ここで移民としてとらえている指標の定義は、基本的には、外国生まれの人口である。 最初の図には、Y軸に、移民人口比率、X軸に所得水準(1人当たりGDP)をとった相関図を掲げた。これを見れば、右上がりの傾向線が認められ、一般に、経済が発展している国ほど移民人口比率が高い状況がうかがわれる。 最も移民人口比率が高いのは香港の40%、シンガポールの35%、ブルネイの34%である(図には掲げていないがマカオは57.0%とさらに高い)。こうした都市国家的な性格の強いアジア諸国では、高度成長期の東京圏がそうであったように(図録7675)、外部から人口を流入させながら急速な経済発展を実現して来た状況が明かである。 移民による国づくりとしてはシンガポールが典型である。「リー元首相は1965年の独立後、外国の企業や人材を利用し、経済発展を図った。法人税の引き下げなどで外国企業を呼び込み、70年代に急速な工業化を実現。経済の中心を金融・サービス業に移した今も国内総生産(GDP)の4割を外国企業や外国人労働者が稼いでいるとされる」(毎日新聞2015.5.27)。最近ではハイテク研究者の呼び込みを図った。「がん遺伝子研究の世界的権威、伊藤嘉明・シンガポール国立大教授(76)のオフィスには、少し古びた写真が飾られていた。10人余りの外国人科学者が、リー・クアンユー元首相を囲んでほほ笑んでいる。シンガポールは2000年に生命科学を国の成長戦略の柱に据え、世界中の著名学者をヘッドハンティングした。製薬、医療産業による経済成長を見込んだプロジェクトだ。伊藤教授は02年、京大の研究室ごと引き抜かれ「頭脳の流出」と騒がれた。日本では定年を間近に控えていたが、ここでは年齢や国籍は関係ない」(同)。「高齢化が進んでいるにもかかわらず、外国からの移民を拒む日本のようになれば、すべてが無になってしまう」とリー・クアンユー元首相は、2013年、シンガポールで開かれた銀行主催のフォーラムで語ったという。シンガポールの外国人労働者の推移は図録3830参照。 これらに次いで、オーストラリアとニュージーランドが移民人口比率約2割と高い。 一方、移民に依存せずに経済発展を実現してきた例外的な国として、日本と韓国があげられる。この2国では移民人口比率が1%台と極めて低い。これはこの2国が外国人の流入に対して制限的な法令を適用しているからである。 発展途上国では移民人口比率は概して低くなっている。中でも中国は0.05%と最低である。国内に膨大な動員可能人口を有するためと考えられよう。途上国の中でも相対的に発展度の高いマレーシアや旧ソ連のカザフスタン、アルメニアでは移民人口比率が高くなっているのも目立つ。 移民人口比率はストック面からのデータであるが、第二図に、フロー面からの指標である人口流入超過率を掲げた。この率がマイナス、すなわち人口流出が多い国としては、貧しい島しょ国であるサモア、トンガ、フィジー、スリランカなどが目立っている。また、旧ソ連のタジキスタン、アルメニア、キルギス、カザフスタン、アゼルバイジャンなども流出が多い。これらの地域では、国内に雇用機会が限られているため、出稼ぎや移住で国を出る者が多いことがうかがわれる。 フィリピンやバングラデシュの流出はここでは余り目立っていないが、出稼ぎ者の規模は過去からの累積で既に大きくなっており(出稼ぎ者の増のみが流出超過率としてカウントされる)、この結果、GDPの1割以上が海外からの送金によっている(図録8100)。 人口流出については、国内の不安定な政治社会情勢を嫌って、中国人の金持ち層が欧米などへ移民するケースも増えている(【コラム】参照)。 人口流入が多い国には3パターンがある。すなわち、@経済的にダイナミックな国(シンガポール、香港)、A相対的に豊かな国(オーストラリア、ニュージーランド、タイ)、B政治的理由でこの期に流入が多かった国(ブータン、東チモール)、である。 アジアの移民については、出生率低下を補う労働力対策として真剣に取り組まれる例も出てきている(図録1550参照)。 合計特殊出生率の低さが世界トップの韓国・台湾は「外国人労働者の導入を既に始めており、産業研修生制度以外にはごく限られた受け入れ制度しかない日本に比べると先を行っている。 滞在期間を限定するなど条件付きではあるが、韓国は04年から、外国人雇用許可制度を実施している。台湾は1990年以降、外国人労働者の雇用を認め、製造業、家事使用人、介護士などで東南アジアの外国人労働者が増えているとされる。 こうなると近い将来、日本と韓国、台湾の間で優秀な移民の獲得競争が行われる可能性もある。」(国立社会保障・人口問題研究所人口構造研究部長鈴木透、毎日新聞2012.3.26) 取り上げたアジア・太平洋地域の34か国を人口流入超過率の高い順に列挙すると、ブータン、東チモール、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド、タイ、香港、ブルネイ、モンゴル、マレーシア、カンボジア、日本、モルディブ、パプアニューギニア、中国、インド、韓国、ベトナム、ネパール、インドネシア、バングラデシュ、パキスタン、フィリピン、アゼルバイジャン、カザフスタン、キルギス、ラオス、ミャンマー、スリランカ、アルメニア、フィジー、タジキスタン、トンガ、サモアである。
(2014年2月19日収録、2015年5月27日シンガポール事例追加)
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