ピューリサーチセンターでは2024年春に世界における様々な宗教的・霊的な信念や慣習の普及状況を探る調査を36か国で実施している。この調査では、そうした信仰のしるしを身に着けているかをどうかを尋ねる設問を設けている。図には、各国、そして各国の各教徒(無宗教を含む)の結果を示した。 国別計の1位はタイとインドの63%である。 仏教徒が多いタイ人が身にまとう主なシンボルは、仏教を象徴するアイテムや、タイの伝統的な衣装などである。特に、仏教の象徴である仏像や仏教のシンボルをモチーフにしたアクセサリー、伝統的なタイの布を身にまとったり、仏教の経文が書かれたお守りを持ち歩くなど、仏教との関わりが深いアイテムが多く見られるという。 祈りを捧げたり、自宅に祭壇を設けたりするなどの活動に加えて、多くのインド人は、特別な衣服、宝石、ひげ、額のしるしなどを通じても宗教的な信仰心を示すことにこだわっている。シーク教徒のターバンは特に有名である。 インドはヒンズー教が多くを占める国である。インドのヒンズー教は66%がそうしたシンボルを身に着けていると回答している。少数派のイスラム教徒でも53%がそう回答している。 インドでもバングラデシュでもイスラム教徒よりヒンズー教徒の方がそうしたシンボルの着用率は高い。 バングラデシュではヒンズー教徒もイスラム教徒もインドよりそうしたシンボルを身に着けている割合は高いが、バングラデシュはイスラム教徒が多いので、国計ではインドに次ぐ3位となっている。 4位のギリシャ以下は、キリスト教国が多いが、キリスト教徒がそうした宗教的シンボルを身に着けている割合は国によってかなり差がある点が目立っている。 同じキリスト教徒でもギリシャ正教、ローマ・カトリックのそれぞれの本拠地であるギリシャやイタリアではどちらも66%と高いのに対して、プロテスタント国のドイツやスウェーデンでは、それぞれ、20%、15%とずっと低くなる。形から入るのもありとするカトリックと内面第一主義のプロテスタントという対比があらわれているといえよう。 大陸別ではアフリカ、中南米のキリスト教徒で値が高く、西欧、北欧で値が低くなる傾向があるようだ。アジアや北米はその中間のようである。 アフリカや中南米の黒人のキリスト教にはもともとの土俗信仰が習合しているという側面がある(日本の神仏習合のようなシンクレティズム。中南米のカトリックの聖者信仰が実はアフリカの神に対するものだったりする事例は図録8820参照)。アフリカ、中南米のキリスト教徒で値が高いのにはそうした背景も影響している可能性があると思われる。 イスラム教でもバングラデシュやインド、ナイジェリア、ケニヤでは5割を越えているが、マレーシア、インドネシア、トルコでは、それぞれ、18%、18%、21%とかなり低くなる。イスラム男性のトルコ帽、ペチ帽(インドネシア)はもはや少数派なのかもしれない。 仏教徒でも、70%というタイの高さと比較するとスリランカ49%、韓国38%、日本20%と大きな差がある。 なお、宗教をもっている者と無宗教の者とを比較すると、いずれの国でも当然のごとく、無宗教で値は低い。従って、無宗教が多い日本では国計が15%と非常に低くなっている(スウェーデンの9%に次ぐ下から2位)。 ウィキペディアによると、装身具は、日本においても呪術的な意味を持つシンボルとして縄文時代から古墳時代にかけて広く普及し、指輪、耳飾、腕輪、首飾、足飾など、多種多様な装身具が各地の遺跡より出土している。しかし、奈良時代以降、明治時代に至るまでの約1100年間、これらの装身具は忽然と姿を消し、日本史上の大いなる謎とされている。 安土桃山時代に来日したポルトガルの宣教師ルイス・フロイスは、『ヨーロッパ文化と日本文化』のなかで装身具についての西洋文化と日本文化の違いについて以下のように言及している。 「我々の間では真珠は装身具の材料に用いるが、日本では製薬のために搗き砕くより他には使用されない。また、ヨーロッパの女性がつける宝石のついた指輪なども一切つけず、金、銀で作った装身具も身に着けない」。 本図録でふれた宗教的な装身具の着用率の日本における特段の低さもこうした国民性の一環として理解できよう。日本人はなぜ装身具に何らかの意味やシンボル性を認めることが不得意、あるいは嫌いなのだろうか。装身具は、貧富の差、身分の差、民族差、思想・宗教・文化の差などをあらわにしがちである。そうした差異はなるべく目立たぬようにしてトラブルを避ける習性ゆえなのだろうか(和を以て貴しとなす)。この習性に関しては、服飾の身だしなみにおいて「朋輩其他の者に羨まれ、世間に目立ちはせぬかと云ふ程合を考へ」るのが農本主義者権藤成卿の考える社稷的自治の核心だとする説を参照(図録9464a)。 調査対象国は36か国、すなわち図の順に、タイ、インド、バングラデシュ、ギリシャ、ナイジェリア、フィリピン、南アフリカ、メキシコ、コロンビア、ケニア、ポーランド、イスラエル、ガーナ、ブラジル、アルゼンチン、ペルー、チュニジア、米国、チリ、イタリア、スリランカ、シンガポール、マレーシア、スペイン、ハンガリー、カナダ、英国、インドネシア、トルコ、韓国、フランス、オーストラリア、オランダ、ドイツ、日本、スウェーデンである。 (2025年6月25日収録)
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