ここで移民生徒とは、通常、移民の定義となっている他国生まれの者、すなわち第1世代の移民生徒ばかりでなく、両親が移民の子弟の第2世代の移民生徒も含んでいる。 図録として掲げた相関図は、X軸に、生徒全体に占める移民生徒の比率をとり、Y軸に、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの三科目の平均点が移民生徒を含まない点数から移民生徒を含んだ全体の点数へ何点変化したかを示している。 OECD諸国では移民比率はおおまかには10数%程度であるが(図録1171)、移民生徒の比率が、この水準を上回っているのは第2世代(移民2世)まで含んでいるからである。 大多数の国では、移民生徒を含めると点数は低下する。すなわち、テストの対象国では、東欧や中東・北アフリカからの移民が多いため、移民生徒の学力は、出身国の学力レベルの低さ、住居地の移動による困難、母国語との言語の違い、移動先における移民生徒への教育支援不足、収入・雇用・学歴など家庭の社会経済的レベルの低さなどが総合的に影響して、移民以外の生徒より低いからである。 図の対象となっている69カ国・地域の中で4カ国では、むしろ、移民生徒を含めた場合のほうが成績が上昇している点で目立っている。カタールとアラブ首長国連邦では40点以上高く、マカオ、シンガポールでも5〜10点程度高い。こうした国では、移民生徒といっても、もともとの国民より高所得・高学歴な流入者の子弟が多いためと考えられる。なお、シンガポールを除く3カ国では、移民生徒比率が50%以上と半数以上を占めており、周辺国の成功者の流入で成り立っている極めて特殊な都市国家と見なさざるを得ないだろう。 移民生徒を含めるとテストの得点が低下する国々の分布では、移民生徒比率が上がると得点の低下も大きくなるという右下がりの傾向が認められる。 その中では、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、香港のように、移民生徒比率の割に低下幅が小さい国・地域とフランス、ドイツ、スウェーデン、ベルギー、オーストリア、スイスのように移民生徒比率の割に得点低下の幅が大きい国とがある。教育の機会均等が賞賛されているフィンランドでも移民生徒比率の割に低下幅が大きい。 前者は、有能な国民を増やすことによって活力を得ているという意味で移民政策が比較的成功しているといえる。後者は、どちらかというと、難民などを福祉的な意味で受け入れているか、あるいは移民を低賃金労働力として受け入れているという性格が強く、多文化主義の国民統合、ダイバーシティという意味では必ずしも成功しているとはいえないのではなかろうか。英国や米国は両者の中間に位置しており、両方の性格をあわせもっているといえよう。 英国エコノミスト誌(The Economist Dec 10th 2016)は「移民にとってはどの国の学校に行くかの方がどの国の出身かよりも重要だ」という副題で、この図録と同様の相関図だが、PISA調査の報告書が提供している社会経済条件調整済みの各国比較、すなわち移民生徒と親が同等の収入レベル等にある非移民生徒との得点差による比較を行っている。結果はほぼ同じ傾向があらわれているが、上の図録と異なり、シンガポール、マカオだけでなく、カナダ、オーストラリアなどでも、移民生徒のほうが良い得点となっている。 差を生んでいるのは、移民生徒のほうが良い得点の国は、教育熱心な親が多い東アジア諸国からの移民が多いためだと考えられるが、「出身国よりも移民先の国がどこかが重要だとOECDのAndreas Schleicherは言う。親の経済条件を同一にした比較で、トルコ生れの移民生徒はオランダよりもドイツで科学テストが2学年遅れ相当の結果だったのである。政策が違いを生んでいる。補修や異言語授業により移民生徒はカリキュラムに追いつくことが出来る。学力別選抜を抑制することもそれを助長する。留年させないことも同じ効果を生む。移民の学校受入政策も問題だ。特定の学校に移民を集めないようにすることが、移民生徒にとっても科目履修の助けとなる。自国の貧しい生徒もそうなのだが」(エコノミスト誌同上)。 国により移民生徒の置かれている状況には差があるようだ。「OECDによる昨年の調査は第2世代の移民生徒の約80%は学校に馴染んでいる(feel at home at school)。だが、例外に注意を払うべきだ。例えば、フランスでは、第2世代の移民生徒の40%しか私の学校と感じていないのであり、この値は、すべてのフランス人が直視すべき数字なのだ」(同上)。フランス人は移民に対して特に冷たいわけではなさそうだが(図録9030)、フランス文化にある普遍主義が移民には耐え難いのかも知れない。 以下の表では、三科目の平均点数について、移民生徒を含んだ順位と含まない順位を掲げた。含んだ順位から含まない順位へ、ドイツやスイスは、それぞれ、13位→8位、15位→6位と大きく順位を上昇させる点が目立っている。
(2016年12月19日収録)
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