子どもの知力(学力)と大人の知力(知的スキル)とは、国ごとに、どういう関係にあるかを見てみよう。

 図には、OECDが行っている子どもの学力テスト(PISA:15歳調査)と成人スキル調査(PIAAC:16〜65歳調査)の成績を、読解力と数学的能力の2つに関して、比較した相関図を示した。もちろん、テストの問題は異なり、特に、数学的能力は、PISAでは正式な数学に関する知識も問う「数学的リテラシー」テストであるのに対して、PIAACはそのような知識とは関わりない「数的思考力」のテストだという違いがあるので、単純には点数を比較できないが、おおまかな傾向をつかむためなら、活用可能だろう。なお、PISAについては図録3940参照、PIAACについては図録39363936a参照)

 両方のデータが得られる24カ国について順位の高い国と低い国はどこかを、まず、見てみよう。読解力では、子どもも成人も日本が1位である点で目立っている。2位は子どもでは韓国、成人ではフィンランドとなっている。数学的能力では、子どもの1位は韓国、成人の1位は日本である。2位は子どもでは日本、成人ではフィンランドである。逆に低い国では、読解力、数学的能力の両方で子どもはキプロスが最下位、成人は、イタリア、スペインがほぼ同じ水準で最下位グループとなっている。

 さて、両者の相関について結果を見ると、R2値は0.1前後となっており、相関度は高くない。目立っているのは、子どもの学力に対して、成人のスキルが、相対的に上回っている国と下回っている国がある点である。図の中に示した1次回帰線よりどの程度上や下に乖離しているかで両者の食い違いの程度を判断することができる。

 子どもの知力(学力)と大人の知力(知的スキル)とのレベルの差は、@前者がどれだけ後者の基礎となっているかどうか、A学校を出てからの能力維持・能力向上の努力の程度がどうか、B大人がこれまで受けてきた教育レベルと現在の子どもの教育レベルはどう違うか、などによって影響されていると考えられる。これらを順番に見ていこう。

子どもから大人への時間経過の影響

 図は現在の子どもと大人の知力の関係を示しているが、現在の大人が子どもだった時からかなりの時間が経過しているため、両者が食い違ってきていると考えられる。

表1 対応するコーホートにおける15歳学力と成人スキルの成績点数の相関度(R2値)
PISA年次 PIAAC2011の年齢 読解力 数学的能力
PISA2009 17〜19歳 0.482 0.469
PISA2006 20〜22歳 0.404 0.574
PISA2003 23〜25歳 0.338 0.503
PISA2000 26〜28歳 0.363 0.382
分析国数(データが揃っている国数) 15 16
(資料)OECD Skills Outlook 2013(TableA5.6)

 現在の15歳児童と成人16〜65歳とを比較するのではなく、過去のPISA調査の結果とその歳に15歳だった者が2011年に何歳ぐらいになっているかを対応させて調査結果を比べれば、両者の相関がもっと厳密に計算できるということになる。OECDはそうしたデータを提供しているので、データが過去4回の総ての年次で揃っている国を対象にR2値を求めた結果を、表1に掲げた。

 これを見ると、図より、ずっと相関度が高いこと、すなわち義務教育終了時の学力レベルの影響が成人になっても大きいことが分かる。また、同時に、年数が経つうちに、相関度がだんだんと低まっていく傾向、すなわち、当たり前のことだが、知的スキルに関して、以下にふれるような学校の勉強の影響以外の要因が年齢を重ねるとともに強まる傾向があることも見て取れる。

学卒後の生涯学習レベル

 成人のスキルが子ども学力を相対的に上回っている国の代表は、日本であるが、このほか、フィンランド、スウェーデン、オランダ、ロシアといった北欧または北国が同じ様な特徴を有している。

 逆に、成人スキルが子どもの学力より特に下回っている国としては、スペイン、イタリア、フランスといった南欧諸国が目立っている。

 北欧と南欧のこうしたパターン差は、図録3956aで紹介した蔵書数や読書率において北欧が南欧を大きく上回っているのと比例しているのが興味深い。案外、単純に、北国は寒い冬に読書などで頭を鍛えるから知力が維持され、暖かい国は南国ムードの中で楽しく暮らしているうちに知力は低下するという見方が当たっているかも知れない。

世代による教育水準の違い

 図では、文化的な共通性の高い韓国が、日本と比べて、子どもと大人の知力相関上の位置が正反対であった。

 日本とは逆に、韓国の成人のスキルが子どもの学力を下回る傾向になっているのは、韓国の教育レベルが経済成長により、大きく上昇したことに起因していると思われる。例えば、韓国の大学進学率は1980年には30%以下と日本の40%台に比しても低かったのが、2007年には日本の約50%に対して80%を超えているのである。すなわち、韓国の中高年層には現代の若者と異なって学歴の低かった者も多く、これが、子どもと大人の間の大きな知力差に反映していると考えられるのである。

 図録3929には、若年層と中高年層の大卒比率を国際比較したグラフを掲げた。これで見ても、韓国の大卒比率はもっとも上昇が大きくなっている。韓国のほか、日本、アイルランド、フランス、スペイン、ポーランドなども学歴レベルが急上昇した国々である。日本を除くと、いずれの国も子どもの学力が大人の知力を大きく上回っており、世代による教育環境の違いが大きく影響していることがうかがわれる。

 逆に、米国やドイツは、若者と中高年で教育レベルに余り変化がなく、これが、成人のスキルが子どもの学力を下回るか、あまり差がないことの理由の1つになっていると思われる。

 日本の教育水準も韓国ほどではないが大きく上昇してきたので、子どもの方が大人より知力の成績がよくても当然なのに、逆に、成人のスキルが子どもの学力を世界一上回っているということは、それだけ、成人後に仕事や社会生活で頭を使い続ける経験、あるいは企業研修や自己研鑽による能力アップの機会が他国に比べ充実している影響が大きいのではないかと考えられる。

 図で取り上げた国は、日本、フィンランド、オランダ、オーストラリア、スウェーデン、ノルウェー、エストニア、ベルギー、ロシア、チェコ、スロバキア、カナダ、韓国、英国、デンマーク、ドイツ、米国、オーストリア、キプロス、ポーランド、アイルランド、フランス、スペイン、イタリアの24カ国である。

(2015年6月1日収録)


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