製造業の動きをたどるため、主要業種の製造品出荷額等の推移を概観する。図録7500には県別の出荷額推移を掲げたが、地域別の動向は業種別の動向に大きく影響されている。

 製造品出荷額等は工場単位の出荷金額であり、生産工程が2工場に分離されればそれだけで増加する。クルマの工場からドア部分の生産が別工場となればドア部分の出荷額分が自動車産業の出荷額として増加する。製造品出荷額等の「等」は、製造品の出荷に加えて、加工賃収入額、修理料収入額、製造工程から出たくず及び廃物の出荷額並びにその他収入額を含めているからである。

 主要業種として取り上げたのは、食料品、繊維・衣服、化学、鉄鋼、一般・精密機械、電気機械、輸送用機械の7つである(ただし、食料品は食料品と飲料・たばこの計、一般・精密は一般機械と精密機械の計)(図録5245、図録5247参照)。近年の産業分類の改訂に対応して最新の分類にあわせて過去に遡及して推計する場合もあるが、ここでは、馴染みがある旧来の分類にあわせて、近年の細分化された業種を合計し、業種の動向を見ている。

 1970年代前半当時においては、この7業種は余り変わらない出荷額規模であった。

 徐々に乖離が生じていた業種ごとの伸びの違いが1980年代に入って明確化した。いわゆる労働集約型産業の海外シフト、重厚長大から軽薄短小への転換、臨界型工業から内陸型工業へのシフト、ハイテク時代の到来といった潮流の変化をしるすかのように、繊維・衣服は低迷し、化学や鉄鋼と言った臨界型工業は横ばいに転じ、コンピューター、半導体などを含む電気機械を筆頭とした機械系産業の順調な伸びとの違いがはっきりした。労働需要が目立ってハイテク・ITシフトしたのも1980年代前半以降である(図録3500参照)。

 その後、1990年前後のバブル経済崩壊を経て1990年代の長い経済低迷の中で各業種とも横ばい傾向に転じ、業種構成は変化しなくなった。ただし、労働集約型産業の繊維・衣服は、冷戦後、中国が世界貿易に参入したことを受けて海外シフトが進んだため、1990年代以降、縮小傾向をたどった(図録j022参照)。1990年代にユニクロが中国工場で製造した低価格衣料で急成長したことからもこうした動きはうかがえる(100円ショップやダイエーのPB「セービング」など「価格破壊」が流行語となったのは1994年、ユニクロの1900円フリースがブームとなったのが1998年)。

 21世紀に入った2000年ごろから家電生産等における海外生産シフトの影響もあって電気機械が低迷する一方、モノづくり能力や環境対応力に優れた自動車産業の国際競争力が高まり、輸送用機械と電気機械の地位が逆転した。鉄鋼など低迷していた素材産業も中国などの新興国の需要爆発や高品質・省エネにもとづく競争力が評価され、出荷額が急増した(輸出入から見た業種ごとの競争力推移については図録47504800参照)。

 なお、食料品はこうした時代潮流の変化には余り左右されず堅実に推移している。他の業種に比べて数年毎の短期的な変動がなく安定的な推移を示している点も目立っている。ただ1990年代のバブル後の需要後退、価格破壊などの影響で、出荷額規模は横這い傾向ないし低迷状態にあり、流通側からの合理化圧力には大きく影響されている状況がうかがえる。

 業種を整理するため、バブル時のピークと2007年段階の水準を比較すると

・大きく上回る→輸送用機械
・かなり上回る→化学、鉄鋼
・ほぼ同等→食料品、一般・精密機械
・下回る→電気機械
・かなり下回る→繊維・衣服

 地域別の出荷額動向(図録7500)では、東京、大阪といった大都市工業の低迷に加え、愛知、静岡など自動車産業の立地する地域の伸びが目立っていたが、ここでふれた業種別動向に大きく影響されていることが分かる。

 こうした中、2008年9月のリーマンショックに代表される世界金融危機が世界同時不況への引き金となり、輸出業種から波及して日本の製造業は大きな打撃を受けた。2009年の対前年変化はこれまでにない大きな落ち込みとなった。

2009年の製造品出荷額等の対前年変化
  製造業
食料品 繊維
・衣服
化学 鉄鋼 一般・精
密機械
電気
機械
輸送用
機械
その他
増減幅(兆円) -70.3 -0.4 -0.8 -3.9 -8.3 -11.3 -11.8 -16.6 -17.2
増減率(%) -21.0 -1.2 -17.5 -13.7 -34.3 -28.1 -22.8 -26.0 -19.6
増減寄与率(%) 100.0 0.6 1.2 5.5 11.9 16.1 16.8 23.6 24.4

 製造業計で70兆円の減少であり、自動車を中心とする輸送用機械が16.6兆円、電気機械が11.8兆円、一般・精密機械が11.3兆円といずれも10兆円を超える落ち込みとなった。増減率では、2008年まで大きく伸びていた鉄鋼が34.3%減と最も大きく、一般・精密機械が28.1%減、輸送用機械が26.0%で続いていた。リーマンショック後の日本製造業への打撃としては、自動車産業の欧米向け輸出の落ち込みが大きく取り上げられたが、それにとどまらず製造業全体で大きなショックを受けたといえよう。

 2010年以降、各業種がどの程度回復したかで、リーマンショック後の世界不況が日本の製造業の業種構造に及ぼした影響が明らかになっている。すなわち安定的な推移の食料品を除いて、2017年の段階で、各業種ともに2009年の最低ラインを上回るに至っており、リーマンショックの影響が最も大きかった輸送用機械も2007〜08年のピークを上回っている。その中で、電気機械のみは、最低ラインになお止まっている。薄型テレビの国際競争力低下に代表される最近の電気機械産業の低迷を反映していると考えられる。こうした低迷を背景に、白物家電については、中国大手の傘下に入る事例が増えている。こうした状況を見るため以下に国内電機メーカーをめぐる主なできごとの表を掲げた。

国内電機メーカーをめぐる主なできごと
2003年 ソニーの業績悪化で日経平均株価が急落する「ソニー・ショック」
2005年 ソニーの純損益が赤字、以後テレビやパソコンなど苦戦
2006年 日立製作所の収益が悪化し経営再建策発表
2011年 パナソニックが不振の三洋電機を救済するため完全子会社化
2012年 中国・ハイアールが三洋電機の白物家電事業を買収
日立製作所が過去最高の純利益を計上
2013年 パナソニックが「プラズマテレビ」から撤退するなど構造改革
2014年 ソニーがパソコン事業を分社し切り離し
2015年 パナソニックの純損益が2期連続で黒字に
シャープの経営危機が表面化
東芝の不正会計が発覚、巨額赤字で経営再建へ
2016年 シャープが台湾・鴻海精密工業の傘下入り
東芝が白物家電事業を中国企業に、医療機器子会社をキャノンに売却
東芝はパソコン事業を富士通、VAIO(バイオ)と統合交渉
2017年 東芝の米原発子会社ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)経営破綻
2018年 東芝は半導体子会社東芝メモリを米ベインキャピタルを中心とした「日米韓連合」に売却
(資料)東京新聞(2016年3月16日)、毎日新聞(2018年6月2日)

(2004年5月31日収録、2008年12月1日更新、コメント全面更新、2011年4月15日更新、2013年3月22日更新、2014年5月16日更新、2016年2月29日更新、3月16日「国内電機メーカーをめぐる主なできごと」追加、繊維・衣服追加、2017年9月26日更新、2018年3月2日更新、5月31日更新、6月2日年表補訂、2019年6月1日更新)


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