グローバリゼーションの進展の中で、海外で働く国民の所得にかなりの程度依存する国があらわれている。ここでは、世界平均、途上国の平均の動き(下2図)、及び特にフィリピンとバングラデシュの例(上図)を掲げた。

 国際収支、あるいはSNA(GDP統計)の国際基準上は、1年を越える海外労働とそれ以下の海外労働とで違いがある(前者は要素所得から独立した仕送り、後者は労働要素に基づく海外での所得)が、現実は途上国ではそこまで厳密には集計、報告していないようである。図はそれらを合計した額をGDP比で示している(当初は当サイトで合計していたが、現在は世銀が合計額をデータベースで公表している)。

 途上国全体では海外労働からの収入の対GDPは1990年代後半までは1%強の水準であったが、それ以降上昇傾向が目立つようになり、2003年には1.8%のピーク水準へと上昇している。その後、2018年には1.6%とピーク時より若干低下してきている。

 途上国におけるこうした送金マネーを他の資金の流れと比較した最後の図を見ると、1990年前後までは援助マネーが最も多かったが、その後、投資マネーが急増し、それとともに送金マネーも着実に増えていっていることが分かる。冷戦後のグローバリゼーションは、まず、金融的な資金移動が活発化し、その後、ヒトの移動(出稼ぎや移民)にともなう母国への送金が増えていったと考えることができる。図を見れば分かる通り、投資マネーは国際的な金融の拡大や収縮といった変動に影響されやすいが、送金マネーの方はかなり安定的に拡大してきていることが理解されよう。

 なお、上記のように、対GDPの動きで見た途上国への送金マネーの規模がやや低下しているのは、投資マネーの拡大が途上国の経済発展を促し、母国のGDP規模を送金マネーの規模以上に拡大させてきているからと考えられる。

 フィリピンでは海外労働からの収入の対GDP比は1990年代に3%程度から、1990年代後半には8〜9%、21世紀に入ってさらに上昇、2005年は13.3%にまで上昇している。フィリピンでは教育に力を入れており、特に途上国としては女子教育に対しても分け隔てのない教育機会を与えている(図録3930参照)。こうして育てられた人材を海外で活躍してもらうという国是がフィリピンの特徴となっているのである。我が国でもかつて長野県などは似た状況にあったとも考えられる。しかし、2005年以降は低下傾向にある。

 バングラデシュでは海外労働からの収入の対GDP比は、1983年に3%を越えたが、石油価格の変動で産油国における出稼ぎが不調となり、85年には2.5%を下回った。その後、徐々に上昇し、2000年代前半には4%を上回り、2009年には10.3%に急伸、その後いったん低下したものの2012年には過去最高の10.6%となっている。(バングラデシュなどから海外出稼ぎ労働者を多く受け入れているサウジアラビアでは人口構成が男性に片寄っている−図録9310。)海外労働からの収入の推移は基本的には人口の社会増減の動きに対応していると考えられる(図録1173参照)。

 他方、東南アジアの中では、産業発展が著しいマレーシアでは、国内における労働需要も多く、海外労働からの収入は2006年前後でも0.8%と途上国平均を大きく下回っている。マレーシアでは逆にフィリピンなどから海外労働の流入がかなりあり、海外への収入の流出の方が多くなっている(図録8160参照)。

 なお、世界各国の海外労働からの収入の対GDP比の国際比較については図録8090参照。

 以下には、フィリピン、バングラデシュへの海外労働による送金がいずれの国からのものであるかを示した世銀による推計データを掲げた。フィリピンは、米国、カナダなどの英語圏、およびサウジアラビアなどの中東、そして、マレーシア、日本などの東南・東アジア諸国からの送金が多くなっている。バングラデシュは、中東が多い点は、フィリピンと共通であるが、最大であるのが隣国インドとなっている点、東南・東アジアからの送金は少ない点が特徴となっている。


(2004年6月29日更新、2007年6月1日更新、6月19日更新、2009年1月19日更新、11月25日更新、2011年6月17日更新、2014年2月11日更新、送金元データ追加、2019年9月22日更新、援助マネー・投資マネーとの比較図)


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