毎月発表される消費者物価指数について、基本指標である対前年同月比の月次推移を掲げた。長期の年次推移については図録4719参照。

(参考:2015年9月頃のコメント)

 消費者物価指数は2015年7月に生鮮食品を除く総合で対前年同月比0.0%となり、2013年6月にプラス転換を見てから久方ぶりに物価上昇率がプラスでなくなった。また8月には生鮮食品を除く総合が久方ぶりにマイナスに転じ、それ以降マイナス基調が続いている。一般にはデフレからの脱却をうたったアベノミクスの終焉と見なされている。

 なお、対前年同月比ではなく指数そのものの水準で見たほうが分かりやすい場合が多いので以下にそれを掲げた。2014年4月の消費税の影響による上昇を除くとそれ以降ほぼ横ばいになっている様子が明確である。ただし、政府も言っているとおり、エネルギー価格の低落の影響も大きく、食品とエネルギーを除く指数では、一応、消費税の値上げのあった2014年4月以降の水準よりは上回っている(消費者物価指数の見方は末尾参照)。


(参考:2014年4月頃のコメント)

 2014年4月には、消費税が5%から8%に引き上げられたのち、家電など多くの品目の値上げが進むなか、消費税率引き上げが遅れていた公共料金の大幅値上げが加わり、1982年4月(同3.5%)以来の伸びとなった。「日銀は、消費増税の影響について「前年同月比1.7%分押し上げる」と試算していた。増税転嫁分を上回る伸びとなったことについて総務省は「原材料価格の値上げなどで増税分以上の転嫁があったのではないか」と指摘した」(毎日新聞2014年5月30日)。

 これまで、2013年6月にプラスになったのは12年4月以来、1年2カ月ぶり、0.4%以上となったのは実に08年11月以来5年ぶりであった。アベノミクスによるインフレ期待が実際の効果にやっとつながったといえよう。生鮮食品を含む総合は3.4%ともっと高かった。(消費者物価指数の見方は末尾参照)

 図録4722に見るように海外の物価動向と比較すると日本の物価上昇率は長らく相対的に低く、日本のデフレ的体質からの脱却は容易ではなかったことが分かる。

(参考:2010年10月頃のコメント)

 我が国の消費者物価はデフレ基調の経済推移の中で長らく安定していたが、2007年後半から、世界的な石油価格や穀物価格の高騰の影響により、上昇基調に転じた(石油価格の高騰は図録4714参照、穀物価格の高騰は図録4710参照、物価の長期推移の国際比較は図録4730)。

 サブプライムローン問題に端を発した世界的な金融不安と景気低迷により、原油市場や穀物市場はいっときの極端な高騰の状況は収まった。その後も物価が低迷するデフレ状態が長く継続している。2010年10月5日には、金融緩和策として、日銀は、政策金利(無担保コール翌日物)を年0.1%程度から年0〜0.1%程度に引き下げる事実上のゼロ金利政策を復活させた(2006年7月以来、約4年3カ月ぶり)。今回、目新しいのは「消費者物価の対前年上昇率1%程度が展望できる情勢となったと判断するまで、ゼロ金利政策を継続する」としている点であり、インフレターゲット政策にやや近づいている。物価が安定しているかどうかを判断する基準は「対前年比2%以下のプラスで、中心は1%程度」だという(東京新聞2010.10.6)。当図録、あるいは図録4722を見ても、こんな状況は何時来るのだろうか、という感を禁じ得ない。

(参考:その他)

 2010年4月については、平成22年4月から導入された高校授業料無償化(公立高校の授業料無償化・私立高校への高等学校等就学支援金制度)の影響がマイナス1.5%のうち0.54%分(寄与度)と計算されている。もし高校授業料無償化がなかったとしたらマイナス1.0%と若干の改善となっていたと見なせる。

【コラム・1】消費者物価指数の見方

 総理府統計局では毎月様々な商品の価格を調査し、それを家計消費に占める購入金額でウエイト付けした消費者物価指数(CPI)を作成し公表している。ここでは、消費者物価指数を前年の同じ月の値と比べて何%変化したかという値をグラフにした(前年同月と比較するのは物価の季節変動の影響を避けるためである)。

 消費者物価は気候変動等で上下する生鮮野菜などの価格変動によって大きく影響されるので、生鮮食品を除いた指数で消費者物価の動きを追うことが常道となっている。

 2011年7月分から2005年基準の指数から2010年基準の指数に変更された。総合指数を算出する際の品目別のウェイトも変更されたので物価上昇率自体も以前と異なっている。物価の増減率が相対的に低い品目のウェイトが大きくなったので、物価上昇率は下方修正された。例えば、総合、及び生鮮食品を除く総合は2011年4〜6月はプラスであったのが今回の改訂でマイナスに修正された。

 なお、変化率、寄与度及び寄与率は、平成17年基準までは、端数処理(四捨五入)後の小数第1位の指数値を用いて計算していたが、平成22年基準からは、端数処理前の指数値を用いて計算しているため、公表された指数値を用いて計算した値とは一致しない場合がある。ただし、四半期、半期、年及び年度平均指数値については、端数処理(四捨五入)後の小数第1位の月別指数値を平均して求めている。

【コラム・2】実感している物価と統計上の物価とのズレ

 モノが高くなっていると感じられるのに、統計上の物価はむしろデフレというように、実感と統計でズレがあるのではという声が多い。こうしたズレは以下のような要因で引き起こされると考えられる。

@統計では品目の構成が古い

 下表のように生活上重要となっている品目を追加しほとんど買われない品目を外すというかたちで定期的に物価調査の対象となる品目を変更しているが、こうした変更より消費品目の変化の方が激しいので常に実感とズレが生じる。しかし、新品目は登場してからしばらくすると普及に伴い値段が大きく下落するので、むしろ、統計上はデフレの要因となる。一方、消費者は、例えば、DVDがブルーレイに代わったり、ケータイ電話がスマホに代わったりする度に新たな出費を強いられるので、物価が下がったとは感じないであろう。

消費者物価に含む品目の主な入れ替え
追加した品目 外した品目
1990 コンタクトレンズ、ワープロ、ビデオカメラ、CD ほうき、レコード、かりんとう
1995 ウーロン茶、配達ピザ、サッカー観覧料 魚肉ソーセージ、キャラメル、ギター
2000 おにぎり、ミネラルウォーター、ヘアカラー、パソコン、携帯電話通信料 テープレコーダー、サイダー、二槽式洗濯機
2005 チューハイ、DVDレコーダー、サプリメント ミシン、ビデオテープ、鉛筆
2010 ドレッシング、焼き魚、大人用紙おむつ、電子辞書、メモリーカード 丸干しいわし、やかん、フィルム、テレビ修理代
(資料)東京新聞2012.11.4

 なお、この表は、消費生活の内容変化を語る資料としても興味深い。

A耐久消費財のウエイトの高さ

 何年に一回しか買わない自動車やテレビ、パソコンといった耐久消費財も年平均の購入額でウェイトづけされるので日々の買物での値段で物価を感じている生活者の実感とズレが生じる。耐久消費財は価格が他の品目より下落するケースが多いので、統計の物価より実感の物価の方が値上がり感が強くなる。

B上がったときのダメージの方が下がったときのメリットより強く感じる

 心理的に云って物価上昇のダメージの方が物価下落のメリットより強く感じるので統計と実感がズレる可能性がある。物価上昇は同じ所得で買えるモノが減るとすぐぴんとくるが物価下落で買えるモノが増えて生活が豊かになるとはなかなか感じにくいものなのである。あめとムチがあるとするとムチの方に強く反応するのが生物としての人間の習性となっているのであろう。失業率でも上がったときはよく報道されるが、下がったときには報道されない。失業の恐れにそなえて準備を進めるシグナルとしての重要性の方が、環境が改善されて転職の準備を進めるシグナルとしての役割より、より切実と理解なのだと理解できる。

(2008年6月9日収録、6/27・7/25・8/29・9/26・10/31・11/28・12/26更新、2009年1/30・2/27・3/28・5/1・6/1・6/26・7/31・8/29・9/29・10/30・11/27・12/25更新、2010年1/29・2/26・3/26・4/30・5/28・6/25・7/30・8/27更新、10/6更新・コメント改変、10/29・11/26・12/28更新、2011年1/28・2/25・3/25・4/28・5/27・7/1・7/29・8/26・9/30・10/28・11/25・12/28更新、2012年1/27・3/2・3/30・4/27・5/25・6/29・7/27・8/31・9/28・10/29更新、11月4日コラム2追加、11/30・12/28更新、2013年1/31・3/1・3/29・4/26・5/31・6/29・7/26・8/30・9/27・10/25・11/29・12/27更新、2014年1/31・2/28・3/28・4/25・5/30・6/27・7/27・8/29・9/26・12/11更新、2015年8/31・9/25更新、2016年8月26日2015年基準指数になってからのはじめての更新、2018年1月26日更新、2020年1月24日更新、2022年10月22日更新)


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