米国の民族人種別の合計特殊出生率(TFR)の動きで目立っているのは、他の民族より格段に出生率が高かったヒスパニック系米国人が2006年の2.86をピークに大きく低下し、2020年には1.88まで大きく低下した点である。これは、サブプライムローン問題やリーマンショックによる経済低迷によって特に移民女性を中心に出産延期が起こったからとされた(2013年9月5日The Wall Street Journal)。しかし、その後も、ヒスパニック系の出生率低下は続いているため、最近では、欧州での同様な移民女性の出生率低下と同様に、移住先社会に同化する文化変容の効果と見られるようになっている(図録9020コラム参照)。 非ヒスパニック系白人はアジア人と同程度に出生率は相対的に低く、2017年には1.67となっている。黒人は1990年の2.48から1996年の2.09まで大きく低下したのちほぼ横ばいだったが最近は全米水準とほぼ同レベルで低下傾向にある。 黒人の合計特殊出生率は、かつては一貫して白人を大きく上回っていたが、今では、米国平均や白人と同程度に至り、非ヒスパニック系白人との差も大きく縮まっている。1990年代以降、少なくとも出生率の面では黒人の白人化が大きく進展したといえる。 参考までに日本人のTFRを示したが、日本は終戦直後のベビーブーム後、急速に出生率が低下したのに対して、米国は、日本より10年遅れてベビーブームが訪れた様子がグラフから明解に見てとれる。 なお、アジア系(太平洋島しょ部系を含む)のTFRも非ヒスパニック白人を下回る水準で推移している。アジア人の低下は日韓など東アジア諸国と共通である点が出生率に及ぼす文化的影響の観点から注目されている。 米国のTFRは、1990年以降、横ばいないし微増傾向から、最近は低落傾向にあるが、これは、ヒスパニック系をはじめ、各民族・人種が経済情勢や文化変容の影響でおしなべて低落傾向にあるためである。 従来から米国の中心となっている非ヒスパニック系白人については、ヨーロッパと異なり米国では政府による家族政策に目立った対策が見られないにもかかわらず(図録1580参照)、比較的高い水準を維持していた。この理由としては、(1)高い若年出生率、(2)出生力の高い宗教人口の存在があげられる(早瀬保子・大淵寛編著「世界主要国・地域の人口問題 (人口学ライブラリー 8)」原書房(2010))。同書によれば、
(2004年12月5日収録、2005年11月1日・11月8日更新、2010年11月10日更新、非ヒスパニック系白人の高出生率の理由を追加、2014年12月13日更新、2016年6月11日更新、2017年1月18日更新、2019年2月28日更新、2023年6月11日更新、2024年4月23日更新)
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