【クリックで図表選択】

   

 3年おきに行われるOECDのPISA調査の結果が公表されると、自国の子どもたちの学力が上がったか下がったかで国中が大騒ぎになるのは各国共通の現象である。2018年調査の日本の結果は、読解力、数学、科学の各科目で成績が低下し、特に読解力は2015年の世界8位から15位へと大きく順位を下げた(図録3940参照)。

 我が国では、文科省も識者もマスコミも自分に都合よい理由で成績低下を説明しようとし、どの国で読解力の成績が向上し、どの国で下がったかを分析すればおのずから明らかになる読解力低下の本当の理由の追及には無頓着である。

 日本の読解力の成績が下がったのは、実は、PISA調査の当局が、デジタル時代に重要となってきている成績評価の要素として、ネット等で得られる情報の「信ぴょう性」を正しく疑えるかという点を新たに導入したからであった。

 このことは、新たにどんなテスト問題が加えられたかをチェックすれば分かるし、情報の信ぴょう性を疑うのが得意な英米の読解力の成績が大きく上昇したことからも明らかなのである。

 情報の「信ぴょう性」を判断する場合に重要なのは、情報に含まれる「事実」と「意見」の判別である。この点に関する2018年PISA調査のテスト問題として、代表的だったのは、「ラパヌイ島設問」だった(表示選択で「設問」参照)。

 この設問に対する正答率(正しい回答の割合)を各国比較した冒頭グラフを見てみると、米国が69.0%と最も高く、英国が65.2%でこれに続いていた。逆に最も低かったのは韓国の25.6%である。

 慰安婦問題、竹島問題をはじめ歴史問題をめぐる日韓問題がなかなか解決の方向に向かわないのは、韓国では「意見」を「事実」と同じぐらい重視し、両方を区別しない場合もあるからだということもこうした結果から見えてくる(注)

(注)韓国のこうした傾向は、北方民族によって支配された中国に代わって中華思想を保とうと考えた小中華思想によって理念偏重の世界観が特徴の朱子学の影響を受けすぎた名残りの側面が無視できないと私は考えている。

 もっとも日本も少し前には尊王攘夷という「意見」が、清国のように攘夷を強行すれば国が亡びるという「事実」を圧倒し、かの渋沢栄一ですらそうだったことを思い出せば他人ごとではない。この点への反省が十分でなかったため、その後、太平洋戦争という無謀な歴史にも突き進んだのだった。

求められる国民レベルでのデジタルリテラシーの向上

 2018年PISA調査における米国の数学や理科の成績はそれぞれ37位、18位、英国は18位、14位と余り高いとは言えない。読解力にしても、米国は13位、英国は14位とそう高くない。にもかかわらず「事実」と「意見」の判定については世界1位〜2位なのであり、いかに、米英がこの点について敏感かがうかがわれるのである。

 これが、デジタル時代の課題を意識して、新たに情報の信ぴょう性判定の問題を導入した2018年のPISA調査の読解力テストで、米国が2015年調査の24位から13位へ、英国が22位から14位へと大きくランクアップした大きな理由なのである(図録3940参照)。

 「ラパヌイ島設問」に対する日本の正答率は47.9%と米英より低いだけでなく、シンガポールや香港よりも低く、余りよい成績ではなかった。これが日本の読解力が同時期に8位から15位へと成績を低下させた要因のひとつなのだった。読解力の成績低下をよく分析すれば、広い意味でのデジタルリテラシーは日本の高校生にはなお課題が大きいことが明らかになった筈である。

 日本の高校生の読解力の成績低下を文科省のように学校へのパソコンの普及率の低さにしたり、新聞やいわゆる有識者のように読書不足やスマホ中毒のせいにしたりしたのはお門違いもいいところだったのに、その点に関する反省がないのが悔やまれる。

 末尾図には、同じ2018年PISA調査の結果から、「学校で情報が主観的か、また片寄りがあるかを見抜く方法を教えられているか」と聞かれて「はい」と答えた生徒の割合と「ラパヌイ島設問」正答率との相関を見たグラフを掲げた。

 この点の教育が大いに行われている米英やカナダ、オーストラリアといった英語圏諸国では、事実と意見を区別できる生徒の割合も高くなっており、途上国や韓国のようにそうした教育に積極的でない国では、同割合は低くなっている。

 IT機器の普及やデジタルネットワーク・システムの基盤整備といったハード、ソフトの充実より、むしろ、若者や国民の広い意味でのデジタルリテラシーの向上を国をあげて図っていかないとデジタル時代に真に対応したことにはならないことをこの図は示していよう。デジタル庁の事務方トップが、商用画像の不正使用を行っているような日本の状況では、この点が全く心もとないと言わざるを得ないのである。

 韓国は本記事で引いたOECDの報告書の指摘に敏感に反応した。「フィッシングメールが判らない?…韓国青少年のデジタルリテラシー、OECDで最下位」と題されたハンギョレ新聞の記事(2021.5.17配信)では、なりすましメールへの韓国人高校生の余りの無防備さに警鐘を鳴らすとともに(こちらについては図録3941h参照)、事実と意見の判別テストでも悪成績だったことや若者の語彙力低下が社会問題になっていることにもふれ、最後に、次のようにまとめている。

『OECDは報告書で「インターネットのおかげで誰もがジャーナリストや発行人になれるが、情報の真偽は明確に区分しにくくなった」とし「21世紀の読解力は、知識を自ら構築して検証する能力」だと述べている。OECDは、情報が多くなればなるほど、読者は不明確さを検討し、観点を検証する方法が重要になると指摘している。(中略)

 スマートフォンやSNSを通じてフェイクニュースや操作された偽情報の影響力が増大し、コロナに関する間違った情報が急速に広まっている中、利用者自らが情報の真偽を判別するデジタルリテラシーの必要性は高まっている。漢陽大学国語教育科のチョ・ビョンヨン教授は「韓国の生徒は、教科書と問題を解く訓練のおかげで情報の把握と理解は上手だが、実際の環境においてそれを活用する能力である、情報の信頼性と価値を判断する能力は低い」とし「PISAにおいて、デジタルリテラシー教育を受けた生徒は情報の信頼性を判断する能力が高いことが表れていることからも分かるように、学校でのデジタルリテラシー教育の強化が必要だ」と述べた』。

 日本でもまったく同様の状況にあるのに、こうした論調が日本ではあまり見受けられないのは残念である。


(2021年11月8日収録、2022年1月17日韓国の傾向への(注))


[ 本図録と関連するコンテンツ ]



関連図録リスト
分野 教育・文化・スポーツ
テーマ  
情報提供 図書案内
アマゾン検索

 

(ここからの購入による紹介料がサイト支援につながります。是非ご協力下さい)