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 GNP、GDPは国の経済規模を測る指標として、また経済発展を測る指標として定着しているが、経済万能主義は誤りだとして、それに代わる発展の指標がかねてより追究されている。

 有名なのは人間開発指数(HDI−Human Development Index)であり、厚生(ウェルフェア)の考え方としてインカム(所得)・アプローチからケイパビリティ(潜在能力)・アプローチへの転換を打ち出したノーベル賞経済学者アマルティア・センの影響下、比較的計測しやすい指標として国連開発計画(UNDP)が毎年計測、公表している(図録1130参照)。

 幸福の大きさを指標にしようとする試みもある。ブータンのワンチュク国王は、約30年前に、単なる開発ではなく、少しでも「幸せ」を増加させることを国家の使命とすべきとして、「国民総幸福量」(GNH −Gross National Happiness)との概念を提唱したと言われ、GNHを測る指標も取り組まれている。

 2005年10月には、外務省主催(日本・ブータン友好協会共催)にて「ブータンと国民総幸福量(GNH)に関する東京シンポジウム2005」が開催された。時事通信(2010年12月23日)によれば、「フランスではノーベル経済学賞受賞者らを集めてサルコジ大統領が設置した委員会は2009年、社会的発展を測る指標として幸福度の重要性を提言した。英国も幸福度の計測を検討中という。

 民主党政権は2010年6月、幸福度に関する統計の整備方針を「新成長戦略」に盛り込み、2020年までに「幸福感を引き上げる」との目標を掲げた。これを受けて内閣府は、経済学や社会学などの有識者らで構成する研究会(座長・山内直人阪大大学院教授)を設置し、同年12月に初会合を開いた。今後の議論では、諸外国や国際機関での取り組みを調べながら、日本特有の家族観なども考慮し、測定方法を開発するという」。OECDの同じ考え方で、住居、所得、健康など11項目を点数化したは「より良い暮らし指標(Your Better Life Index)」を各国の暮らしの豊かさ・幸福度の指標として2011年から公表している。

 しかし私はかねがねこうした指標化には懐疑的であり、むしろ、幸福をどのくらい感じているかが最終的な基準ではないかと思っていた。所得面でいえば貧しくとも幸せであり得、金持ちでも不幸せであり得るのである。幸福度は、何も、GDPやHDIのように無理矢理指標化する必要はなく、単純に、当人に聞いてみればよいのではと感じていた。世界価値観調査では、各国国民の幸福度を聞いているのでこれを図録化した。

 幸福度の計測があやしい試みであるとの見方は実は常識的な考えであり、それを、逆手に取った次のような名言(迷言)もあるほどだ。「幸福や生活の豊かさを測ろうなんて、何ていい加減な奴だと統計家でない者はよく批判するが、それじゃあ、あなたはGDPを測ろうとしたことがあるんですか、と私は言いたい」(図録9480参照)。

 世界価値観調査は、世界数十カ国の大学・研究機関の研究グループが参加し、共通の調査票で各国国民の意識を調べ相互に比較している国際調査であり、1981年から、また1990年からは5年ごとの周回で行われている。各国毎に全国の18歳以上の男女1,000〜2,000サンプル程度の回収を基本とした個人単位の意識調査である。最新の周回は2017年からとややいつもより遅れて実施された。

 なお、ここで取り上げている2017年期は2017〜2020年の調査であるが、ヨーロッパ各国は一部を除いて欧州価値観調査と共同で実施された。

 幸福度については、当図録では、「非常に幸せ」だけとったり、+2〜-2で採点したりせず、単純に、「非常に幸せ」と「やや幸せ」の回答率の合計とした(母数の合計には無回答、分からないを含む)。これは、各国の言語における「非常に」「やや」の表現は、ニュアンスが異なり、回答結果に言語表現による差が生じうるのに対して、幸せかそうでないか自体の判断は言語上のバイアスを免れやすいからである。また、日本人は断定的な回答を嫌い、「どちらかというと○○」という回答を選ぶ傾向があることが知られているが、こうした国民性によるバイアスを避けるためでもある。図では幸福度の大きい順に国を並べた。

 これによれば、幸福度が、世界一なのは、ベトナムであり、これにキルギス、アイスランド、アンドラ、タジキスタン、ノルウェー、インドネシアといった国が続いている。逆に幸福度が最も低いのは、ジンバブエであり、ブルガリア、イラク、イラン、ギリシャがこれに続いている。

 日本の幸福度は、79カ国中36位と、半分よりやや下の水準である。前回2010年期には66カ国中30位と、半分よりやや上の水準であったので(図録9480y)、やや位置は低下した。日本の幸福度自体が低下した訳ではないので(図録2472)、世界の幸福度が全体として上昇した結果である。

 さらに、表示選択で選べるもう1つのグラフとして大陸別に幸福度を整理した図を掲げた。こちらの図の方が、幸福度の国別の見取り図としては分かりやすい。

 まず、90%以上の高幸福度の国は、北米・中南米、ヨーロッパ・中央アジア、東アジア・太平洋に分布していることが分かる。

 ヨーロッパ・中央アジアでは、おおむね、北欧>中欧・南欧>東欧・旧ソ連諸国の順に、幸福度が大きくばらついているが、中央アジア旧ソ連のキルギスが最も幸福度が高く、同じくタジキスタンも幸福度が高かったり、必ずしも順番は法則的ではない。

 米国やドイツ、日本は先進国の割に所属する大陸の中で幸福度がそう高くない点が目立っている。

 中東・北アフリカ、サハラ以南アフリカの多くは、中・低幸福度に分布している。

 アジア・太平洋の幸福度分布は、東南アジアは最も高いベトナムからかなり低いタイまでばらつきが大きい。

 また、台湾、韓国、日本、中国など東アジアはいずれも90%前後の中幸福度になっている。儒教文化圏の東アジアは、東南アジアと比べると経済発展度は高いが、幸福度では逆転していることから、幸福度を左右する要素として、文化や国民性を無視できないことがうかがわれる。

 東アジアの中で香港は、中国に返還されて、従来の自由主義体制が一転し、国民にとっては意に沿わない施政の下にあるせいか幸福度が例外的に低くなっている。

 アジアの中でも、東アジアは高い所得水準の割には幸福度が高くないのは、儒教国特有の要因として、男の社会的責任が強調され過ぎて男性の幸福度が女性と比較して低いという側面(図録9484参照)や「文」の尊重からマイナス面を強調するマスコミの儒学的報道の影響で実際の状況よりも幸福感を感じにくいという側面(図録3963参照)などが働いているためと思われる。

 南アジアのパキスタン、バングラデシュは所得水準の低さの割に幸福度は低くないのが目立っている。

 中東・北アフリカは、2010年期には、幸福度世界トップのカタール、幸福度世界最下位のエジプトがともに属している地域だったが、今回の2017年期では、高所得産油国が調査対象から外れたので、比較的低い幸福度となっている。特に紛争の絶えない、イラン、イラクでは70%以下の低幸福度となっている。

 男女別の結果の国際比較については図録9484参照。日本は女性の幸福度の方が高い。また、「幸せがお金で買えるか」という点を所得水準とここで取り上げた幸福度との相関から図録9482で探っているので参照されたい。

 また、この図録の旧版である2000年データ版は図録9480xに、2010年期データ版は図録9480yに掲載しておいたので参照されたい。

 帯グラフの79カ国の国名を幸福度の高い順にあげると、ベトナム、キルギス、アイスランド、アンドラ、タジキスタン、ノルウェー、インドネシア、スウェーデン、英国、スイス、ニュージーランド、メキシコ、オランダ、モンテネグロ、フィリピン、ポーランド、マカオ、フランス、グアテマラ、台湾、バングラデシュ、プエルトリコ、デンマーク、オーストラリア、コロンビア、パキスタン、ブラジル、韓国、オーストリア、中国、フィンランド、スロバキア、スペイン、チェコ、ベラルーシ、日本、米国、エクアドル、ポルトガル、ミャンマー、エチオピア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、マケドニア、ヨルダン、ドイツ、レバノン、アルゼンチン、マレーシア、ニカラグア、トルコ、カザフスタン、エストニア、タイ、スロベニア、チリ、アルメニア、イタリア、キプロス、クロアチア、ハンガリー、ペルー、香港、アゼルバイジャン、セルビア、ロシア、ジョージア、ウクライナ、ルーマニア、チュニジア、アルバニア、リトアニア、ボリビア、ナイジェリア、エジプト、ギリシャ、イラン、イラク、ブルガリア、ジンバブエ。

(2006年7月21日収録、8月10日ブータン情報追加、8月14日1995年値追加、2011年1月4日更新、1月5日幸福指標化の経緯追加、11月10日幸福度算出法コメント追加、2014年5月7日更新、分布表追加、5月10日欧州価値観調査6カ国追加、7月7日分布表に数値を加え画像化、2015年11月2日世界価値観調査8カ国追加、幸福度分布表はデンマークを含め9カ国追加又は更新、2016年1月21日指標作成法コメント補訂、2021年2月7日更新)


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