図には、まず、地域ブロックの中で失業率最大と最小の地域の失業率の推移を掲げた。 バブル経済が崩壊した1990年代前半までは北海道、その後、2000年代前半までは近畿、そしてその後は、再度、北海道が失業率最大の地域となり、最近は北海道と九州(沖縄を含む)が交互に最大となっている。 失業率最小の地域は1980年代までは北関東・甲信(以下、北関東と略す)が多かったが、1990年代以降は、北陸が北関東に取って代わり、2005年前後からは東海が北陸に取って代わった。主導的な製造業業種が電気機械産業から自動車産業へとシフトしたことがこうした変化をもたらしていると考えられる(図録5250、図録7500参照)。 下に、各地方ブロックの失業率の水準を全国を100とする指数で追った図を掲げた。東北道沿いの工場立地や九州のシリコンアイランドなど内陸型のハイテク産業が地方分散した1980年代から90年代前半までは、東北や九州の失業率は相対的に低下した。一方、電気機械や半導体産業が途上国との競争で勢いを失い、自動車産業のみが活力を維持していた2000年代には再度この2地域で失業率が相対的に上昇し、他方、東海の失業率は低下した。リーマンショックの影響で2009年には東海の失業率が一時急上昇したが、その後は、落ち着いている。東北の動きからは2011年の東日本大震災ののち復興需要の影響もあって失業率が相対的に低下していることが認められる。 さて、本題の失業率の地域格差の動きであるが、最大ブロックと最小ブロックの失業率の差が縮まってきていることから格差は縮小してきていることが分かる。もっと厳密に地方ブロックごとの変動係数を計算してその推移を上の図で追って見ると、沖縄を分離しない10ブロックの値で1980年代の30%程度のばらつきが最近は10%台前半に、すなわち半分以下に縮まってきていることがはっきり分かる。なお、2009年に変動係数が急減しているが、これは、自動車産業のさかんであるため最低水準を保っていた東海の失業率がリーマンショックによる輸出減から一時期急激に高まったためと考えられる。
中央と地方の格差是正や失業率の高い地域の振興策として位置づけられることが多い道路整備等の公共事業は、1995年以降、半減にまで急速に少なくなったが(図録5166a)、だからといって、失業率の地域格差は再度広がることもなく、依然、縮小傾向にある。そうだとすると地域格差是正に果たす財政支出の効果は限定的だったと考えざるを得ない。 それでは、交通手段の発達などにより地域間の労働力移動率が上昇し、地域的な労働力需給ギャップを平準化することが容易となったため失業率の地域格差は縮小したのだろうか。実際は、地域間の人口移動率は低下を続けており、そうした要因は考えにくい。2000年代の前半に地域的な格差幅が大きくなったときに、その理由として、少子化のために親が子供を近くに置きたがり、また子供が親に経済援助を受けるという傾向が進んで、地域間労働力流動の遅れを招き、産業構造の変化に対応しきれなくなったためという説があったぐらいである。 失業率の地域格差の長期的な縮減の要因が、政府の地方分散政策の効果でもなく、労働力移動の円滑化の影響でもないとするとその他の要因として可能性があるのは以下であろう。
実際、図録7673で見たように国内の移動人口レベルもこの間低下傾向を辿っており、同じ動きのあらわれと考えられる。 サービス経済化は先進国共通の潮流であり、失業率の地域格差も各国で低下傾向にある点については図録3094参照。 (2016年7月29日収録、2017年5月21日更新、2019年2月15日更新、2022年11月11日更新)
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