移民人口を統計的にあらわすには、2つの方式がある。すなわち、外国籍人口(外国人人口)を取る場合と外国生まれの人口を取る場合とがある。たとえば、日本におけるフィリピン人人口という場合、フィリピン国籍の外国人を指す場合もあれば、日本に帰化した者も含めてフィリピン出身の者を指す場合もある訳である。言葉の意味からすれば移民人口とは外国出身の人口であるが、日本の国勢調査では、国籍は調査していても出生地を調査していないので、厳密な意味での移民人口は分からない。ただし、日本の場合、日本生まれでも外国籍の在日韓国・朝鮮人、在日中国人がかなりの人数いるので注意が必要である。 欧米では外国生まれの人口を調査しているので、外国生まれという意味での移民人口の推移が得られる。 図を見れば、いずれの国でも移民人口の比率は上昇傾向にあることがよく分かる。欧米の多くの国で10%以上の高い水準に達していることが分かる(図以外の国を含めて最新年の移民人口比率については図録1170a参照)。 外国人登録によれば、日本の外国人人口は2009年末で219万人、1.7%である。国立社会保障・人口問題研究所の人口移動調査によれば外国生まれの人口比率は1.1%(2011年)、1.2%(2016年)である。日本の移民人口比率がいかに欧米諸国と比較して低いかがうかがえよう(OECD諸国の移民人口比率、及び日韓の外国人比率については図録1170a参照)。 近年の動向を見ると、全体的には、いずれの国でも上昇傾向にある。 冷戦の終了に加え、EUの労働市場の開放、中東等からの難民流入が移民増加の基本的な要因である。 2004年にはEUに新規加盟した10カ国(ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキア、スロベニア、キプロス、マルタ、エストニア、ラトビア、リトアニア)の国民すべてにEUの市場が開放された。既存の加盟国は、英国、アイスランド、スウェーデンだけは、即時、市場を開放したが、最高7年間の猶予期間を活用し、ドイツ、オーストリアは2011年5月1日に市場の全面開放に至った。なお、2007年には新たにルーマニア、ブルガリアもEUに新規加盟し、同じ規定が適用された。 スペイン、イタリアなど高失業率の国は2000年代には大きく移民が増えたが、欧州債務危機の時期に横ばいあるいは低下傾向となり、最近は再度回復傾向にある。スペインは高い経済成長を移民流入に頼って達成したといわれるが、その後の経済危機で移民も大きな苦境に陥ったと見られる。スペインは、また、カソリック国にもかかわらず離婚率が世界上位にある点にも社会変化の大きさがしのばれる(図録9100参照)。 また、全体の中で北欧の上昇が目立っている。反移民、反多文化主義の主張から、2011年7月に、ノルウェーで恐るべき大量殺戮事件が起きたが、当時からノルウェーでは移民の増加が他国より急激だったことが分かる。北欧の中では、デンマークは比較的上昇テンポが緩やかである。 ドイツは、もともとは戦後の高度成長の中でトルコ移民が増えたが、その後、他の欧州諸国とは対照的に、ほぼ移民人口比率が横ばいで推移していた。ところが、最近は、中東からの難民受入などで上昇し、2017年には、スウェーデンに次ぐレベルに達している。ドイツの2012年値が急減しているのは、この年に24年ぶりに国勢調査が実施されてこれまでの推計の誤りが補正されたためと考えられる(例えば総人口は大きく下方修正された。移民人口はさらに大きく下方修正されたのだと考えられる)。 移民人口の出身地別割合、また近年いずれの国からの移民が増加したかについては、同一図録でふれると大きくなりすぎるので、別途、これについて図録1171aを作成したのでごらんいただきたい。結論的には、各国でどの国からの移民が多いかは多様であるが、一般傾向として、東欧からの移民の増大とともに旧植民地途上国からの移民が同時に拡大している。 中東移民と欧州の文化との摩擦については喫茶店文化がないことをさびしく思うイスラム系移民の気持ちからもうかがわれるようだ(図録0476参照)。 ここで示した移民比率以上に各国の国民は移民が多いと感じている状況については巻末コラム参照。また、移民が成人スキルの水準に及ぼす影響については図録3936参照。米国の州別の移民割合とその変化については図録8736参照。
(2011年1月10日収録、7月25日更新、ノルウェー追加、11月26日イタリアの移民人口の(注)追加、2012年1月14日デンマーク追加、1月15日日本の移民人口比率記述追加、7月11日更新、2013年6月30日更新、2014年12月19日更新、12月20日注3追加、2015年2月23日イスラム過激派テロを受け注2の記述アップデート、5月2日コラム追加、2015年10月26日更新、2016年2月1日スウェーデンの最近事情追加、11月5日更新、2017年9月20日更新、2018年7月17日更新、8月13日日本の外国生まれ人口比率更新、2021年9月20日更新、9月21日EUの労働市場開放コメント、2024年3月30日更新)
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