人口移動における都心回帰現象を見るため、図には東京圏の東京、茨城、埼玉、千葉、神奈川の4都県の年間転入超過数(転入数マイナス転出数)の推移を掲げた。東京都については23区とそれ以外(多磨地域等)に分けて掲げた。 東京圏以外を含め都道府県別の人口移動率は図録7684参照。 1980年代、特に後半には、東京都心部の著しい地価高騰に伴って、東京周辺地域の埼玉、千葉、神奈川における住宅開発が進み、人口も多く都心部から周辺地域へと移動していた。 バブル崩壊後の1990年代前半以降の大きな変化は、都心部が転出超過から転入超過に大きく転換した点、及びそれに伴って、埼玉、千葉といった周辺地域の社会増(転入超過)が大きくダウンした点に見られる。都心型あるいは臨海部の高層マンションの建築、入居が社会現象として取り上げられることが多くなったのもこうした変化のあらわれである(図録7830、図録2670参照)。 2006〜08年になると、都心23区への転入増は相変わらず高い水準である一方、埼玉、千葉も社会増が回復しはじめた。2009年〜10年には、08年秋のリーマンショック以降の経済不況が影響したとみられるが、東京23区、及び神奈川県への転入増は大きくダウンし、都心回帰の勢いが低下するとともに、近郊諸県への転入増も減少傾向となった。 茨城県が2009年〜10年と転入超過に転じているのは、都心から茨城県つくば市をむすぶ「つくばエクスプレス」(2005年開業)の沿線開発の影響であろう。 2011年には茨城と千葉がマイナスに転じている点が目立っている。これは同年3月11日の東日本大震災で茨城と千葉が津波や液状化に見舞われたことが影響していると考えられる。その後、2012年にもこの2県はマイナスが続いている。2013年以降には千葉はプラスに転じ、茨城、東京23区を除く他地域とほぼ軌を一にするに至った。 2012〜19年は東京23区が再度超過数増加傾向となり、都心回帰傾向が根強いことをうかがわせている。16年には一度減ったが、17年以降には再度増加した。 都心回帰の背景としては、バブル経済崩壊後の地価低下や高層マンションの供給増などによって都心にも比較的手頃な住宅が供給された点や夫婦共稼ぎが多数派となり(図録1480)、夫婦で家事・育児を分担するためには職住近接が求められるようになった点などが指摘される。子育てを終えた郊外居住熟年夫婦の都心転居は都心回帰現象の一部にすぎないと考えられている(石川義孝ら「地域と人口からみる日本の姿」古今書院、2011年)。もっとも首都圏では通勤時間は必ずしも短くなっておらず(図録2340)、都心回帰による職住近接の効果は限定的という見方もできよう。 東京は地価や住宅費を除いても物価水準が目立って高かったが、それが全国平均に近づいた点が都心回帰を大きく促しているという要因も見逃せない(図録4707、図録4708参照)。 大学の都心回帰の例については図録2340参照。 2020年〜21年は都心で急増した新型コロナの感染により、都心回帰の流れは急変した。東京23区への流入超過数が大きく低下した点にそれがあらわれている。 2020年〜24年については第1四半期別の値を示しておいた。新型コロナの感染拡大は20年4〜5月から顕著となったので、東京23区への流入超過も第2四半期以降に大きく落ち込み、第3〜第4四半期にはマイナス(転出超過)となった。その後、もっとも人口移動の大きい第1四半期の推移を見ると2023年まで大きく上昇し、24年はほぼ横ばいとなっている。 2022年までの段階では。都心回帰の逆流現象が新型コロナ終焉後も継続するか、どこまでリモートワークが定着するかは明確でなかったが、こうしたデータを見る限り、再度、都心回帰が復活しつつはあるが以前ほどでないようだ。 (大阪圏、名古屋圏の都心回帰) 大阪圏(近畿圏)、名古屋圏(中部圏)の都心回帰の状況は東京圏とは異なるようだ。以下、参考までにこの点にふれた2023年4月段階のダイヤモンド・オンラインの記事を引用する。 「近畿圏ではコロナ禍に突入した20年以降も、移動人口は大阪府および大阪市への一極集中が継続しており、その影響で兵庫県および京都府は年間を通じて転出超過が続いている。つまり“大阪の独り勝ち”である。 これは首都圏と違ってテレワークの実施率が低いこと(推計で10%程度との調査結果もある)、首都圏では都心と郊外の賃料格差が2倍程度と大きいが、他の圏域では格差が1.3倍程度にとどまるため郊外化する経済的なメリットが薄いこと、首都圏は圏域全体が広く、郊外方面に転居しても生活圏自体に大きな変化はないが、圏域が首都圏より狭い近畿圏は郊外方面に1時間程度転出すると生活圏自体変わってしまうこと、などがその主な要因として挙げられる。 また中部圏では、中心地である愛知県だけでなく、名古屋市でも転出超過の傾向=郊外化が顕著になっている。ただし、これは消費者物価高騰が始まった22年春以降に目立つ変化であり、テレワークによる生活様式の変化によるものというよりは、生活コストの上昇が背景にあるものと考えるべきだろう。」 (2005年4月4日収録、2006年2月27日・2008年2月28日更新、2009年1月30日更新、2010年2月4日更新、2011年2月28日更新、2012年7月17日更新、2013年2月25日更新、2014年1月30日更新、2015年2月5日更新、2016年1月29日更新、2017年1月31日更新、2018年1月29日更新、2019年1月31日更新、2020年2月1日更新、2021年1月30日更新、2022年1月29日更新、2023年1月30日更新、4月17日大阪圏、名古屋圏の状況、2024年5月11日更新、5月13日2020年以降速報的な意味のある第1四半期のみのデータ掲載)
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