世界価値観調査は、世界数十カ国の大学・研究機関の研究グループが参加し、共通の調査票で各国国民の意識を調べ相互に比較している国際調査であり、1981年から、また1990年からは5年ごとの周回で行われている。各国毎に全国の18歳以上の男女1,000〜2,000サンプル程度の回収を基本とした個人単位の意識調査である。最新の2017年期(2017〜2020年)は前回から5年よりやや間隔があいた。

 最新の結果から世界77カ国の同性愛の許容度についてのグラフを図録2783に掲げたが、ここでは、主要国について、1981年期からの推移を示した。

 いずれの国でも「全く間違っている」(1)が減少する傾向にある。それでも、まだまだ、「全く間違っている」(1)の割合の高い韓国やロシアとむしろ「全く正しい」(10)が多数派になっているスウェーデンとの間で差が大きいことも見て取れる。先進国全般で同性愛への許容度が高まっているとはいえ、部分的には、逆転現象も起きている。2010年期から2017年期にかけてロシアでは「全く間違っている」(1)が60.2%から62.9%へとむしろ増加している。

 ロシアの動きについては後段を参照。また世界各国の価値観全体の変化方向を分析した図録9458も参照されたい。ま米国については国内各層の動きにふれた図録8807も参照されたい。

 日本において同性愛へ許容度が時系列的に増している点については、図録2782も参照のこと。また、同性愛が自然に反した行為だという根強い偏見に対しては、異性愛自体が生殖そのものを目的としておらず、ある意味では自然に反しているのであり、同性愛だけやり玉にあげるのは間違いだと言わなければならない。同性愛は異性愛が非生殖的であるからこそ異性愛に伴って生まれたのであり、こうした性格の同性愛が不自然とはいえないのは、飛ばないニワトリに羽根があるからといってそれが不自然とはいえないのと同じようなものである。この点については図録2263のコラム「人間はどうしてホモ・セクスアリスになったか」でふれた。

 同性愛への許容度が上昇するにつれて同性婚を認める国が以下のように増えてきた。日本でも2021年3月17日にはじめて同性婚を認めないのは「法の下の平等」を定めた憲法14条違反だとする判決が札幌地裁で下された。


 2023年2月4日の荒井勝喜総理秘書官による「同性婚は見るのも嫌。認めたら国を捨てる人もいる」発言が同秘書官の辞職につながり、急遽行われた報道各社の世論調査では以下のように若い人を中心に同性婚賛成意見が広がっていることが明らかとなっている。


 また、ギャラップ社調査では世界で同性愛者への理解はさらに年々高まって来ている。


 許容度の変化方向を探るには、許容度段階別の構成比の変化を見るほかに、許容度の平均点の変化を見るやり方もある。各国比較する時は、こちらの方が分かりやすい場合がある。事例として、ヨーロッパと旧ソ連の同性愛観の向かっている方向が異なることを示すグラフを掲げた。これは2022年2月にはじまったロシアによるウクライナへの軍事侵攻を理解する一助としてプレジデントオンラインの記事用に作成したものである。

 この平均点図は、ドイツ、フランスといった欧米主要国とロシア、ウクライナ、ベラルーシ、アゼルバイジャンといった旧ソ連諸国の同性愛許容度の推移を追ったものである。日本やエストニア、ナイジェリアは参考データをして掲げている。

 この40年間に、欧米諸国は同性愛に対してますます寛容さを高めて来ていることがわかる。一方、ロシア、ウクライナ、ベラルーシは、もともと同性愛を受け付けない程度が高かったのであるが、一時期、欧米型に向かうかと見えたが、21世紀に入ってからは、むしろ欧米諸国とは反対に許容度が横ばいに転じている点で軌を一にしている。

 こうした点からロシアとウクライナは民族性が同類だと思っていたが、家族システムからはロシアは共同体家族、ウクライナは核家族パターンであり、ウクライナはむしろ西側だとエマニュエル・トッドは見ている(末尾コラムの注2参照)。

 旧ソ連構成国の中でもイスラム教国のアゼルバイジャンに至っては、当初より、同性愛許容度が低いだけでなく、近年さらに許容度が低まるなど欧米先進国とは逆方向に向かっている。アフリカのナイジェリアなども同様の動きである。

 日本などは欧米の考え方からの影響もあって、ほぼドイツ、フランスと並行して同性愛許容度が上昇して来ている。だから、日本人は、それが世界共通の傾向だと思い込んでいるフシがある。実際は、むしろそれは欧米先進国やその影響を受けている国民の傾向であるにすぎず、中国、インドといった途上国やイスラム教国やロシアなど旧ソ連諸国などでは同じ方向を必ずしも向いていないのである。

 旧ソ連圏の中でもエストニアなどは、日本と同様、国民意識が欧米先進国に近づきつつある。これとは対照的に、ロシアとウクライナは倫理的な価値観がまったく同じ方向へと向かっている点が印象的である。

 ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は戦況が思わしくないことにイラついており、3月16日に国内向けのテレビ放映の中で、次のように国内の敵を罵ったという(東京新聞「本音のコラム」北丸雄二、2022年3月18日)。

 国内にいる「ゴミと裏切り者」をロシアの愛国者は「口に入ってきた羽虫のように吐き出せる」。「彼らは利敵勢力、国家の裏切り者だ。ここで金を稼ぎ向こうで生活する、地理的な意味だけでなく心も意識も向こうで生活してまるで奴隷の有様だ」「マイアミやフランスのリビエラに別荘を持つ者たちを私は責めない。あるいは生牡蠣やフォアグラや所謂”ジェンダーの自由”なしには生きられない連中もいるが私は非難しない。問題は彼らの精神が向こう側に存在し、ここで我々と共にないこと、ロシアと共にないことだ。彼らはそれで自分がより高いカーストにいられると思っている」「この国には自浄力が必要なのだ」。

 プーチン大統領は5月9日の戦勝記念日における演説では同様のことを以下のようにもっと公式的に発言している(NHKニュースウェッブによる)。

「アメリカ合衆国は、特にソビエト崩壊後、自分たちは特別だと言い始めた。その結果、全世界のみならず、何も気付かないふりをして従順に従わざるを得なかった衛星国にも、屈辱を与えた。しかし、われわれは違う。ロシアはそのような国ではない。われわれは、祖国への愛、信仰と伝統的価値観、先祖代々の慣習、すべての民族と文化への敬意を決して捨てない。欧米は、この千年来の価値観を捨て去ろうとしているようだ。この道徳的な劣化が、第2次世界大戦の歴史を冷笑的に改ざんし、ロシア嫌悪症をあおり、売国奴を美化し、犠牲者の記憶をあざ笑い、勝利を苦労して勝ち取った人々の勇気を消し去るもととなっている」。

 こうした発言は、ウクライナ侵攻への賛同を得るため、西欧流のジェンダー観や同性愛に対して冷ややかに思っている多くのロシア国民の共感を得られると思ってなされているに違いない。

 同性愛への許容度の各国分布が時系列的どう推移してきたかを以下に掲載した(倫理事項の各国分布を示した図録2787hから再掲)。

 これを見ると、以下のような点が読み取れる。
  1. 全体的には許容度が高まる方向に世界各国はシフトしてきているが、許容度がもともと低い国の許容度は余り変化がない。
  2. 許容度の高い欧米先進国は一貫して許容度が高まる傾向にあるが、許容度が中程度の途上国を中心とした諸国では、一時期、許容度が低まる揺り戻しの時期を経ている。



(2022年3月18日図録2788から分離独立させ、平均点推移図を追加、3月22日アゼルバイジャン、ナイジェリアの平均点推移を追加、5月8日許容度分布推移図再掲、5月10日戦勝記念日演説、6月16日ギャラップ社調査結果、6月18日コラム追加エマニュエル・トッド説紹介、2023年2月15日共同通信世論調査、3月6日同性婚を認める国データ、報道各社世論調査結果更新)


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