比較対象としているのは、日本、米国、カナダ、英国、ドイツ、フランス、イタリア、中国、韓国の9カ国である。 日本の消費者物価指数は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数で報じられるのが通例であるが、同じ定義で国際比較は無理なので、ここではすべてを含む総合指数ベースで表示している点に留意されたい(生鮮食品を除く場合と含む場合の違いは図録4720参照)。 (近年の動向) 2024年8月以降他国の物価情勢が安定化したため、日本の物価上昇率は主要国でトップに立った。 2022年12月の全国の消費者物価指数は生鮮食品を除いた指数が前の年より4.0%上昇した(上図は生鮮食品を含んだ値だが同値)。これは41年ぶりの歴史的な上昇幅だと報じられた。 (コロナと物価推移) 2019年までは各国でインフレ率は1〜3%程度で比較的落ち着いた動きを示していた。日本は欧米のインフレ範囲の最低レベルで推移していた。 ところが、2020年の3月、4月、5月は、中国をはじめすべての国で物価上昇率が低下した。新型コロナウイルスの影響で消費が低迷している影響である。その後、日本はさらに物価が低下に転じが、米国を先頭に物価上昇率が上向きとなった。 その後、新型コロナのインパクトが弱まりつつあった2022年の2月にはロシアのウクライナ軍事侵攻がはじまり、それにともなってエネルギーや穀物価格が上昇してインフレが顕著に進み、各国で大きな生活上の問題となった。 インフレの高進はロシアのウクライナ侵攻以前からはじまっており、またコロナ被害の程度とインフレがX字交差で推移していることから、コロナの鎮静化とともに生じた巨大なリベンジ消費にコロナの影響で失われた供給力がなかなか追いつかなかったことで世界的なインフレとなり、それをたまたま起こったロシアのウクライナ侵攻がさらに促したという見方もかなり説得力をもっている。 この大インフレ時代に国民が生活苦難に陥った欧米各国では、経済運営に失敗し国民を困窮に陥れたという理由で政権担当政党に対する批判が渦巻くこととなり、これが主因となって、例えば、今年行われた米国大統領選では、民主党バイデン政権の後継候補であるカマラ・ハリス副大統領が野党共和党の大候補トランプ前大統領に敗北した。フランスやドイツなど欧州各国でも政権が不安定となっているのも同じ理由からと言える。 日本ではインフレの程度が欧米諸国と比べてかなり低かったので、欧米諸国における生活難や政権運営の困難さに対して思いが至らない状況にある。 2024年に入り、世界的には、インフレは大きく収まりつつある。ところが、コロナ禍の影響が欧米より軽かった分、インフレ度も低かった日本では、折から進行していた円安のため、食料などの輸入物価の高騰が続き、それとともにインフレもなかなか収まらず、現状では欧米と比較しても高いインフレ率で推移している。 国際的な物価動向は、2013年上半期までは、3つのグループに分けられていた。@3%前後の高い物価上昇が続く英国、中国(2010〜11年頃に比べれば低い水準だが)、A上昇率1〜2%程度の中位的な動きの米国及びユーロ圏、Bデフレ傾向からなかなか脱却できない日本、である。
日本が特異なのは、このようにインフレでない点では物価の優等生、デフレである点では物価の劣等生であることであった。資本主義経済システムが共通であるのにこのように日本だけ特異であるからには、通貨当局の日本銀行のパフォーマンスの特異さによっているとされたのも無理はない。 ところが2013年9月以降にはついに日本も世界全体の水準並みあるいはそれを凌駕する水準となったことが図からうかがえる。デフレ脱却を目指した日銀の異次元緩和によるアベノミクスの効果があらわれたといえよう。 また消費税増税の影響で2014年4月以降には他国を上回る上昇となったが、消費税増税の影響が消えた2015年4月以降は他国並み、あるいはその中でも最低水準となった。アベノミクスの効果も途切れたといえよう。ただし、以前のように、他国の水準からかけ離れた低水準と言う状況はなお脱しているままなので、効果が続いているともいえる。 英国は2016年6月の国民投票でEUからの離脱が決定し、通貨ポンドがドルや円などの主要通貨に対して大きく下落した。このため、輸入品の価格上昇などを通じて物価上昇が目立つようになり、2017年に入ると3%前後と主要国の中で最高水準で推移するようになっている。 2017年には中国は成長率の鈍化を背景に以前のように高い物価上昇率ではなくなり、主要国の中位水準に落ち着いている。 2018年は引き続き各国差が縮まりながら大きくは横ばい傾向、米中貿易摩擦による景気低迷で年後半には低下傾向である。 2019年半ば以降は、中国の物価上昇が目立つようになっている。これは、豚コレラの拡大と米国との貿易抗争というダブルパンチに見舞われ、中国人の「国民食」である豚肉の価格高騰が続いている影響が大きい。米国との貿易抗争というのは、豚肉のエサになる米国産大豆に高い関税を課したためである。 また、韓国の物価上昇率も日本を下回る水準となっており、景気低迷を示している。 東京新聞の上海からの情報によれば、中国の2011年6月の消費者物価上昇率は「3年ぶりの高水準となる前年同月比6.4%だった。最大の要因は豚肉の高騰。中華料理に欠かせない食材とあって、生活への影響が広がっている。今春、子豚に疫病が広がり、豚肉が品薄になった。高騰を見越した生産者が売り惜しみ、投機筋は買い占めに走った。流通量が激減した豚肉の価格は5月に40%、6月に57%上がった。6月のCPI上昇率6.4%のうち、1.4ポイント分が豚肉上昇によるものだ。中国政府によると、6月最終週の卸値は1キロ約24元(約300円)で、前年同期のほぼ2倍という。
北京と上海で約20店を展開する老舗の上海料理レストランは今月、名物「豚角煮」の値上げに踏み切った。一人前58元(約700円)を、68元に上げた。責任者は「使う食材の総量の2〜3割が豚肉で、影響は深刻。値上げしたが、まだ赤字だ」と話す。日本のガイドブックで紹介されている有名店も、豚肉メニューの一人前の量を減らすなど、実質的な値上げに踏み切っている。 食肉業者がひしめく上海市農産物市場では春先以降、流通する豚肉が半減した。豚肉店主の一人は「流通量が減ったが、一般家庭の買い控えも進み、逆に在庫を抱えている店が多い。政府は対策を急ぐべきだ」と話す。8日に市場を訪れた女性は、2カ月ぶりに買ったという好物の豚足を手に「月給二千元は据え置かれたままなのに、食品の値上げは止まらない」と不満をこぼした。 」(東京新聞2011.7.10) この物価上昇が中国国内で大問題だったことは図録8204参照。 日本では2007年秋以降消費者物価が上昇しはじめたが、他の主要国でも、もとから上昇率の高かった英国を除くと、いずれの国も同時期あるいは前後して消費者物価がじりじりと上昇をはじめていた。国際的な原油高騰、穀物高騰の影響が出ていたと言えよう。
消費者物価指数の上昇率の水準自体では日本の上昇率は他の主要国と比べると低いことがまず目立っている。2008年の夏頃を取り上げると、物価上昇率が高い水準にある中国は別格としても多くの国が3〜6%となっていたのに対して日本は2%前後であった。 しかし、08年8月以降は、米国など連続して上昇率が低下している国が多く、中国なども一時期の高い水準から大きく上昇率が低下し、9月のリーマン・ブラザーズ破綻など世界的な金融不安・景気後退の影響が大きく出た。特に米国はデフレ的状況が著しく、08年12月には、ついに日本よりも物価上昇率が低くなった。また中国では09年2月には大きくマイナスとなった。09年3月には米英日中が揃って物価低下に転じている。世界全体で景気低迷の影響が物価動向にあらわれていたといえる。 2009年8月以降は、それまでと一変して、対前年同月比が各国一斉に上昇に転じており、世界的な景気低落も底を打った感があったが、2010年にはいると、ギリシャ、アイルランドの財政危機などの影響でユーロ圏諸国を中心に再度対前年同月比は低下傾向となり、最近は横這いとなっている。 一方、ユーロ圏以外の英国、中国、韓国では、インフレが続いている。2010年の年末、中国の複数の投稿サイトでは今年を象徴する漢字として物価上昇を示す「漲」が選ばれたという(東京新聞2010.12.28)。 2011年4月には久しぶりにプラスとなったものの、09年8月以降の日本の動きは世界的な動きと比べてかなり低水準であり、再度、かねてからの日本の相対的に低い物価増減率水準が表面化してきている。こうした意味で日本ではデフレからの脱却が困難だと判断される材料の1つとなっている。 (2008年7月3日収録、2016年8月26日2015年基準指数になってからのはじめての更新、2023年1/20過去の逐次更新記録省略、2024年1/19・2/27・3/22・4/19・5/24・6/21・7/20・8/23・9/20・10/18・11/22・12/20更新、12月6日「コロナと物価推移」)
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