家賃などの「住居」や電車代・ガソリン代などの「交通・通信」では東京が相変わらずトップだが、トップの座を譲り渡した費目も多くなっている。十大費目のうち1位の費目数を見てみると、1997〜2007年は5〜7費目だったのが、2013年には4費目、そして2019年には「住宅」と「交通・通信」の2費目にまで減ってしまった。2019年には、ついに「食料」が1位から3位に低下してのが印象的である。 その結果、2019年にはついに「家賃を除く総合」で物価高トップの座を神奈川に受け渡している。 費目の中で東京の後退が特に目立っているのは「被服及び履物」である。2007年までの連続1位から2013年には20位、2019年には26位へと大きく順位を落としている。 2013年から調査方法や調査品目・銘柄などが大きく見直された影響もあるだろうが、基本的には、衣料品販売の構造変化が影響していると思われる。ユニクロなどのファストファッションがブレークしたのは2008年だった。それ以降、海外生産の安価な衣料品が東京でも主流となったため、東京の「被服及び履物」価格の対全国差が大きく縮まったと考えられる(注)。 (注)ユニクロは1号店のオープンから40周年を記念し、2024年5月24日から6月2日かけて「ユニクロ40周年感謝祭」を開催。それを機に、日本全国の約1.5万人を対象にユニクロ初となる大規模意識調査「全国一斉ユニクロ調査」を実施した。都道府県別で見てみると、「全身ユニクロの日がある」の回答率が高いランキングは1位三重県74.5%、2位沖縄県73.6%、3位鳥取県68.8%、最下位佐賀県43.1%であった。大都市の順位を見てみると、大阪府は6位、東京都は12位、神奈川県は15位、愛知県は31位となっていて、名古屋を除いて大都市圏でもユニクロを愛用している比率は高くなっている。しかも、東京都はユニクロを20着以上持っているランキングでは全国第3位となっている(ユニクロ末尾画像、及びめざましmedia2024.5.24)。 ユニクロだけでなく、ニトリ、眼鏡市場、ヤマダ電機のように基本的に共通価格で全国展開する小売業、あるいは全国統一価格のコンビニのチェーン店や牛丼、ファミレスなどの外食チェーン、そして百円ショップ。こうした地域価格差のない業態が躍進している。 物価が高いのが当たり前になっていただけに、東京人にとっては、こうした業態の店が出てきたとき、その値段は特に安く感じられただろう。そして、こうした商品の売り上げシェアが東京でも大きくなってくると、当然、東京の相対的な高物価が是正されてくるのである。 ニトリや百円ショップの商品は「家具・家事用品」に多くが含まれる。外食チェーンの商品は「食料」に属する。家電量販店が扱う商品のうち、白物家電は「家具・家事用品」に属し、パソコンやテレビ、オーディオは「教養娯楽」に含まれる。「被服及び履物」に加えて、こうした費目でだんだんと東京がトップの座から引いていることが表からうかがわれる。 百円ショップのサンダルを室内履きとして愛用していた私は、屋外で同じ商品を履いて歩く若者を池袋北口に抜ける歩行者専用トンネルを出た上り坂で見かけた。彼奴の靴代は百円かと驚いたことを思い出す。 こうした状況にさらに追い打ちをかけているのがアマゾン、楽天などのネット通販やヤフオク、メルカリなどのネットを介した中古品流通の普及である。物価の地域差指数は基本的に各地域の小売店舗における価格を調べて算出されている。そもそも地域性のないネット流通は対象外である。そうであるなら、実際の地域ごとの物価は、今回、見てきたデータ以上に全国平準化の傾向をたどっていると考えられる。 コロナの影響でやや逆転現象が見られるが東京への一極集中の動きは根強い。1990年代半ば以降はいわゆる都心回帰といって東京圏の中でも東京都区部への人口集中が目立つようになった(図録7680)。都心回帰がはじまったのは、東京の物価高が大きく縮小した時期に当たっている(図録4707)。物価がそれほど高くないのなら、通勤が便利で、利便施設の多い都心部に住もうという人々が増えたのも当然だったのではないだろうか。 (2022年1月18日収録、2月14日百円ショップサンダル、2024年6月20日全国一斉ユニクロ調査)
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