ここでは、流入増で人口増に寄与しているだけでなく、流入した移民の出生により人口増に寄与しているという側面を見るため、各国における自国女性と移民・外国籍女性の合計特殊出生率(TFR)の違いを図録にした。資料は、早瀬保子・大淵寛編著「世界主要国・地域の人口問題 (人口学ライブラリー 8)」原書房(2010)に引用されているデータによる。 なお、図録9019にはより年次の新しいデータでかつEU外からの移民に限ったデータを掲げたので参照されたい。 グラフを見れば一目瞭然であるように移民あるいは外国籍女性の出生率は自国女性よりかなり高くなっている。特にフランス、イタリア、デンマークなどで差が大きい。多文化共生についてもこうした国では深刻な社会問題となる傾向があると考えられる。 一般に、移民は貧しい国から豊かな国に向けての流動が中心なので、貧しい国ほど出生率が高い(図録1563)のが通例である以上、こうした状況が傾向として生じるのは当然である。 各国の移民・外国籍女性の出生率のレベルの違いは東欧・南欧からの移民が多い場合は相対的に低くなるなど出身国の構成割合によっていると考えられる(出身国割合については図録3835参照)。 出生数構成については、移民ないし外国籍女性は、自国女性より出産可能年齢の者の比率が高いと思われるので、それだけ、当該国における移民、あるいは外国籍女性の出生児に占める割合は高くなる。 移民ないし外国籍女性の出生割合の上昇について、前述書を引用する。「2005年の時点において、イギリスのイングランドならびにウェールズ地方、オランダ、スウェーデン、ドイツなどにおいては、すでに全出生の5分の1が移民の女性によるものである。また、スイスではこの割合が4分の1を越えている。また、移民2世による出生を含めると、フランスとオランダでは、全出生の4分の1以上がやはり移民女性によって占められている。各国における移民女性の出生割合は、1990年代の半ばから2000年代の初めにかけて、移民の増加に伴い上昇している。しかし、この傾向が顕著なのが南ヨーロッパ諸国である。例えば、スペインでは外国籍の女性による出生割合が1995年の5%から2006年の16%へと急上昇している。同様にイタリアでも1999年の5%から2006年の12%へと短期間で大幅な上昇がみられる。特に、今日のヨーロッパの主要な大都市においては、移民(もしくは外国籍)女性の出生割合は50%に近づいている。」 なお、各国の合計特殊出生率(TFR)の上昇に占める移民女性の寄与分は以下のように限定的とされる(イタリアは例外)(各国のTFRの上昇については図録1550参照)。 イタリア(1996-2004) 3分の2 イングランド・ウェールズ(2004-2007) 15% フランス(1999-2004) 27% スウェーデン(2002-2007) 5% 米国での対比、すなわち元から在住の非ヒスパニック系白人女性と移民流入者の多いヒスパニック系女性とのTFRについても、図に示したが、やはり大きな差がある(非ヒスパニック系白人女性の出生率が高いのでそれほど差が目立たないが)。詳しくは図録8650参照。
図で取り上げた国は、移民女性との比較では、フランス、デンマーク、ノルウェー、英国、スウェーデン、オランダの6カ国、外国籍女性との比較では、フランス、イタリア、ベルギー、スペイン、オーストリア、スイスの6カ国である。 (2010年11月11日収録、2016年6月11日コラム追加)
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