物価は経済の体温と呼ばれる。体調の変化が体温に反映されるのに似て、経済活動の変化が物価に現れるからである。確かに、過去の消費者物価指数の変化を眺めると、景気動向や石油危機などの経済活動の変化が物価に反映されていることがわかる。

 消費者物価指数の動きは毎月の動きが対前年増減率であらわされて話題になる。こうした月次推移は図録4720で見ている。ここでは、もう少しおおくくりの変化を見るため年次推移をおったグラフを描いた。消費者物価指数の定義などは図録4720を参照されたい。なお、5年平均あるいは毎年の物価動向を図録4730で国際比較しているので、より長期の動きや一貫して欧米やOECD諸国に比較して低い価格動向についてはこちらを参照されたい。

 1973年のオイルショックの時期の価格高騰のすさまじさを記憶している者は多いであろう。私は大学生で昼食を食べる大学近くの食堂の値段が行く度にどんどん上がっていくのに驚いたことを思い出す。 オイルショック以前に奨学金を借りた学生は返す額が実質上少なくなって得をしたなと羨んだことも思い出す。

 当時は毎年物価は上昇しており、インフレーションが常態だったが、オイルショック時はこれに輪をかけて物価が高騰したのであった。好景気にインフレはつきものと考えられており、不景気なのにインフレが続く状態はスタグフレーションと呼ばれ経済学上の大きな話題となっていた。

 バブル経済の時期も不動産価格だけでなく景気過熱により一般に物価上昇率が高かった。一般にバブル経済の時期といえば1980年代後半を指すが(経済成長率からはこう見なされる-図録4400参照)、物価上昇から見ると1990〜91年の前後5年間ぐらいがバブルの時期と言えないこともない。バブル期特有の精神状態が1990年代前半には続いていた点については図録2758などを参照されたい。

 消費者物価がはじめてマイナスに転じたのは1995年である。消費税が4月に5%に上がった1997年はこの影響で物価が上昇しているが、これを除くと、消費者物価がはじめてマイナスに転じた1995年頃から、その後長く続くことになるデフレ経済期がはじまったと見なすことも可能である。

 デフレ経済が長く続くと思ってはいなかった日本人にとって当時の物価下落は、価格破壊の進行と考えられていた。

 1995年にはマクドナルドが「80円バーガー」で価格破壊を仕掛け、1999年にはユニクロの「フリース旋風」が業界を席巻した。2001年には吉野家の牛丼が400円から280円となった。100円ショップは1990年代半ば頃からマスメディアに取り上げられはじめ、2000年前後には小売業界で一定の位置を得て、その後も順調に成長してきた。

 100円ショップは、同じ商品を100円で販売していても、デフレーションが進行しているさなかでは、仕入れ価格は下落するから自動的に利益は増加していくこととなる。料金ビジネスであるNHK、電気・ガス・水道などでも、物価が下落しても料金は必ずしも下がらないので、同じように好都合なことが起こる。100円ショップや料金ビジネスはまさにデフレ時代の商売といえよう。全く同様なことが賃金や年金給付、生活保護費などについてもいえる。物価が下がったからといって、それが直ちにこれらの金額の低下に結びつかないから、結果として、実質的には上昇していく傾向となる。

 その後、物価下落は単なる一時的現象の価格破壊ではなく、継続的に続く経済状況となった。2008年の資源の国際価格(原油や穀物)が高騰した影響で2008年は物価がかなり上昇したが、その直後、リーマンショックによる景気低迷で価格は急落した。こうした変動をはさみながら物価下落(デフレ経済)は20年近く続くこととなった。大胆な金融緩和措置などで株価の上昇や円安とともに多少でも物価が上昇させるのに成功した2013年以降のアベノミクスを国民が好意的に受け止めたのもこうした長い低迷があったからこそである。

 2016年には消費者物価指数がマイナスとなってしまった。マイナスは日銀による異次元緩和が始まった2013年以降では初めてである。石油価格の下落の影響が大きいがアベノミクスも神通力を失ったともいえる。

 2017年はプラス0.5%と上昇に転じたが、原油高でエネルギー関連が上昇したのが主因で、食料品の上昇が副因だった。このため、「食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合」の指数はマイナス0.1%とむしろ下落している。

 2018年はプラス1.0%と上昇したが、生鮮食品とエネルギー関連の上昇が大きく、「食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合」の指数は0.4%と低い水準に止まっている。

 2019年は消費税が10%に引き上げられたが、引き上げ時期がこれまでの4月からでなく10月からだったこともあって、物価上昇率は0.5%と低い水準に止まっている。

 2023年の上昇率は3.2%とバブル期直後1991年の3.3%以来の高さとなった。

 参考までの、サービス価格の動きが主要な要因となっていたことを示す消費者物価上昇率の財・サービス別分解(リンク)と経済情勢の変転を反映して、値上げと値下げを繰り返してきた吉野家の牛丼(並盛り)の価格推移の状況を以下に掲げた。

 牛丼の価格推移については2024年11月19日のねとらば記事が参考になる。それによれば吉野家の2014年以後の価格推移は「2019年10月には消費税増税と軽減税率が全国的に施行されました。テイクアウトと店内飲食を同一価格とした他2社と違い、吉野家では軽減税率に合わせてそれぞれ異なる価格を適用。テイクアウトを並盛380円としたため、店内飲食では387円に。その後もこの「W価格」を保ったまま、2021年〜2024年まで小幅ずつの改定を続け、現在の牛丼並盛の価格は店内飲食:498円・テイクアウト:489円となっています」。




(2014年12月11日収録、2015年4月26日更新、9月25日更新、2016年1月29日更新、8月26日2015年基準指数になってからのはじめての更新、2017年1月27日更新、2018年1月26日更新、1月28日コメント補訂、2019年1月18日更新、4月26日財・サービス別分解、2020年1月24日更新、2021年1月22日更新、2022年1月21日更新、2023年5月22日更新、2024年1月19日更新)


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