【コラム】エマニュエル・トッドの家族システム分類 独立ページ表示
トッドは上に掲げた4分類にその他3分類を加えて、家族構造を以下のような7つに分類している(中條健史氏の整理による)。
トッドは、さらに、単なる分類論から歴史的発展論へと論旨を展開している(上図「ユーラシア大陸の主な家族類型」参照)。 すなわち、家族システムの世界分布を説明するため、柳田国男が提唱した「方言周圏論」(図録7720参照)、中尾佐助がナットウのアジア分布を説明するため採用した「エージ・アンド・エリアの仮説」(図録0432参照)と同様の理論展開を行っている。 「方言周圏論」とは、方言の語や音などの要素が文化的中心地から同心円状に分布する場合、外側にあるより古い形から内側にあるより新しい形へ順次変化したと推定するものである。すなわち上の「ユーラシア大陸の主な家族システム」の分布図から、核家族が人類の原初的な家族システムであり、直系家族、さらに共同体家族が歴史的に新しく登場し、原初的なシステムが大陸の縁辺に残存しているととらえているのである(エマニュエル・トッド「我々はどこから来て、今どこにいるのか?」)。 熊野聰「ヴァイキングの歴史」(創元社)によれば、ヴァイキングに特徴づけられる北欧初期社会は、「国家や共同体から与えられたり保護されたいするのではなく、農民自身が武装によって守り、農民自身が労働し、用益することを通じて所有される農場」(p.273)を基礎に不足する労働力を奴隷で補完する農民社会だった。 「ヴァイキング船と古典古代のガレー船の違いは、社会の違いをよく反映している。どちらも帆と櫂によって進むが、ガレー船は甲板によって船が二つの身分に分割されている。船倉には櫂で漕ぐ下層民、囚人、奴隷がおり、甲板上で戦う戦士は、自由な土地所有者である。ヴァイキング船は固定した甲板をもたず、漕手の座るべきベンチさえない。漕手は各自の食糧、衣類、武器などを入れた荷物箱をおいて、それに腰かけて漕いだ。漕手がすなわち戦士だった。彼らは奴隷を所有もするが、みずからも勤労する自由な小土地所有者なのである」(p.274)。なお、奴隷は戸主がヴァイキングに出掛けて不在の時、家や農牧業を家族とともにまもるために必要だった。 「北欧初期社会は、北欧中世に非村落的、非封建的性格を与えた。そのことは今度は、北欧近代の特質形成に作用したに違いない。(中略)もちろん1個人の独立をさす現代の個人主義と、経営体としての家を単位とするヴァイキング社会の個人主義はストレートに同じなのではない。しかしアジア的共同体とも、中世西ヨーロッパの村落および都市共同体とも異なる、独立した主体の連合としてのゲルマン的共同体の伝統は、今日のスカンディナヴィア型個人主義の原型ではないか」(p.276〜277)。 北欧諸国は、もっとも原始的な社会の個人主義的な特質を保持しているからこそ現代社会にもっとも適合的だという考え方であり、エマニュエル・トッドが前掲書で繰り返し米国や英国の先進性の根拠を古い家族システムの保持に求めているのと同様の論旨だととらえられよう。 (2022年6月18日作成、6月19日各分類の解説追加、11月9日「ユーラシア大陸の主な家族システム」分布図、12月28日インド・ケララ州、キューバの例、表内絶対核家族解説、12月15日「欧州における家族類型」分布図追加、2023年2月6日熊野聰氏引用) |