GNP、GDPは国の経済規模を測る指標として、また経済発展を測る指標として定着しているが、経済万能主義は誤りだとして、それに代わる発展の指標がかねてより追究されている。

 有名なのは人間開発指数(HDI−Human Development Index)であり、厚生(ウェルフェア)の考え方としてインカム(所得)・アプローチからケイパビリティ(潜在能力)・アプローチへの転換を打ち出したノーベル賞経済学者アマルティア・センの影響下、比較的計測しやすい指標として国連開発計画(UNDP)が毎年計測、公表している。

 人間開発指数(HDI)は、「1人当たりのGDP」と「平均寿命」と「教育」という3つの指標の合成指数である。1人当たりのGDPは、個人が享受できる財・サービスの可能性をあらわし、平均寿命は、財・サービスを享受できる期間の平均をあらわし、教育は、財・サービスを享受する能力をあらわしており、3つが揃ってはじめて厚生が成り立つという考え方に立っている。

 ごく大雑把にこの考え方を要約すると、毎年の所得、すなわち1人当たりのGDPが同じでも、平均寿命が40歳の国と80歳の国とでは後者の国民の方が2倍の期間同じ厚生を受け続ける勘定となり、厚生が大きいと考える。また、1人当たりのGDPが同じでも、教育度の高いコンピュータを使える国民は、使えない国民と比べて、コンピューター10万円とバナナ10万円との間で選択が可能であり、バナナを食べるしかない国民より厚生が大きいと考えるのである。

 さらに幸福の大きさを指標にしようとする試みもある。ブータンのワンチュク国王は、約30年前に、単なる開発ではなく、少しでも「幸せ」を増加させることを国家の使命とすべきとして、「国民総幸福量」(GNH −Gross National Happiness)との概念を提唱したと言われ、GNHを測る指標も取り組まれている。2005年10月には、外務省主催(日本・ブータン友好協会共催)にて「ブータンと国民総幸福量(GNH)に関する東京シンポジウム2005」を開催され若干話題になった。

 私は幸福をどのくらい感じているかがやはり最終的な基準ではないかと思っていた。貧しくとも幸せであり得、金持ちでも不幸せであり得るのである。しかし、幸福度は、何も、GDPやHDIのように無理矢理指標化する必要はなく、単純に、当人に聞いてみればよいのではと感じていた。そう感じていた、矢先、各国国民の幸福度を聞いたアンケート結果があったので図録化することとした。

 世界数十カ国の大学・研究機関の研究グループが参加し、共通の調査票で各国国民の意識を調べ相互に比較する「世界価値観調査」が1981年から、また1990年からは5年ごとに行われている。各国毎に全国の18歳以上の男女1,000サンプル程度の回収を基本とした個人単位の意識調査である。これがそのアンケートである。

 これによれば、幸福度(「非常に幸せ」と「幸せ」の回答率の合計)が、世界一なのは、アイスランドであり、これにアイルランド、カナダが続いている。逆に幸福度が最も低いのは、ウクライナであり、ブルガリア、ロシアがこれに続いている。

 日本の幸福度は、60カ国中25位と、半分よりやや上の水準である。

 幸福度階級別に国を分類すると以下のようになっている。

幸福度階級別国数・国名
幸福度 国数 国名
90%以上 17 アイスランド、アイルランド、カナダ、オランダ、デンマーク、インドネシア、プエルトリコ、北アイルランド、ルクセンブルク、米国、スウェーデン、タンザニア、ナイジェリア、メキシコ、フランス、ベトナム、ベルギー
80%台 16 フィンランド、エジプト、オーストリア、フィリピン、韓国、スペイン、マルタ、日本、ベネズエラ、チェコ、ポルトガル、ヨルダン、南アフリカ、クロアチア、ドイツ、アルゼンチン
70%台 14 チリ、モロッコ、イタリア、中国、ウガンダ、イスラエル、バングラデシュ、トルコ、スロベニア、ポーランド、セルビア・モンテネグロ、インド、ギリシャ、ハンガリー
60%台 5 スロバキア、ペルー、エストニア、ベラルーシ、リトアニア
50%台 3 イラン、ラトビア、ジンバブエ
50%台以下 5 英国、ルーマニア、ロシア、ブルガリア、ウクライナ
60   

 図の対象国にはなっていないが、ブータンでは、政府の05年の調査では97%の人が「とても幸せ」「幸せ」と答えたという。ブータンでは医療と教育を無料にしている。「しかしこの国でも格差が広がりつつある。要因は急激なグローバリズムと情報化の波だ。国は99年、テレビとインターネットを解禁した。ドルジさんも3年前に月収の2倍近い日本製のテレビを買った。子供たちは画面に出てくるおもちゃやシャンプーを欲しがり、妻はマイカーにあこがれる。地方の農家が土地を売って首都に集まる。裕福な家の子は私立校や海外で学ぶ。WTO(世界貿易機関)への加盟を促す外圧も年々強まる。加盟すれば一部の富裕層だけが最高水準の医療を受けられる私立病院が海外から進出し、平等な医療システムも危うくなる。」(毎日新聞2006.6.23)

 次ぎに、幸福度と1人当たりGDPや上述したHDI(人間開発指数)との相関がどうなっているかが気になるので、それぞれの順位の相関のグラフも掲げておいた。

 このグラフは、おおまかに言えば、右下がりとなっており、1人当たりGDP(豊かさの指標)、あるいは人間開発指数(厚生の指標)と幸福度は関連してはいる。

 しかし、例外も多い。タンザニア、ナイジェリアは、1人当たりGDPやHDIでは、最低の部類に属するにもかかわらず、幸福度は、それぞれ、10位、11位とかなり高い。上述のブータンも同様であろう。

 逆に、日本、ドイツ、イタリア、イスラエル、特に英国といった主要先進国の多くは、1人当たりGDPやHDIの順位に比べて、幸福度は相対的に低い(相関図の右下がりの傾向線よりかなり上に位置する)。物質的な豊かさ、あるいはケイパビリティの高さが幸せに直結していないようなのである。

 なお、幸福度について調査対象国は、60カ国であるが、相関グラフに関しては、データの制約から、3カ国少ない57カ国が対象となっている。

 ちなみに、主観的なものである幸福度と異なり、1人当たりGDP(豊かさの指標)と人間開発指数(厚生の指標)の順位は、基本的にはパラレルであるが、両者が大きく食い違っている国としては、以下が目立っている。
  人間開発指数(厚生の指標)
        >
1人当たりGDP(豊かさの指標)
人間開発指数(厚生の指標)
       <
1人当たりGDP(豊かさの指標)
先進国 スウェーデン アイルランド
ルクセンブルク
途上国   南アフリカ

 スウェーデンは物質的な豊かさ以上に高い厚生水準にあり、その他の国は、その逆だと考えることができよう。

 最後に、参考のため、以下に、2000年データのない15カ国(スイス、ノルウェイ、オーストラリア、台湾、コロンビア、ブラジル、ウルグアイ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、パキスタン、アゼルバイジャン、ドミニカ共和国、グルジア、マケドニア、アルメニア、モルドバ)について、1995年の値をグラフにした。



(2006年7月21日収録、8月10日ブータン情報追加、8月14日1995年値追加)


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