多産多死から多産少死を経て少産少死に至る過程を「人口転換」と呼ぶが、普通は、出生率と死亡率の2本の折れ線グラフで表される。ただし、これだと複数の国の比較は複数のグラフを比べてみる必要があった。ところが、1つのグラフの中に2つ以上の国の人口転換過程をあらわす方式を見付けたので、図録にしてみた。これはタテ軸に出生率として合計特殊出生率をとり、ヨコ軸に死亡率の代わりとなる平均寿命をとるというものである。

 西欧や日本は戦前に人口転換が進んでおり、人口転換過程を揃って示すデータを得るのが難しいが、戦後になって人口転換が進み、現在も進行中であるのは南アジアである。そこで南アジアの5カ国のグラフを作成した。

 確かに、戦後の南アジアの諸国は、出生率が高く、平均寿命が短い多産多死から時間とともに横方向に出生率が保たれたまま平均寿命だけが長くなる時期(人口急増期)が続き、その後、急速に出生率が低下する時期が来る。そしていずれ合計特殊出生率が2強(夫婦2人で2人強の子ども)の人口置換水準で安定して、また横方向に推移する、という人口転換の過程をよくあらわしているといえる。

 南アジアの各国を比較すると、1950年代の段階では、インド以上にバングラデシュとパキスタンの出生率水準が高かった。また平均寿命ではバングラデシュとパキスタンは比較的長く、インドは短かった。その後、早くからインドは出生率がゆるやかに低下しはじめたが、バングラデシュとパキスタンでは長く多産少死の時期、すなわち人口急増の時期が続いていたことが分かる。バングラデシュの出生率が急落しはじめたのは1980年代になってから、パキスタンは1990年代に入ってからである。なお、バングラデシュは1970-75年に平均寿命が一時急落しているが、これは、20世紀最大の自然災害となった1970年のサイクロン被害(犠牲者50万人)やパキスタンからの分離独立戦争(1971年、死者100万)によるものである(サイクロン被害は図録4367、戦争犠牲者は図録5228参照)。

 ネパールはほぼインドと同じような推移を辿っている(出生率水準はインドより高いが)。また、スリランカは1960年代には早くも多産から少産の方向に変化をはじめ、他国より、人口転換の過程を早期に辿って、既に終息期に入っていることが分かる。

 次ぎに、日本、中国、韓国といった東アジア諸国の人口転換を同様の図で辿った。

 ここでは、多産多死から少産少死までの人口転換過程を過ぎ去り、近年の日本や韓国では、さらに出生率が人口置換水準以下(合計特殊出生率が2未満)へ進展していく「第2の人口転換」の状況が発生している。

 中国も韓国も1950年代〜1960年代は多産多死から多産少死へ向かっていた。中国の場合は、多産のままの平均寿命の延長幅が大きかった(横に長く伸びる線がこれを表現)。このため、大変な人口増加が予想されていたと考えられる。こうした中で、1970年代から急速に出生率が低下した。これがいわゆる中国の一人っ子政策であり、低下したというより低下させたという側面が線の急降下にあらわれているといえよう。なお1950年代後半と1960年代前半の平均寿命の停滞は、1960年前後の大飢饉の犠牲者数の多さによっている。図録8210にこの点を含め中国の出生率と死亡率の推移を分析しているので参照されたい。

 日本の場合は、すでに戦後の段階で多産少死の段階は過ぎており、典型的な人口転換のカーブとはなっていない。

 日本と韓国の現在の段階は、少子化が1に近づく第2の人口転換の過程に入っていることも図からうかがえる。中国もこれと近い状況である。図からうかがえる通り、国連の将来推計では、日本、韓国、中国の出生率は回復していくものとされている。なお日本の平均寿命予測が2075-80年から90歳をこえ、2095-2100年には93.3歳(男89.0歳、女95.7歳)に達していることにやや驚かされる。

(2011年10月31日収録) 


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