当図録では、怪しいメールへの対応能力について取り上げたが、図録3941dでは、「事実」と「意見」の分別能力というデジタルリテラシーの側面を取り上げたので参照されたい。 近年、なりすましメールで個人情報を聞き出し、財産の詐取や悪意ある情報拡散につなげようとするネット上の犯罪行為が横行するようになった。これは、デジタルリテラシーにかかわる象徴的な事案ともなっているので、まず、こうしたデジタル犯罪への対処に関して各国民が、どの程度、用意ができているかについてのデータを紹介しよう。 有名な携帯電話会社から「スマートフォンが当たりました。リンクをクリックしてフォームにあなたの情報を記入すればスマートフォンを送ります」というメールが届いた時、「なるべく早くリンクをクリックしてフォームに書き入れる」のは適切か、それとも不適切かという問を各国の高校1年生に聞く調査が、OECDの2018年の学力調査(PISA調査)の中で行われた。 スマホをタダで貰えるチャンスかもしれないので、日本ならdocomoなどの名の知られた携帯電話会社からのメールということもあり、他人に先取りされないようなるべく早く応募した方が良いと考える高校生がいてもおかしくない。 しかし、こうしたメールを受け取ったら、有名携帯電話会社になりすまして個人情報を詐取する手口だろうと疑うのが当然であろう。すなわちすぐ情報を返信するのは「不適切」と回答するのが正しいだろう。図録には、各国の回答結果を「不適切」の多い順に示した。 日本の高校生は75.6%と世界43カ国の中で、もっとも「不適切」とする回答が多く、疑り深い気質を示している。 子は親の鏡ともいわれる。高校生の結果だが、国民全体の気風の反映という側面が大きかろう。 日本に次いで、中国、英国、フィンランドなどが続いており、こうした国では、なりすましメールへのガードが堅いといえよう。 他方、「不適切」とする割合が比較的小さいのは、メキシコ、ハンガリー、チリといった途上国的な性格の強い国である。また、韓国は先進国にもかかわらず、47.1%と下から3位の小ささとなっており、なりすましメールへの無防備さを示している。 韓国においては、多少の危険を冒しても、ネット空間に落ちているチャンスをいち早くつかんだ方が、結局は有利だという「拙速をよしとする」考え方が根強いのだと思われる。ある意味では、これがネット先進国といわれる韓国のお国柄と判断できよう。これとは対照的に日本は余りにガードが固いため、皆が参加すれば有効なデジタルシステムがなかなか実現しない結果、デジタル後進国の名に甘んじなければならないのだとも見られるのである。 日本のコロナ対策において、給付金の給付でのマイナンバーカードの活用や感染リスクの個人間の相互監視のためのスマホのアプリの活用などが、いちいち頓挫するのも、行政の対応能力の低さだけでなく、デジタルネットワーク・システムの構築に必要なある意味で安直な協力が国民から得られないためといえるであろう。 OECDの2018年の学力調査(PISA調査)の中では、さらに、このほか怪しいメールへの4つの対処法を聞いており、各国高校生の回答結果を総合評価している。結果を下図に掲げた。また、日本と韓国の結果を取り出し以下に表としてまとめた。
総合評価の結果は、OECD諸国の中で、日本が英国に次いで高い評価であり、ドイツ、オランダ、デンマークといった国々も日本に次いで高くなっている。こうした諸国の高校生はともかく慎重なのである同じアングロサクソン諸国だといっても米国の評価は余り高くない。 逆に低い方の評価の国としては、低い方から、メキシコ、チリ、韓国、コロンビア、ハンガリーの順である。後先考えずにデジタル対応を急ぐお国ぶりがうかがえる。 OECD諸国以外の国の高校生については、シンガポールや中国は比較的慎重であり、台湾やブラジルはややそそっかしい。 (2021年11月9日収録)
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