全国を100とした場合の物価水準を「消費者物価地域差指数」(注)と言うが、東京都区部と横浜市の指数の推移を図に掲げた。 (注)地域差や店舗形態差などの物価構造については、2007年までは5年ごとの全国物価統計調査によって詳細に把握されていたが、5年ごとの調査では変化の激しい時代にそぐわないため、2013年からは小売物価統計調査の「構造編」として毎年調査されることになった。これには、「動向編」と位置づけられることになった従前からの小売物価統計調査のデータも再利用されている。このように、2007年までのデータと2014年以降のデータとでは、調査方法が変更されたため、厳密には直接比較はできないことに注意が必要である。 品目総合の推移を見ると、まだバブル経済の余韻が残っていた1990年代には、全国の県庁所在都市のなかで、東京は断然1位で対全国指数は113を超えたこともあった。2位は横浜であり、全国より1割弱高い水準だった。 それが、2000年代に入ると東京も横浜も対全国指数が大きく低下を始める。そして、横浜より東京の低下幅の方が大きかったため、1位と2位という全国順位は変わらないものの、2015年前後には、ほぼ両者の物価水準は同レベルにまで近づいた。そして、ついに2018年の調査結果では、両者は105.1で肩を並べた。 もっとも2019年〜20年には再度東京が横浜を上回った。これは2018〜19年には人口の都心回帰の動きが強まり(図録7680参照)、地価水準に影響した要因が大きかろう。 バブルの頃ほどではないが、家賃の水準は、やはり東京や横浜といった首都圏の中心部で特別に高くなっている。家賃も物価の一種だが一般の物価とは区別した方がよい場合もある。 そこで、家賃を除いた物価水準の推移を見ると、すでに2015年以降は横浜が東京を抜いてトップに立っている。そして、2018年には東京は103.0であり、横浜の104.2をかなり下回っている。19年も、それぞれ、103.4、103.9であり、横浜の方が高い。 トータルに判断すると、東京の物価高日本一の地位は横浜に譲り渡したといってよいだろう。 図録4708では、費目別の地域差の状況変化にふれ、ユニクロや100円ショップの展開など東京がトップの地位から陥落した理由を探っているので、興味のある方はご覧ください。 なお、日本の物価はインフレ基調の海外と比べてデフレ気味であるので(図録4722)、こうした東京の物価低下は海外都市と比較すると余計に目立っているはずである。 海外主要都市と比較しても東京の物価が安く、少なくとも若者にとって過ごしやすい都市になっているということを原田曜平氏(マーケティングアナリスト)が指摘している(プレジデント・オンライン記事)(注)。流行の最先端は東京ではなくむしろアジアでは上海やソウルだが、「世界の先進国の大都市部で最も楽(ラク)に暮らせる街」は東京だという。 (注) 同記事には20年間、日本に来ていなかったニューヨークの友人との会話が紹介されている。「東京の物価が高いって言うけど、今、東京でラーメン食べたらいくらくらいすると思う?」。それに対し彼は、「NYで食べると1500〜2000円くらいだから、高い東京だったら2500〜3000円くらいするんじゃない?」「800〜1000円だよ」。私のこの回答に対し、ものすごく驚く彼の顔が大変印象的でした。その後、実際に彼は奥さんと子供と東京旅行を久々に敢行し、「安くて本当に快適だった」と大変満足げでした。このエピソードが象徴するように、この約20年の間に、東京も含めた日本は、欧米先進国の大都市部に比べると、大変物価の安いエリアになった(なってしまった)のです。 (2020〜22年の特別事情) コロナ禍に襲われた2020〜22年には家賃を除いても再び東京が横浜を上回った。人口当たりの感染者数が特段に大きかった東京都区部では、コロナ関連で価格が相対的に上昇したものが多かったためと考えられる。下表には都区部だけは得られないので東京都全体の類別の価格差指数の推移を掲げた。光熱・水道費を除くすべての価格が2020年はより割高となったこと、特に被服及び履物費、教育費の割高が目立っていたことが分かる。 なお、2023年はなお東京が横浜を上回っているが、ほぼ同等の水準となっている。コロナ以前の状況に回復しつつあると思われる。 2020年の東京都区部の相対的な物価上昇の理由を、消費者物価指数(総務省統計局)の品目別の動きを全国と東京都区部で比較しながら探ってみると、都区部の価格上昇率が相対的に高かった品目にはコロナ禍で需要が増えたものも減ったものもあることが分かる。 需要が増えた場合の効果は理解しやすい。すなわち、コロナ禍の影響で品薄となって東京で特に価格が上昇したもののケースである。対前年上昇率を都区部と全国で見ると(以下、K値と呼ぶ)、「保健医療用品・器具」では、それぞれ、4.1%、0.8%となっており、マスクや消毒液などの価格動向が反映していると理解できる。休校などで需要の高まった塾の費用を含む「補習教育」のK値も2.5%、1.7%となっている。 需要が落ち込んだ品目でも東京の相対的な価格上昇(価格低下幅が小さい場合を含む)が観察されるものがある。ガソリン代を含む「自動車関係費」のK値は-0.1%、-1.0%である。外出が減ってガソリンの需要が減ったとはいってもそもそもクルマ移動の少ない都区部ではそれほどガソリン代は下がらなかったのであろう。 巣ごもり生活で需要が落ち込んだ品目としては「被服及び履物」があるが、この品目のK値は1.9%、1.1%と都区部でも全国でも価格は上昇しており、しかも都区部の方が上昇率が高くなっている。衣料の中でも特に高級服にこの傾向が顕著であり、地域的な消費特性の差が価格上昇の差にも反映したと考えられる。 2020年はコロナ禍の影響が大きかった年であり、こうした理由で東京の物価は相対的に高くなったといってよい。東京が本当にトップに返り咲いたのかは次年度以降のデータを待たなければならない。 (2020年6月20日収録、2021年9月18日・19・20日更新、2022年1月18日原田曜平氏記事引用、6月11日更新、2023年6月30日更新、2024年6月28日更新)
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