日本を含む主要国の離婚率の推移を戦後1947年からたどったグラフを掲げた。ここで対象としたのは、日本、米国、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、スウェーデン、英国、オーストラリア、韓国、中国、ロシアの12カ国である。

 全体傾向としてまず目立っているのは、1960年代後半から1970年代にかけて、それまで比較的低く安定的に推移していた離婚率が上昇傾向に転じた点である。そして、その後も上昇し続けた国もあるが、おおむね、高い水準で再度横ばいに転じている場合が多い。

 こうした全体的な離婚率上昇の要因としては以下が考えられる。
  • 人々の価値観の変化
  • それに伴う女性の労働市場への進出
  • 1970年代の離婚法改革(離婚が禁止されていたイタリア、スペイン、ポルトガルなどの離婚合法化、また合法化されていた国でも離婚が相手に非がある場合に認められる「有責主義」から結婚生活に修復の見込みがないという「破綻主義」へ転換)
 もともと他の国より離婚率の高さで際立っていた米国は、同時期に上昇をみたが、1981年の5.27をピークに、低下傾向局面に入った。米国ほど目立っていないが英国も同様のパターンで推移している。ドイツと日本は米国に大きく遅れて2000年代にピークに達し、低下に転じている。その他のスウェーデン、デンマーク、フランス、オーストラリアといった国々は、1970年代における離婚率の上昇の後、ほぼ横ばいで推移している。

 ロシア(ソ連)は、米国と並んで離婚率の高い国として知られているが(図録9100参照)、1960年代前半までは、米国と異なりそれほど高い離婚率でなかったが(統計上の理由かも知れない)、1960年代後半以降急上昇し、1991年のソ連崩壊以降も、大きく波打ちながら2001〜02年に過去最高値を更新し、その後一時低下したが、なお、高いレベルで上下動を繰り返している。この点は自殺率の傾向とも軌を一にしており、ロシア社会特有の問題点が現れているとも言えよう(図録2774参照)。

 なお、イタリアは、一貫して自殺率と同様離婚率も低い国として目立っている(図録2774参照)。しかし、2010年代後半にはかなり他国に近づいた。

 東アジア諸国は、当初、もともと欧州諸国とそうレベルが違わなかった日本は別にして、韓国、中国はもともとは離婚率が非常に低かった。やはり儒教的な価値観が支配的であったからといえよう。

 韓国は、1990年代後半から急上昇を遂げ、日本や欧州諸国を一気に抜き去り、2003年のピークでは、図の主要国の中では世界第3位の高さに到達しているのが驚異的である。このように離婚率の動きは、出生率の急低下、自殺率の急上昇とならんで韓国社会の急激かつ急速な大変化をあらわす指標のひとつとなっている(図録1550、図録2774参照)。なお、当時の上昇傾向の中で98年には一段と離婚率が跳ね上がっているが、この年はIMFから緊急融資を受ける事態となった97年経済危機の翌年であり、負債が家族に及ばないよう偽装離婚した夫婦が多く、「IMF離婚」と呼ばれていたという(毎日新聞2006.12.11夕)。

 中国は最近離婚率の上昇が著しいことで目立っている。日本やヨーロッパ諸国を抜きさり、今や、米国を抜いている。毛沢東時代における家族関係に対する伝統重視の考え方を受け継ぎ1994年婚姻法では離婚には雇用主かコミュニティの長による保証が必要だった。2003年にはこうした制約が廃された。中国の離婚率の上昇が2003年を境に大きく加速しているのはこうした理由によるものだろう。こうした法制度上の変化を含めて、以下のような要因が離婚の増加の背景として考えられる(The Economist January 23rd 2016 の記事による)。
  • 道徳上、法制度上の伝統重視から自由の価値へのシフト
  • 女性の教育程度の上昇に伴う婚姻についての権利意識の目覚め(離婚も妻の方からの開始が多い)
  • 人類史上最大ともいえる巨大な国内移動で家族が離れ離れになるケースが増大
  • 出稼ぎ者も故郷で結婚する傾向が強いので出稼ぎ先での浮気が多くなる(以前は職場での男女の出会いの機会が限定されていたが今はそれが簡単に)
  • 豊かさの向上により、妻の離婚後のひとり暮らしが以前よりは容易に
  • 世界で最も容易で安上がりな離婚の制度(英国のように結婚解消の前には別居期間が必要ではない)
  • 中国の法的結婚可能年齢は22歳と高く(日本は男18歳、女16歳)、婚前同棲も少ないという社会環境の下で、経験不足により適切な相手との結婚が容易でない
  • 一人っ子が多く、うるさい父母・祖父母の干渉で夫婦関係がこじれがち
 中国政府は西欧的価値観を非難し夫婦のきずなの儒教的価値観を賞揚しているが効果は薄いようだ。

 日本の離婚率の上昇について、国内的には問題視する場合が多いが、上昇程度、変化のスピードなどで、世界の動きの中では、まだ、マイルドな動きとなっているといえよう。しかも21世紀に入ると長期的な低下傾向に転じている。日本の離婚率の推移については図録2777参照。

 世界では日本のような皆婚慣習を維持している国は珍しくなっており、男女のカップルの解消は必ずしも離婚率でたどれない状況になっている(婚外子割合が半数を超える国も増えている−図録1520)。すなわち欧米の離婚率の低下傾向はそもそも婚姻関係自体が少なくなってきているからという要因も無視できないと思われる。離婚率に与える年齢構成の影響やこうした婚姻率レベルの影響を除くため、離婚率を婚姻率で除した相対離婚率を主要国について算出した(下図)。すると、日本の離婚率は主要国の中で最低であることが分かる。また、そもそも婚姻自体が少ないフランスなどは離婚率が米国以上であることが分かる。


 さらに、参考のために以下に相対離婚率の長期推移を米国について掲げた。1970年代前半までに離婚は急増したが、その後、婚姻件数のだいたい半分の離婚件数で安定的に推移している。相対比では米国の離婚は増えても減ってもいないといえよう(米国では結婚自体が富裕層の専有物と化している状況については図録1520参照)。


(2005年11月4日収録、11月7日韓国最新データ追加、2006年12月12日更新、2008年6月5日更新、2010年11月15日更新、2011年6月14日コメント・図追加、2015年1月31日更新、2016年4月1日中国データ・コメント追加、タイデータ削除、2019年4月26日相対離婚率、2020年12月23日更新)


[ 本図録と関連するコンテンツ ]



関連図録リスト
分野 地域(海外)
テーマ  
情報提供 図書案内
アマゾン検索

 

(ここからの購入による紹介料がサイト支援につながります。是非ご協力下さい)