーク、ノルウェー、ドイツ、スロベニア、ベルギー、フランス、ポルトガル、チェコ、オランダ、オーストリア、スイス、クロアチア、ラトビア、ロシア、イタリア、ハンガリー、リトアニア、アイスランド、ベラルーシ、イスラエル、ルクセンブルク、ウクライナ、トルコ、スロバキア、ギリシャ、チリ、マルタ、セルビア、アラブ首長国連邦、ルーマニア、ウルグアイ、コスタリカ、キプロス、モルドバ、モンテネグロ、メキシコ、ブルガリア、ヨルダン、マレーシア、ブラジル、コロンビア、ブルネイ、カタール、アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、アルゼンチン、ペルー、サウジアラビア、タイ、北マケドニア、アゼルバイジャン、カザフスタン、ジョージア、パナマ、インドネシア、モロッコ、レバノン、コソボ、ドミニカ共和国、フィリピンの56カ国である。

(2004年12月19日収録、2007年12月10日更新、2010年12月8日更新、2013年12月4日更新、12月19日コメント追加、2014年1月31日池上氏意見関連コメント追加、2016年12月10日更新、12月17日日本の成績推移図、2019年12月4日更新、12月8日前川氏引用、2020年1月7日中国の広東を浙江に修正)


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