日本では断食(fasting)をする者は2%に過ぎないので日本人にとって断食にはじみが薄いが、世界的にはイスラムやキリスト教で断食が広く普及している。

 ピューリサーチセンターでは2024年春に世界における様々な宗教的・霊的な信念や慣習の普及状況を探る調査を36か国で実施している。この調査では、宗教的な理由で実際に断食をしているかどうかを尋ねる設問を設けている。図には、各国、そして各国の各教徒(無宗教を含む)の結果を示した。

 イスラム教の人々が3月下旬から4月下旬まで行う断食文化のことをラマダンという。この期間中、人々は日の出から日の入りまでの飲食を避けなければならない。

 キリスト教の断食は、主に四旬節(イエスが荒れ野で40日間断食をしたことに由来する復活祭前の40日間)に行われる。この期間には、大斎(食事の量・回数を制限)と小斎(肉食を控える)がある。大斎は18歳以上60歳未満の健康な信者が、小斎は14歳以上の健康な信者が守る。

 特にイスラム教は断食をする宗教として知られている。イスラム教徒であるのに断食比率が若干低いのは米国80%、マレーシア78%、トルコ86%、ケニア87%などだが、その他は9割以上が断食をしている。

 従って、国単位でも、イスラム教国で断食比率が高い。1位はバングラデシュの98%、2位はインドネシアの91%となっている。

 3位はヒンズー教国のインドの84%である。

 ヒンズー教徒の断食は、イスラム教のラマダンのような1ヶ月の断食とは異なり、地域や習慣によって様々な形で行われる。例えば、月に2回水を摂取しない断食や、満月・新月の日に行うものなどがあるという。

 しかし、図のデータからヒンズー教徒は何らかのかたちで断食を行っている場合が多いことがうかがわれる。バングラデシュでは少数派のヒンズー教徒の断食率は98%と多数派のインドのヒンズー教徒の84%を上回っている。

 一方、キリスト教徒は、イスラム教やヒンズー教とは異なり、国によって断食実施率にはかなり幅がある。

 アフリカのキリスト教徒はナイジェリアの79%、ガーナの69%、ケニヤの71%と多くが断食を行っている。

 他方、アフリカ以外のキリスト教徒は、ギリシャの66%からスウェーデンの4%まで断食実施率に大きな差がある。主要国である米国、フランス、英国、イタリア、ドイツでは20〜30%程度である。

 仏教では僧侶以外では余り断食をしないようだが、タイの仏教徒は25%、シンガポールの仏教徒は24%が断食をしている。日本の仏教徒は2%と非常に低い。

 日本の場合は国全体でも断食率は2%と調査対象国のうちで最低である。日本人ほど断食になじみが薄い国民はないのである。無宗教が多いからというだけでは説明がつかない。無宗教でも南アフリカでは24%、中南米では10%以上が断食を行っている。無理やりでも食を断つ機会を設けて、食事をとれない困窮者を思いやり、あるいは空腹時のことを思い起こすと言う行動を何故とらないのであろうか。

 年齢間の差が統計的に有意な結果の国について、年齢別の断食実施率のデータが原資料に掲げられているので、これを下図に示した・


 宗教的な行いとして断食の習慣がある国では高齢者の方が若年層よりも断食率が高くなっている。そうした国において、イスラム教国であるトルコでは年齢差はそれほど大きくないが、キリスト教国のポーランドやギリシャでは年齢差が非常に大きくなっており、若年層が伝統文化から離れる傾向が認められる。

 一方、興味深いのは、高齢者でも断食を余りしてこなかったカナダから英国までの欧米先進5か国では高齢層より50歳未満の青壮年の方が逆に断食実施率が高い点である。特にフランスでは18-34歳の若年層の断食実施率の高さが35%と目立っている。こうした国では、健康上の理由、あるいはビーガン的思想の影響で断食を見直す機運が生まれているのだと思われる。

 ページ末尾には調査結果から対象国の無宗教を含む宗教構成を掲げておいた。ほとんどの国が、何らかの宗教を多数としているが、シンガポールは中華系、マレー系、インド系の住民が暮らし、宗教においても多様性が目立っている。無宗教比率がもっとも高いのは日本である。


 調査対象国は35か国、すなわち図の順に、バングラデシュ、インドネシア、インド、ナイジェリア、トルコ、マレーシア、ガーナ、ケニア、イスラエル、ギリシャ、ポーランド、南アフリカ、フィリピン、シンガポール、ペルー、コロンビア、スリランカ、メキシコ、タイ、アルゼンチン、ハンガリー、ブラジル、チリ、米国、フランス、英国、イタリア、カナダ、ドイツ、スペイン、韓国、オーストラリア、オランダ、スウェーデン、日本である。

(2025年7月1日収録)


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