OECDは、3年毎に、OECD諸国とその他協力国・地域とで、15歳(日本は高校1年生)を対象とした国際学力テスト(PISA)を行っている。テストは、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの三科目で実施されており、最新2015年には、過去最多の72カ国・地域、54万人の生徒が参加した。

 学力テストは、OECD加盟国の生徒の平均得点が500点、約3分の2の生徒が400点から600点の間に入るように得点化されている。最新の国別結果と2000年以降の国別順位については図録3940参照。

 世界各国の学校生徒の学力状況を概観するため、三科目の平均点について、2015年のPISAテストの成績(上下のY軸)とこれまでの3年おき6回までの成績向上度(左右のX軸)の両面からあらわした散布図を掲げた。右上の付図のように、日本の場合、浮き沈みがあるが、6回を通した直線の当てはめでは、年平均0.16点の若干のマイナスとなっている。

 まず、現在の学力レベルをあらわすY軸方向では、東アジア諸国の好成績が目立っている。東アジア諸国は三科目平均で520点以上の国がほとんどであり、その他の地域ではフィンランド、カナダ、エストニアが同レベルに達しているのみである。

 中国は、2009年、12年には上海だけが参加し、両方とも世界一の成績だったのであるが、2015年は、上海のほかに、北京、江蘇、広東を含めた4市の成績として公表されることとなった。このため三科目平均は514点と韓国の519点を若干下回る水準となっている。

 東アジア諸国の生徒の世界トップ水準に対しては、欧米諸国も脱帽状態であり、国別の成績ランキングは、家庭教育や文化によるところが大きいので教育政策が左右できる余地は小さいという意見まで出ているという。「先週には、PISAから得られる教訓は、東アジア以外の世界でも箸を使うべきだということだとおどけて論じる者もいたぐらいである」(英国エコノミスト誌2016.12.10号)。確かに、家庭・学校・社会を通じて、学校の勉強を重視する儒教の文化的伝統の存在を考慮に入れないとこうした東アジアでの好成績は理解できないだろう。

 東アジア諸国に次いで、欧米OECD諸国が、スロベニアからギリシャまで、510〜460点ぐらいの比較的狭い成績範囲に集中して分布している。

 そして、その他の南米、アジア、アフリカ諸国が460〜360点の広い範囲に分布している。

 次に、X軸方向にあらわされた成績の向上度を見てみると、カタール、アルバニア、ペルーといった成績レベルの低い国で大きな点数上昇が目立っている。図の分布全体を見渡しても、右下がりの傾向が認められ、成績が悪い国ほど成績上昇が大きい傾向にあることがうかがわれる。成績が低いほうが伸びしろがあるということだろう。

 先進国の中で成績低下傾向が目立っている国は、ニュージーランド、オーストラリアといったオセアニア諸国、及び、フィンランド、アイスランド、スウェーデンといった北欧諸国である。

 北欧の中でエストニアは例外的に成績が伸びているが、先生の数が変わらないのに少子化の影響で生徒の数が減り、20年間で1先生あたりの生徒数が20人から12人へと減って脱落者を出さない授業が可能となったせいだとも言われる(英国エコノミスト誌同上)。

 東アジア諸国の中では韓国の成績低下が目立っている。日本も低下傾向にあり韓国に次いで動きは好ましくない。

 一方、東アジアの中でも、シンガポール、香港、マカオは成績が上向きである。移民生徒の有無別のPISA調査の集計結果からは、欧州諸国とは反対に、これらの国では、移民生徒の方が成績が良いという傾向が確認されている(図録3942g)。すなわち、これらの国では、高学歴・高所得の移住者を世界各地や中国本土などから多く受け入れている影響がプラスに働いていると考えられる。

 その他の先進国では、ドイツ、ポーランド、ポルトガルの成績上昇傾向が目立っているが、これらの国は、いずれも、合計特殊出生率が日本以上に低い国であり(社会保障・人口問題研究所の人口統計資料集2016年版によると、2013年に、ぞれぞれ、1.41、1.28、1.21)、上で述べたエストニアと同じ理由が当てはまっている可能性がある。ポルトガルの元文部大臣によれば、同国における生徒の成績向上をもたらした要因としては、能力別クラス編成を限定的にして、教師の努力の下、授業についていくのが大変な生徒が同級生と一緒のクラスで補習を受けられるようにしたのが大きいとのことであるが(英国エコノミスト誌同上)、これも先生に余裕がなくては出来ないことだったろう。

 末尾に、合計特殊出生率と成績上昇幅の相関図を掲げておいたが、おおまかには、少子化の進んだ国ほど成績の上昇幅が大きいという関係が見て取れる。

 そうだとすると、日本は、韓国と並んで少子化傾向が根強いのに、韓国と同様に、成績が上昇傾向にないのはおかしいということになる。やはり、保護者への過剰対応、事務・会議・報告書過多など、先生が授業に集中することを阻害する学校環境のせいなのだろうか?それとも、高齢化に伴う財政制約で少子化国にもかかわらず少人数クラスが実現できないことによるのであろうか?

 これからの日本の人口減少の加速、労働力不足の展望の中、限られた人数で経済を支えていくためには、かしこい労働力を増やしていく必要がある。3人で出来ていたことを2人で実行できるようにならなければ、従来の生活水準を維持できなくなるからである。そのためには、どうしたらよいかを考えるのを、文部科学省や先生たちだけに任せておくのでは、やはり、心許ない。また、そうした課題への対処を考えるのにPISA調査の結果は、極めて貴重な情報源であるのに、文部科学省の傘下団体の作成した結果概要資料を紹介するに止まっている報道機関にも問題がありそうだ。


 分析対象国は、2015年の三科目平均点の高い順に、シンガポール、香港、日本、マカオ、エストニア、台湾、カナダ、フィンランド、韓国、スロベニア、アイルランド、ドイツ、オランダ、スイス、ニュージーランド、ノルウェー、デンマーク、ポーランド、ベルギー、オーストラリア、英国、ポルトガル、スウェーデン、フランス、オーストリア、ロシア、スペイン、チェコ、米国、ラトビア、イタリア、ルクセンブルク、アイスランド、クロアチア、リトアニア、ハンガリー、イスラエル、スロバキア、ギリシャ、チリ、ブルガリア、ルーマニア、ウルグアイ、トルコ、モンテネグロ、メキシコ、タイ、アルバニア、コロンビア、カタール、ヨルダン、インドネシア、ブラジル、ペルー、チュニジアの55カ国である。

(2016年12月31日収録)


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