図録7673でふれた人口移動率の縮小、図録7362でふれた雇用の地域格差の縮小に見られるように、サービス経済化の影響が日本の社会構造を大きく変容させている。

 この点を理解しやすくするため、ここでは、物的生産の代表として「製造業」、サービス経済の代表として「医療・福祉産業」を取り上げ、都道府県別の就業者数の分布状況を示した。それぞれの産業が人口規模の割にどれほどの就業者を抱えているかを見るため、就業者数そのもののほかに、人口千人当りの就業者数で各都道府県を比較している。

 人口当たりの就業者数で見ると、製造業の就業者は、北海道・東北や近畿以西の西日本に対して、関東から北陸、東山、東海を経て滋賀県までの日本の中央部(ただし南関東を除く)に集中していることがうかがえる。これに対して、医療・福祉産業の就業者は、多少の上下はあるが、ほぼ人口規模に比例して就業者も分布していることが分かる。

 製造業は、原料の調達などから物を生産するのに適した地域、また製品を需要地に運ぶのに都合の良い地域に立地するのに対して、医療・福祉産業は、対象者である人口、特に高齢者の数が多い地域に立地する傾向がある。そう考えて図をもう一度眺めると、医療・福祉産業は、高齢者が相対的に少ない南関東でやや少なく、高齢者の多い中四国、九州などでやや多くなっていることに気がつく。

 製造業は、全体としてもこのように地域分布に偏りがあるが、実は、職種別に見れば、さらに地域特化が著しい。製造業の職種別の地域分布については図録7492に詳しく示したので参照されたい。

 製造業の就業者数が多かった高度成長期やその後バブル期ぐらいまでは、景気の好不況や躍進する業種のシフト(素材産業から機械産業へなど)によって就業者数の地域別の需要はかなり大きく変動していた。そのため、人口移動の必要性も高く、地域別の失業率格差も大きかったのだといえよう。

 脱工業化、サービス経済化は、全世界的な傾向である。これは、工業が衰退したから起っているのではなく、工業の生産性が飛躍的に上昇し、非常に少ない人数で大きな規模の生産を実現できるようになったのに対して、サービス産業の労働生産性の上昇は、産業の性格として伸びに限界があるからである。1人の患者を治療するのに半分の人数の医者や看護師で十分と言うわけにはなかなか行かないのである。

 国勢調査によれば、1995年から2020年までの25年間に、製造業の就業者数は、1,316万人から906万人へと410万人の減少、率にして31%減である。一方、医療・福祉産業の就業者数は、359万人から763万人へと404万人の増加と約2.1倍になっている。サービス産業の一部である医療・福祉産業だけで製造業に匹敵する就業者数規模となっているのである。この調子で行けばそう遅くない時期に両産業の就業者数は逆転するであろう。

 このように、サービス経済化にともない、地域特化が特徴の製造業のウエイトが下がり、人口比例の地域分布が特徴であるサービス産業のウエイトが上がってくると、全体としては、少なくとも、就業者数分布としては人口規模に比例した産業構造にシフトしていく。そうすれば、当然、人口移動の必要性は薄れていく。また、地域的な労働力需給のミスマッチは減り、失業率の地域格差は縮小していくのである。

(2020年2月4日収録、2022年7月6日更新)


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