世界価値観調査は、世界数十カ国の大学・研究機関の研究グループが参加し、共通の調査票で各国国民の意識を調べ相互に比較している国際調査であり、1981年から、また1990年からは5年ごとの周回で行われている。各国毎に全国の18歳以上の男女1,000〜2,000サンプル程度の回収を基本とした個人単位の意識調査である。最新の2017年期(2017〜2020年)は前回から5年よりやや間隔があいた。

 この調査では毎回、倫理上問題のある事柄について各国の国民の意識を調べている。ここで許容度は、「間違っている(認めない)」から「正しい(認める)」まで1から10のいずれかを選んでもらった結果の平均値である。

 2017年期の調査では、19の倫理上の事項、すなわち、同性愛、婚前性交渉、妊娠中絶、離婚、安楽死、不特定性交渉、死刑、子どもを叩く、売春、無資格請求、自殺、キセル、政治暴力、テロ、脱税、窃盗、ワイロ、DV、他人への暴力に対する許容度を調べている。事項によっては調査国数は同じでない。離婚や自殺などは対象79か国すべてで調べられているが、婚前性交渉やテロ、他人への暴力などについては49か国で調べられているのみである。

 図には、19のうち5つの事項について、各国の許容度を順位の高い国から順番にプロットした。国ごとの許容度の差が小さい事項は縦長に各国が並び、差が大きい事項は横に寝たプロット線となる。

 図の下に掲げた表には許容度分布の格差が大きい順に事項をリストアップした。同性愛は各国で最も意見が分かれる倫理的事項である(同性愛への許容度については図録2783や図録2783aで詳しく取り上げた)。同性愛だけでなく、妊娠中絶や離婚についても良い悪いの見方が各国でかなり異なっている。他方、脱税や他人への暴力などはどの国の国民も良いと思う人は少なく、国による差は小さくなっている。こうした点が図では視覚的に明らかになっていると思う。

 同性愛への許容度の分布について、時系列的にどう推移してきたかを同じ形式のグラフでページ末尾に掲載した。

 これを見ると、以下のような点が読み取れる。
  1. 全体的には許容度が高まる方向に世界各国はシフトしてきているが、許容度がもともと低い国の許容度は余り変化がない。
  2. 許容度の高い欧米先進国は一貫して許容度が高まる傾向にあるが、許容度が中程度の途上国を中心とした諸国では、一時期、許容度が低まる揺り戻しの時期を経ている。

(日本人の倫理観の特徴)

 こうした図表における日本の位置から日本人の倫理観の特徴を概観しておこう。

 図からは、各国で許容度の差が小さい他人への暴力や脱税といった事項、すなわち国民性とはかかわりない「悪事」については、日本人の倫理観は世界の中でも許容度が低いことが分かる。許せないことは絶対許せないのだ。

 これに対して、各国で見方が分かれる同性愛や離婚といった事項については、日本の順位は比較的高く、許容度が高いことが分かる。こうした事項は先進国で許容度が高く、途上国で許容度が低い傾向が見られるが、日本人の意識は先進国的なのである。言い換えれば欧米からの影響が大きいのだとも言えよう。

 表で順位の高い順に日本の許容度の高い事項を並べてみよう。
  1. 死刑 3位(79か国中)
  2. 婚前性交渉 6位(47国中)
  3. 同性愛/安楽死 16位(77/79か国中)
 上記の通り、先進国で許容度の高いジェンダーに関する倫理事項で日本の順位も高い。

 それとともに、死刑や安楽死といった「死」に関する事項で許容度が高い点にも気づく。無常観など日本人独特の死生観が影響している可能性があろう。その他の「死」と関連する倫理事項である自殺や妊娠中絶も日本の許容度順位は低くない(同じ特徴が認められていた2005年期のデータによる図録2787も参照されたい)。

 逆に許容度が最下位か、最下位に近い事項は以下である。順位を最下位を1位と逆順に表現すると、
  1. 脱税 1位(79か国中)
  2. 子供を叩く/キセル/窃盗 2位(49/77/49か国中)
  3. 他人への暴力 3位(49か国中)
 日本人は、社会の決まりや暴力への許容度が特に低いことがうかがわれる。

 まとめると、日本人にとって倫理上の許容度が高い分野は「死」と「性」、低い分野は「暴力」と「ルール」と特徴づけられよう。

(各国の倫理的な特徴)

 表には、許容度が世界一高い国と世界一低い国の国名を掲げた。これについては、以下のような点が目立っている。
  • 許容度が世界一高い国を見ると、許容度格差の大きな倫理的事項については北欧諸国が多くなっているのに対して、許容度格差の小さな事項については途上国が多い。
  • 北欧の中でも、特にデンマークは妊娠中絶から不特定性交渉まで4事項で許容度最上位国となっているのが目立っている。
  • 暴力や犯罪など許容度格差の小さな事項については、特にフィリピンが8事項で許容度が世界一高い、すなわち寛容である点が目立っている。
  • 許容度が世界一低い国名を見ると全般的にヨルダン、トルコ、エジプトなどイスラム教圏の国が多くなっている。イスラム教は厳しい倫理観をうながしていると言えよう。
  • ギリシャは「子どもを叩く」と「他人への暴力」の2事項で許容度最下位となっている。身体的暴力を許せないという国民性がうかがわれる。
  • ドイツは「婚前性交渉」は最も許容度が高いのに、「DV」は最も許容度の低い国となっている。物事によって許せる、許せないの判断が極端に振れる国民性なのであろう。
 なお、米国の同性愛、妊娠中絶の許容度の世界順位は、それぞれ、18位、23位と日本より1〜2位低い。ジェンダー関連の倫理事項で米国の許容度が余り高くないのは、国内にはそれらについての許容度が高い西欧的な層と許容度が低い途上国的な層とが併存しており、それぞれ民主党、共和党の支持層、地域とオーバーラップしているからである(注)

(注)2022年4月2日に米国連邦最高裁が、人工妊娠中絶の権利を憲法が認めているとした1973年のロー対ウェイド事件の判例を覆す可能性が高まっていることが判決草案の異例のリークにより判明した。「73年の判例は、胎児が子宮外で育成可能になるまでの中絶を合憲と認めた。一般的に、妊娠から24週ごろまでとされる。しかし、南部ミシシッピー州は妊娠から15週を過ぎた中絶を原則禁止としたため合憲性が争われ、最高裁も昨年12月から審理を始めた。(中略)(判例が)覆れば国家の統一基準はなくなり、各州の判断に委ねられるためミシシッピー州法は合憲となる見込み」(東京新聞2022.4.4)。
 この判決が出れば、米国国内は中絶の合法州と非合法州とに二分されることになる可能性が高い(下図参照)。米国のこうした状況のデータについては図録8807参照。



(2022年5月3日収録、5月4日米国コメント、5月8日同性愛許容度の推移図、5月29日中絶禁止になりそうな州)


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