ここで、社会保護(Social Protection)は、2013年報告書(ADB(2013), Social Protection Index.)によれば、以下のように、@社会保険、A社会援助、B積極的労働市場対策から構成される。アジア開発銀行が算出したアジア諸国の社会保障については、少し前のデータであるが図録8033参照。
社会保護指数は広がりと手厚さ(深さ)の掛け算の結果となるように設計されている。 社会保護指数=広がり(想定対象人口に占める受給者の割合)×手厚さ(受給者1人当たり給付額対貧困ライン「1人当たりGDP×0.25」) 図録は、アジア主要国の社会保護指数を、広がり(X軸)と手厚さ(4分の1値、Y軸)に分解して示した散布図である。 アジア諸国の社会保障パターンは、@狭くて手厚い国(マレーシア、ウズベキスタン、パキスタン)、A狭くて手薄な国(フィリピン、バングラデシュ、インド))、B広くて手薄な国(インドネシア、ベトナム、タイ、中国、シンガポール、韓国)、C広くて手厚い国(日本)の4つに分けられる。 @の国では貧困層ではなく、非貧困層向けに社会保護が実施されている。日本は、例外的に、広くて手厚い国として、アジア諸国の中では、相対的に、欧米先進国に近い特徴を示しており、経済発展の歴史の積み重ねが反映しているといえよう。 この散布図を最初に掲載した英エコノミスト誌(The Economist July 6th 2013)の記事の見方によれば、アジア諸国は欧米が切り開いた「福祉国家」の考え方に必ずしも賛同していないとされ、2001年に当時のシンガポール首相が「施しは松葉杖精神をもたらし、怠惰や依存心や濫用の源になりがちである」と言ったことが紹介されている。確かに、シンガポールは今や日本よりもずっと豊かな国となっているのに(図録4541)、相変わらず、社会保護はベトナム並みに手薄なパターンであり、指数も高くない。記事の表題が"Widefare"なのは、アジア新興国では、"Welfare states"というより、単なる"Widefare states"となっていると言いたいのであろう。 また、同誌は、アジアでは「自力救済」の伝統から、社会保護の中でも、無償の社会援助ではなく、保険料を負担する社会保険への傾斜を示す国が多いとしている。例えば、韓国では8割が社会保険、日本では9割近く、シンガポール、マレーシアでは9割以上が社会保険である。 毎日新聞(2015.5.27)は、シンガポールのリー・クアンユー元首相の言葉「政府が貧しい人々を援助してしまうと、高度成長の原動力となってきた自立心がたやすく失われる」(1996年、シンガポール国立大の講演)を紹介し、シンガポールでは、物乞いが犯罪となる点(最大3000シンガポールドル(約27万円)の罰金、または最長2年の禁錮刑)、雇用法で企業は特別な理由なしに従業員を解雇でき、一部職種を除き最低賃金は定められず、日本のような失業保険制度もない点、また、所得税が低く抑えられている点(もっとも政府は2015年2月、福祉財源を確保するため、高所得者の所得税率引き上げを決めた)を伝えている。シンガポールについてはさらにコラム参照。 日本でも、保守党としての自民党には、自助・共助・公助のバランスの中で、自助を重視する考え方が色濃いが、アジア的な共通性が認められよう。 もっとも現金移転も実験的に試されてもいる。タイでは、国際金融危機への対処策として登録低所得労働者に対して援助金(65米ドル相当)が支払われる"Chek Chuay Chaat"対策が実施された。また、保険料を運用する主体としての信用が政府にない南アジアでは安い穀物の頒布や道路敷設や溝掘りに貧乏人を雇うといった対策が講じられるのみである(インドやバングラデシュが典型)。 ここで指数を取り上げている国は次の14か国である。バングラデシュ、インドネシア、パキスタン、インド、フィリピン、タイ、スリランカ、ベトナム、中国、マレーシア、シンガポール、韓国、ウズベキスタン、日本。
(2013年9月20日収録、2015年5月27日シンガポール記事補充、7月27日コラムに英エコノミスト誌から引用追加)
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