近年の欧米諸国における移民人口の拡大については図録1171でふれたが、ここでは、主要国について、移民人口の出身地別の人数、また近年いずれの国からの移民が増加したかについての図録を作成した。OECD各国の大陸別移民出身地比率は図録1170e参照。

 グラフには2時点の上位15カ国別の出身地別人口とそのうち新しい年の出身地別の女性人口比率を掲げた。

 各国の移民の状況は以下の通りである。

各国の移民の状況
国名 特徴 最近の変化

インド、パキスタン、バングラデシュという旧英領インドからの移民が多いが、その他も多く出身地が多様な点も特徴である。東欧からはポーランドからの移民が多い。アイルランドやケニアなど旧英領植民地からの移民が多いのも特徴である ポーランド、ルーマニアといった東欧、あるいはインド、パキスタン、ナイジェリアなどからの移民増が目立っている。アイルランド、バングラデシュはむしろ減少している


トルコ人が最多であるところが特徴であるが、かつてほど圧倒的ではない。ウクライナ人、クロアチア人は6割以上が女性 トルコ、ロシア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、イタリア出身は減り、ポーランド、カザフスタン、ルーマニア、ウクライナ出身が増加



アルジェリア、モロッコといった旧仏領北アフリカからの移民が多いほか、ポルトガルやイタリアなど南欧周辺国からの移民もかなりある。ドイツやポーランドからは女性の移民が多い。1998年W杯フランス大会でフランスを優勝に導いたジダン選手はマルセイユ郊外の貧困地区で育ったアルジェリア移民2世。2007年選出のサルコジ仏大統領は地方貴族出身ハンガリー移民2世であり、母はカトリックに改宗したユダヤ系ギリシャ移民2世 大きな変化はないが、モロッコ、チュニジアなどの北アフリカやトルコなど途上国からの移民が増えている。ポルトガルを除くかつての南欧周辺国からの移民人口はむしろ減少している

移民人口約4,100万人と世界最大の移民大国である。ヒスパニック系の中心であるメキシコ出身者が1,100万人と最も多く、英語圏のインドや旧米領フィリピンがこれに次いでいる。ヒスパニック系としてはエルサルバドル、キューバなどがメキシコに続いている。中国人が180万人と4番目に多いが、ベトナム戦争のなごりとしてベトナム人も130万人近くと多い。女性比率はフィリピンが61%、韓国が60%と高い 上位のメキシコ、インド、フィリピン、中国などからの移民増が目立っている



ルーマニア人、アルバニア人、モロッコ人、中国人、ウクライナ人などが急増。中国人が19万人とヨーロッパ最大の集中(イタリアの中国人移民については図録8192コラム参照)。イタリアでは、ウクライナ人、ポーランド人はそれぞれ女性が7〜8割、一方、インド人、チュニジア人は多くが男性と他国に比べ移民の男女差が大きい。ドイツ、スイス、フランスからの移民が多いのも特徴 多くの国から移民が急増。ドイツ、スイス、フランスなど欧州相互の移民が新たにカウントされている





隣国フィンランドからの移民が多いほか、イラク、ポーランド、旧ユーゴ、イランなどからの移民も多い。タイからは女性の移民が多い(注) イラク、イランからの移民、及びポーランド、ソマリア、シリアからの移民が増加



モロッコ、ルーマニアが2大出身国(モロッコからは男性が多い)。エクアドル、コロンビアなど南米スペイン語圏からの移民も多い ルーマニアからの移民増が特に目立つが、その他、ほとんどすべての国から移民を多く受け入れていた状況がうかがえる



トルコ、モロッコのほか、スリナム、インドネシアといった旧オランダ領植民地からの移民が多い ポーランド、旧ソ連からは移民が急増。中国からの移民も増加
(注)「2010年12月11日夕、スウェーデンの首都ストックホルムの歩行者天国で、イスラム教徒の男による自爆テロが起きた。男は10歳で「難民」としてスウェーデンに移住したイラク系スウェーデン人、タイムル・アブダリ容疑者(28)。バグダッド生まれのアブダリ容疑者は湾岸戦争直後の92年、家族と共にスウェーデンに移り、高校卒業まで南部の町トラノスで暮らした。01年の高校卒業後、英国南部ルートンのベッドフォードシャー大学でスポーツ医学を学ぶ傍ら、ルーマニア出身の女性と結婚し2女1男をもうけた。大学時代を過ごした英国で過激思想に染まっていった。自爆直前、地元通信社などに犯行声明を送りつけ、かつてスウェーデン紙に掲載されたイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画や同国からのアフガニスタン派兵を批判している。移民を積極的に受け入れ寛容な社会として知られる北欧が、イスラム過激派の自爆攻撃を受けたのは初めて。「ホームグロウン・テロ」と呼ばれる脅威が拡大していることを示した事件として注目された。」(毎日新聞2010年12月30日からの引用文。文章の順序は入れ替え)

 まとめると、東欧からのEU内での流動が増えているとともに、旧植民地途上国からの移民も増大していることが分かる。2010年12月18日に始まったチュニジアのジャスミン革命からいわゆる「アラブの春」という民主化運動がアラブ世界に波及したが、2012年からは国内対立が深まり、その後のISの台頭や国内紛争の激化で中東・北アフリカから欧州への難民・移民の流れが強まっている。ここで見た2013年までのデータではまだこの動きが大きく反映されるには至っていないと考えられる。

 各国の出身地別の最大移民勢力を整理すると以下である。ドイツとオランダがトルコ人が共通なのを除くと各国の最大勢力は総て異なっている点が目立っている。ルーマニア人はイタリアでは最大勢力、スペインでは第2勢力となっているがそのうちにはロマ(ジプシー)も含まれていると考えられる(図録8596参照)。

国名 最大移民勢力 国名 最大移民勢力
英国 インド人 イタリア ルーマニア人
ドイツ トルコ人 スウェーデン フィンランド人
フランス アルジェリア人 スペイン モロッコ人
米国 メキシコ人 オランダ トルコ人

(2011年1月11日収録、2015年10月26日更新)


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