(注)日本についても同データベースによっている。データベースのmetadataファイルによれば原資料は”Comprehensive
Survey of Living Condition of the People on Health and Welfare”と記載されており、これは国民生活基礎調査のことである。同調査の所得票は3年毎の大規模調査ではサンプル数を増やしており、掲載データ年もこれに一致している。なお、参考値として、全国消費実態調査及び全国家計構造調査による値を併載した。国民生活基礎調査の値とは概念は同じであり、推移パターンも似ているがレベル自体はかなり異っている。
主要国の所得格差の傾向については、全体として、格差拡大に向かっていたことが明確である。もっとも最近は横ばいかやや低下の傾向も見られる。 日本の場合は、2000年をピークに小泉政権期にやや格差が縮小した。その後は、再度格差が広がりつつあったが、2009年以降はほぼ横ばいの傾向である。 格差水準については、米国、英国、日本、カナダ、独仏、スウェーデンの順に格差が小さくなるという状況は少なくとも1980年代から変わっておらず(米英は一時期逆転しているのを除くと)、日本は格差の小さな国から大きな国になったのではない。つまり以前より比較的に格差が大きかったのであり、変化があったとすれば格差が小さいという幻想が消滅したのである。小泉改革は格差を拡大したのではなく、格差が小さいという幻想を打ち砕くことに成功しただけであるといってよかろう(図録4663参照)。 なお、全国消費実態調査あるいは全国家計構造調査の計算結果が正しいとすると日本の格差水準は今やスウェーデン並みと判断せざるをえない。 日本について、全年齢のジニ係数と高齢化要因を取り除いた生産年齢人口(ここでは通常の15歳以上ではなく、18歳以上で65歳未満の人口)のジニ係数の推移を比べると、前者の方が後者をだんだんと上回るようになっており、この差の拡大が高齢化の要因による格差拡大といえよう。 日本以外の国では、日本と異なり、全年齢と生産年齢人口との差はむしろ縮小、あるいは逆転する傾向にある。年金などの社会保障制度や税制による所得再分配がないとすると高齢者層では働き盛りのときの稼ぎや資産運用の運不運で格差が大きくなる傾向がある。高齢者層を含めた全年齢のジニ係数が生産年齢人口のジニ係数より上回っている点が特徴なのは米国と日本であるが、米国は、機会の平等を重視し、結果の平等は致し方ないとする考え方が根強いからであろう。日本の場合は、アジア的な自助思想の影響のためと(図録8034)、高齢化が急であり、高齢化の程度も尋常ではないため、財政制約もあって、再配分が追いつかないためだろう。日米以外の国ではそれなりに再配分機能が働いているため高齢者を含めた場合でも格差が広がらないのであろう。 近年の格差の動きではなく、19世紀からの長い間の変化を見たジニ係数の長期推移を日本及び主要国について掲げた(上図)。ここでのジニ係数は基本的に税引き前の家計所得ベースである。出所は、欧州に拠点を置く共同研究プロジェクトであるClio-Infraが収集・分析・整理したデータベースである(図録8029では同じ資料からアジア諸国の格差の長期推移を追った)。日本のジニ係数の長期推移については図録4660にも掲げた。
先進国では戦前から戦後にかけて格差が大きな段差をともなって縮小していることが分かる(高額所得者の所得シェアの動きでも同様である点は図録4655)。 現在格差の比較的小さな国であるスウェーデンも19世紀末には先進国の中でも格差の最も大きな国であった。 英国は「ゆりかごから墓場まで」という高福祉政策を進めた社会保障先進国として他国より早く格差が縮小したが、1970年以降、いわゆる英国病からの脱却を図り、1979年以降のサッチャー政権下で新自由主義経済を推進したため、ジニ係数は大きく上昇している。 米国の戦前から戦後しばらくは日本と同様の格差推移だったが、やはり1970年以降、1981年に就任したレーガン大統領の下でのいわゆるレーガノミックスの影響もあり、ジニ係数が大きく上昇した。 この転換は世界的な自由主義経済への肯定的評価の高まりによっているといえよう(下図参照)。 上のデータでは2000年段階で日本のジニ係数が最も小さくなっている。税引き前の家計所得ベースなので、当初所得ベースでは他国と比較してジニ係数が低い日本の特性が反映しているのかもしれない(図録4666)。 (2016年9月21日図録4652から分離独立、9月22日長期推移図、再配分コメント補訂、10月27日日本の資料源についての(注)を追加、2017年7月1日全国消費実態調査データ、2018年11月10日更新、カナダ追加、2021年9月6日更新)
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