日本は、侵入窃盗については少ない方から3番目、置き引き・すりと車上荒らしについては最下位であり、泥棒の少ない国となっている。 侵入窃盗が最も多いのは英国の被害率3.3%であり、日本の3〜4倍である。私物盗難・すりの被害率ではアイルランドが7.2%と最も多く、車上荒らしでは、ニュージーランドが6.6%で最も多くなっている。 毎日新聞(2011年1月17日)は「trend:イタリア 減ってもまだ多い泥棒」という記事でイタリアの泥棒事情を追っている。「イタリアというと、ビットリオ・デ・シーカ監督の映画「自転車泥棒」(1948年)が繰り返し放送されてきたせいか、泥棒のイメージがある。観光客がよく遭うスリやひったくりもこの悪評を強めてきた。ベルルスコーニ政権が反移民のキャンペーンのたびに「治安の悪化」を口にするように、イタリア人自身も泥棒の多さをよく語る。実際のところ、どうなのだろう。」 データとしては、以下の泥棒被害率の推移を掲げている。 泥棒被害世帯率(イタリア国立統計局)
「これを見れば、過去20年で約10倍、人口の約1割に膨らんだ移民が治安を悪くしたという右派のキャンペーンは明らかなうそだ。それでも泥棒は多い。毎日新聞のローマ支局兼住宅も昨年末、2人組の侵入窃盗に遭い、現金や宝飾品などが盗まれた。通報の2時間後に来た警察官2人は「ジンガリ(ロマ人の蔑称)の犯行だろう」と言うだけで、指紋採取など鑑識作業もしなかった。はなから「検挙は無理」と見ているのだ。(中略)「すべてをロマ人のせいにするのは、イタリア警察の責任逃れ。ロマ人は狙いやすい家のブザーに暗号をつけるという話も都市伝説にすぎない。泥棒はもっと多様だ」と国家警察のラファエレ・クレメンテ防犯局長(50)は言う。」 「日本の09年の住居侵入窃盗の認知件数は約8万件だが、これを単純に日本の世帯数約5000万で割れば0.16%となり、イタリアは数十倍多い。(中略)数は減っても、被害額は減らない。かくてイタリアには「泥棒の国」のイメージが定着したままだ。」 泥棒被害率の国際比較によれば、イタリアは、「侵入窃盗」はOECD平均をやや上回っているが、「私物盗難・すり」や「車上荒らし」は、OECD平均をかなり下回る。日本と比べると「侵入窃盗」の被害率は2倍強にすぎない。「自転車泥棒」についても、図録6371で見た通り、イタリアの被害率は低い方である。「強盗」も図録2788dで見た通り少ない。従って、イタリアは泥棒の多い国とはいえない。毎日新聞のように認知件数から推測するのは誤りだといえる。 図の犯罪被害率は、各国国民にきいた結果であり、観光客の泥棒被害については考慮されていない。訪問外国人と住民とで泥棒の被害率に大きな差がある可能性が高い。また、都市国家の伝統の強いイタリアでは住民の相互モニター機能が高く、大都市や観光都市は別にして、全国的には泥棒が活躍しうる余地は小さいと推測される。 毎日新聞記事が貴重なのは、実際の被害率は大きくなくとも、イタリア人やイタリアへの観光客は「イタリアは泥棒の多い国」と感じていると分かる点である。なお、イメージと異なりイタリアの汚職・贈収賄も少ない点は図録2788f参照。また、実際の犯罪率と犯罪への不安は必ずしも比例しない点については、図録2788を参照(そこで掲げた図を以下でも再掲しておく。泥棒に限定していないが、一般に、イタリアは日本と同様、犯罪が少ないのに不安は大きい国である)。警察官密度との関係については図録5196参照。 調査対象は26カ国であり、侵入窃盗における犯罪被害率の低い順に、スウェーデン、フィンランド、スペイン、オーストリア、ドイツ、日本、ノルウェー、オランダ、ポーランド、ポルトガル、フランス、アイスランド、スイス、ハンガリー、ルクセンブルク、ベルギー、ギリシャ、カナダ、イタリア、アイルランド、オーストラリア、米国、デンマーク、メキシコ、ニュージーランド、英国である。 (2011年3月4日収録、3月9日コメント・再掲図追加、2015年8月29日「置き引き」を「私物盗難」に用語変更)
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