3年ごとに実施されているOECDのPISA調査は、世界各国の15歳の学校生徒を対象にした国際的な学力調査であり、その結果には世界的な関心が集まる。同調査では、学力テストに合わせて、就学上の状況調査として、生徒の生活や意識について直接生徒に聞く調査を実施している。

 この調査から「ネット利用」についての結果についてのデータを見てみよう。わが国ではスマホやインターネットついてはマスコミが携帯電話会社から巨額の広告料を得ていることなどによってプラス面に比してマイナス面が報じられることがすくないとの印象をもっているのは私だけだろうか。ところが国際的には子どもへの影響を中心にネット中毒が大いに心配されている。

 世界保健機関(WHO)が、本年5月にオンラインゲームなどにのめり込み、生活や健康に深刻な影響が出た状態を「ゲーム障害」(ゲーム依存症)と呼び、精神疾患と位置付ける「国際疾病分類」を正式決定したのもそのためである。

 図から世界の高校生がどの程度、SNSやネットゲームなどネット利用にのめり込んでいるかを見てみよう。

 OECD諸国の平均で、2018年に高校1年生がネットを使用している時間は、学校外、すなわち家庭で週27.0時間であり、1日当たりに換算すると3.9時間に及んでいる。

 OECD諸国では英国、チリ、スウェーデン、OECD以外ではコスタリカ、ブラジル、ウルグアイでは週30時間を超えている。

 ネット利用時間は大きく伸びてきており、2012年、2015年のOECD平均は、それぞれ、17.9時間、23.5時間であり、2012年から18年にかけては51%の増加となっている。各国の動きを見ても、ほとんどの国でこの間に大きく高校生のネット利用時間が伸びていることが分かる。

 PISA調査の報告書ではネット1時間以下を「低利用者」、1〜2時間を「中利用者」、2〜6時間利用を「高利用者」、6時間以上を「極端利用者」と分類している。6時間以上は「ネット依存(中毒)者」としたかったが、医学的見地のオーソライズが当面得られなかったので、「極端利用者Extreme Internet users」という用語に落ち着いたのであろう。ここでは平日学外6時間以上は「ネット依存(中毒)」とみなすことにする。

 2018年の調査でネット依存の高校生の比率はOECD諸国平均で19.7%であり、調査対象国の中で最もこの比率が高いのはウルグアイの35.8%であり、チリの35.2%がこれに続いていた。OECD諸国の中では、チリに次いで、イタリアの26.3%、スウェーデンの25.9%、米国の25.5%が高かった。

 地域的には先進国、途上国を問わずネット依存が全世界的に広がっている様子がうかがえる。

 日本はこの値が7.4%と低く、韓国や台湾、香港、マカオなどと並んでネット依存の程度が世界の中では低い点が目立っている。韓国や中国人地域は、一般の社会では、日本とは異なり、世界の中でもネット化が進んでいることで有名であるのに、高校生の世界はまた別なのである。これは、これらの地域では儒教の影響下で紙に書かれた文書と比較してネット情報が一段低いものと評価されているからであろう。また、ネットばかりしていてはダメという先生や親の言うことに比較的こうした国の子どもは従う癖がついているためでもあろう。

 ネット依存の問題点としては、低い生活満足度や低学力とむすびつくことがデータで確かめられている。

 幸せでないからネットに走るのか、それともネット依存が不幸を招くのか。また、学力が低いからネットに走るのか、それともネット依存が低学力を招くのか、については突っ込んだ心理学的、疫学的調査が必要であろう。私には両面があるように思える。

 デジタル社会における人間能力の開発を扱った別のOECD報告書では、ネット利用がメンタルヘルスを害しているかもしれないという問題が大きく取り上げられている。そこでは、PISA調査のネット関連の別の設問の集計結果を引用して(下図参照)、問題を克服するためにはネット依存の弊害に自覚的になることが重要だと指摘している。その部分を引用しよう(OECD Skills Outlook 2019, p.159)。

メンタルヘルスと社会関係

 新しい技術や機器の利用が広がるにつれ、メンタルヘルスや社会関係を含め、複数の側面から利用者の福祉を害するかもしれないというおそれを引き起こしている。画面生活の時間が極端になると睡眠の質を悪化させ、うつや不安のリスクを増す可能性がある(Hooft Graafland, 2018)。ネット常時接続は、特に仕事関係であるとストレスや感情的消耗のレベルを高めることにつながる(Belkin, Becker and Conroy, 2016)。新技術の使用は複数の情報やメディア内容に対して同時に個人的にアクセスすることによるマルチタスク生活につながることが多い。一個人がデジタル機器を同時利用する場合、注意が散漫となり、効率が落ちて、社会的な不安のレベルが上昇しがちである(Ophir, Nass and Wagner, 2009; OECD,2012; Becker, Alzahabi and Hopwood, 2013)。

 しかしインターネットやデジタル技術がメンタルヘルスを害しているかどうかを確証することは難しいことが分かってきている。デジタル技術の適度の使用はほとんどの場合、メンタルな福祉にはプラスの効果をもっている一方で、無使用や過剰使用はややマイナスの影響がある(U字カーブ)。PISA調査に参加しているOECD諸国においてはインターネットを6時間以上利用する生徒は生活満足度が低く、学校との関係が薄くなるリスクが増し、学校での孤立感を高める傾向があることが示されている。

 勉強のできる生徒は技術の極端利用(技術への依存)と結びついているリスクをよく知っており、コンピューターにどれだけの時間を費やすか、またいかにデジタル機器を使うかについてより自覚的である。PISA調査のデータは高学力生徒はインターネットの接続が切れても気分を害すことが少ないのである。インターネットがつながらずに気分が悪くなる生徒は、数学、科学のテストで低学力の生徒が62%であるのに対して高学力生徒は45%と少なくなっている。

 なお、引用の通りの一般傾向とは反対に、日本と韓国だけは高学力生徒の方がネット不接続にイラつきやすくなっている。理由は不明である。

 アップル社の創業者のスティーブ・ジョブズ氏は、アイパッド(iPad)を発表した2010年に、「お宅のお子さんたちはアイパッドが好きなのでしょうね」という記者の質問に対して「僕の子供たちはアイパッドを使ってないよ。うちでは子供たちがIT機器を使うのを制限しているから」と答えたという。このことも理論的な支えとなって米国には子供にスマホを持たせない「8年生(14歳)まで待とう」運動があり、全米で2万人の親が賛同しているという(木村太郎「太郎の国際通信」東京新聞2019年12月3日)。

 子供には飲酒を禁じているのと同趣旨でスマホを禁止すべきではないかということを私も、この図録と同じデータで書いたプレジデントオンラインの記事で主張した。

 木村太郎氏は上の連載記事の中でこう言っている。「大阪の小六の女児が栃木県まで連れて行かれた事件は、犯人がSNSを通じて誘い出したとされSNSの使い方を巡って議論が巻き起こっている。しかし、その前に子供にスマホを待たせること自体の是非について論じてもよいのではないか」。こうした当たり前の意見が大勢を占めないのは広告費という形でマスコミを通信会社が丸ごと買収しているからではないかと私は疑っている。


 冒頭の図で取り上げた国は図の順に以下である。OECD諸国が28か国、すなわち韓国、日本、メキシコ、スロベニア、チェコ、スイス、ギリシャ、イスラエル、スロバキア、オーストリア、アイスランド、フィンランド、エストニア、フランス、ラトビア、ハンガリー、イタリア、ポーランド、アイルランド、オーストラリア、スペイン、ベルギー、ニュージーランド、デンマーク、米国、英国、チリ、スウェーデン、、非OECD諸国が10か国、すなわち台湾、香港、マカオ、ロシア、タイ、クロアチア、シンガポール、コスタリカ、ブラジル、ウルグアイである。

(2019年12月3日収録、2020年6月21日更新)


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