主要先進国の人口増加率・人口動態は図録1172でふれたが、ここでは、BRICsと呼ばれるブラジル、ロシア、インド、中国、及びそれらと並んで人口規模の大きなインドネシア、バングラデシュの人口増加率・人口動態を図録にした。データの出所と解説については図録1172を参照されたい。

人口増加率・人口動態シリーズ
図録
1172
日本・韓国・ドイツ・フランス・イタリア・スウェーデン・英国・米国
図録
1173
中国・インド・ロシア・ブラジル・インドネシア・バングラデシュ
図録
1173b
ポーランド・ウクライナ・トルコ・イラン・サウジアラビア・イスラエル
図録
1173e
オーストラリア・台湾・タイ・ベトナム・シンガポール・フィリピン

 これら人口大国の人口動向は、ロシアや最近の中国を除いて、増加率が高い点が特徴である。

 もっとも以前は2%を上回っていた人口増加率がいずれの国も低下傾向にある点も共通した特徴である。人口転換の過程が進み、死亡率の低下を上回る出生率の低下によって人口増加率は低下に転じているのである(図録1561参照)。そして、人口増のほとんどが自然増によっているのも共通した特徴である。

(中国)

 2022年から中国の人口増加率が自然減の影響でマイナスに転じている点が注目される。

(バングラデシュ)

 バングラデシュの人口動態グラフは2012年の更新より前はインドネシアとほぼ同タイプであったが、2012年の更新以降は、50万人の死者・行方不明を出した1970年のサイクロン被害(図録4367)、100万人とも300万人ともいわれる戦争犠牲者を出した1971年のバングラデシュ独立戦争(図録5228)とその後の混乱の影響がかなり反映されたグラフに大きく変更となっている。1970年代前半には自然増加率は大きく低下し、社会増加率は大きくマイナスとなったため人口増加率も大きく低下したのである。

 バングラデシュの社会減は移民労働の流出超過と対応していると考えられる。1970年代前半は独立にともなう混乱を背景としたものであったが、それ以降、特に2000年代の後半はいわゆるグローバリゼーションに対応した流出超過とみなせる。こうした流出超過期に続いて移民労働からの送金も増加する様子については図録8100参照。

 リーマンショックや欧州債務危機などで世界経済が停滞した際は、バングラデッシュの人口転出も縮小した。

(ロシア)

 ロシアの人口動態は他の人口大国とは全く異なったパターンを辿っている。ロシアの歴史はこの間黙示録的な過程の中にあるといっても過言でない。

 ロシアの人口増加率は1965年以降1%を下回っていたが、1980年代から低下しはじめ、1991年のソ連崩壊後は、マイナス基調となっている。

 こうした人口動向の要因としては、ソ連崩壊後に自然増加率がプラスからマイナスへ転換したことが大きく影響している。これは出生率の低下と死亡率の増加のダブルパンチによるものである。

 出生率の低下は1980年代後半からはじまっていた。図録8980でも見たとおり、ロシアの合計特殊出生率は1987年の2.22から1999年には史上最低水準である1.17まで急降下した。これは社会の混乱や経済危機にともなって出生を控える夫婦が増加したためと考えられる。これに出産年齢の20歳代後半女性層の少なさ(同じ図録8980参照)が重なり、1990年代から2000年代にかけて出生数は大きく減少した。

 また、死亡率も男性を中心にソ連崩壊前後から急速に上昇した。ロシア男性の平均寿命を見ると1967年の64.8歳から1994年の57.6歳へと7.2歳も短くなったのである(図録8985)。「死亡率上昇の主要因は栄養状態の悪化や環境汚染によるチフスやジフテリアの感染症の蔓延であり、医療器具、薬品、検査、治療費等の値上がりは感染症を広めた。1994年から自殺や殺人の増加傾向が見られたため、粗死亡率は増加を続け」た(早瀬保子・大淵寛編著「世界主要国・地域の人口問題 (人口学ライブラリー 8)」原書房、2010年)。

 なおロシア社会の混乱は、世界一レベルの自殺率(図録2774)と離婚率(図録9120)を生んでいる。

 次ぎに社会動態については以下のような点を指摘することができる。

 ソ連崩壊後、ロシアでは、移民と難民が紛争地域などから流入した。図の1993年からの流入超過はこうした点を示すものである。流入移民の中には、ロシア以外の旧ソ連諸国に住むロシア語を母語とする者で帰国を希望し、それが経済的に可能だった者、またロシアに親戚を持っている者が多かったという(同上書)。

ロシアへの流入者が自然減を補った比率
1993 50.1% 2000 25.2%
1994 98.2% 2001 8.7%
1995 71.8% 2002 9.3%
1996 57.0% 2003 4.9%
1997 51.7% 2004 5.2%
1998 45.5% 2005 12.7%
1999 19.8%    
(注)ロシア人口年鑑2006による。
(資料)早瀬保子・大淵寛編著「世界主要国・地域の人口問題」原書房(2010)

 ソ連崩壊後、流入とともに、高学歴・高能力職業者の流出も顕著であったといわれる。「ロシア経済の危機状態が深化したとき、すなわち1991〜93年と1998年に、定住を目的とした海外への移民動機が強まった。1990年から11年間に、ロシアはドイツ、イスラエル、米国、ギリシア、カナダ等の国々への流出で約115万人を失った。その中で1990〜2001年にドイツ(58%)、イスラエル(24.6%)、米国(11.4%)という国々が約94%を占めていた。この移民には頭脳流出という特徴があって、主に高学歴で能力の高い職業者の流出が顕著であった。」(同上書)

 なお、2010年以降は、エネルギー資源を生かした経済成長を背景に社会増が維持される中で自然減が縮小し、人口減から人口増に転じている点が目立っている。自然減縮小の背景となっている出生率の動きについては図録8980参照。

 ところが2010年代後半からは再度、自然減の勢いが増し、人口そのものがマイナス基調となっている。ロシアは人口危機の状況にある。

 プーチン大統領はかつて「一番の心配事は何か」と記者に問われ、迷わず「人口問題」と答え、ロシア語の教科書には、「我々の未来は中国人移民にかかっている」という専門家の主張が引用されていたという(東京新聞2023.2.18、師岡カリーマ「本音のコラム」)。

 こうした状況が2022年のウクライナ侵攻と何等かつながっていそうであるが詳細は不明である。

 2022年9月にプーチン大統領が予備役の部分動員を発令後、最大70万人と推計されるロシア人が国外流出しとことが少子化と相俟ってロシアの人口動態上の危機をあらわしている(東京新聞2024.3.15)。

 図録8980でもふれたが、2024年の大統領選では通算5選が確実なプーチン大統領はウクライナ侵攻を続ける方針の一方で、2024年を「家族の年」と位置づけ、少子化対策を公約の柱としている。「プーチン氏は先月29日、大統領選に向けて事実上の公約発表の場となった年次報告演説で「家族」をテーマにした国家プロジェクトを立ち上げると発表。「多くの子どもを持つ大家族は社会の規範となるべきだ」と述べるなど、2時間余りの演説で人口減対策に最も長い約10分を割き、5期目の大統領任期となる今後6年間で出生率の着実な増加を達成しなければならないと呼びかけた」(同上)。

(2010年11月29日収録、2012年11月22日更新、2013年4月27日更新、2014年2月12日更新、自然増加率算出法改変、10月5日年次更新、2015年8月20日年次更新、2016年11月29日更新、2018年11月4日更新、2021年1月4日更新、2022年12月12日原資料を国連人口推計の変更して更新かつ初年を1960年から1950年に変更、2023年2月18日ロシア・コメント補訂、2024年3月15日ロシア・コメント補訂、2024年7月13日更新)


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