○主演、原作者などに関する作品一覧表は末尾


 NHK大河ドラマの平均視聴率の推移をグラフにした。

 これまでの最高の平均視聴率を記録したのは、1987年放映の渡辺謙主演の「独眼竜政宗」(39.7%)であり、次の年の中井貴一主演「武田信玄」(39.2%)がこれに続いている。

 2000年以降、20%以上の視聴率を安定的に獲得しているのは、「利家とまつ」、「功名が辻」、「篤姫」といった女性が主人公となった”女の大河”である点が特徴となっている。特に「篤姫」は24.5%と1996年の「秀吉」以来の高い視聴率となった。

 平安時代中期に源氏物語を生んだ紫式部の生涯を描く2024年の「光る君」は初回視聴率が12.7%と1989年春日局の14.3%を下回り過去最低を更新した。非常に低い期待値と言ってよいだろう。NHKが事前に他の番組の中で熱心に「光る君」の番組宣伝を行っていたのはそれが予想されていたからであろう。「光る君」は初回と同様、期間平均も下がり続けるのか、それとも「篤姫」のように期間平均が初回を上回るようなことが起こるかどうか、今後が注目される。


 これまでの初回と期間平均の視聴率を2000年以降について追うと両者は一定程度相関している。

 「期待はずれ度」ともいうべき両者の差を見ると「功名が辻」や「篤姫」のように低かった期待以上に実際は堅調な視聴率を維持したケースもあるが、ほとんどは多かれ、少なかれ期待はずれとなっている。2010年以降では「西郷どん」は期待が余り高くなかったせいか最低であり、逆に最大は「いだてん〜東京オリムピック噺〜」だった。

 2023年の「どうする家康」は初回の視聴率は15.4%と「西郷どん」と並んで低い値だった。期間平均は11.2%と「いだてん」に次ぐ過去最低となった。最初の期待がそう高くなかったので期待はずれ度は最近5作の中では最低だった。なお、NHKプラスでは歴代大河ドラマで最高視聴数を獲得したという。最近はタイムシフト視聴に加えてNHKプラスでの視聴もあるので数字の評価が難しい。

 「鎌倉殿の13人」は、2004年「新選組!」、16年「真田丸」を手がけた脚本家の三谷幸喜氏が6年ぶりに大河ドラマの脚本を担当。小栗旬演じる鎌倉幕府第2代執権・北条義時が義兄の源頼朝(大泉洋)から学び、静岡・伊豆の一武士から鎌倉幕府二代執権に上り詰める物語。初回から期間平均視聴率は世帯が12.7%、個人が7.6%となった。

 俳優の吉沢亮が主演を務めたNHKの大河ドラマ「青天を衝け」の初回から最終回までの関東地区の期間平均視聴率は14.1%だった。戦国時代を描く作品と比べ、近年の幕末を描いた作品は「花燃ゆ」の期間平均視聴率が12.0%、「西郷どん」が12.7%だったように、起こる歴史的事象などが複雑なこともあって視聴率は厳しくなりがちとの声もある中、健闘したと言える。

 俳優・長谷川博己(43)主演のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」の全44回の期間平均世帯視聴率は14.4%となり2016年「真田丸」の16.6%以来の14%超えとなった。ドラマは、新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年4月1日から6月29日まで収録が中断。放送は同年6月7日をもって一時中断し、8月30日に再開、年をまたがり2月7日に終了した。

 2019年の「いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜」は、2回目となるオリンピック東京大会が来年に迫っていることから、日本で初めて五輪に参加したマラソン選手とオリンピック実現に執念を燃やした政治記者を主人公にしている。大河ドラマで近現代史を取り上げるのは、戦後の女性開業医を描いた1986年の「いのち」以来33年ぶりである。

 初回は高視聴率(15.5%)だったが2回目以降大きく低下し、第6話(2月10日)に9.9%と早々に1桁転落。第16話(4月28日)以降、5度にわたって大河ドラマ歴代ワースト記録を塗り替えた。全47話の期間平均(全話平均)も8.2%と大河ドラマ史上初の1桁となった。

 5回目の最後の大河ワースト記録更新となった第39話の3.7%は同時放映の日本テレビ「ラグビーW杯 日本×スコットランド」が平均39.2%と高視聴率を記録したためでもある(図録3964a参照)。

 しかし一方で、ファン層やSNSでは「神回」だったと絶賛の声が出た場合も多かったのが印象的だった。

 出演者を巡るトラブルが多かったのも2019年の特徴だった。ピエール瀧(足袋の播磨屋店主役)が麻薬取締法違反容疑で逮捕され、徳井義実(日本女子バレーボール大松博文監督役)が所得の申告漏れを指摘された(前者は途中降板、後者は編集を加えて放映)。また、次回2020年「麒麟がくる」の濃姫役沢尻エリカが麻薬取締法違反で逮捕され、急遽配役替えとなるというニュースも途中で舞い込んだ。

【より以前のコメント】 

 2018年の「西郷どん」は1990年の「翔ぶが如く」に続いて西郷隆盛の生涯を描いた大河ドラマであるが、視聴率の「西高東低」が最後まで続いていた点が注目された。

NHK大河ドラマ視聴率の東西格差(ビデオリサーチ調べ)
関東地区 関西地区 関西−関東
西郷どん(18年) 12.7% 15.8% 3.1%pt
おんな城主直虎(17年) 12.8% 14.1% 1.3%pt
真田丸(16年) 16.6% 15.9% -0.7%pt
(資料)スポニチアネックス2018.12.17

 2017年の「おんな城主 直虎」は、山の民を統べていたともいわれる中世領主井伊家の女城主が徳川家臣団の出世頭井伊直政を祖とする近世的な武家井伊家に系譜を継いで行くというストーリー。視聴率は12.8%と低かったが、阿部サダヲが新しい家康像を演じたり、小野政次(高橋一生)の磔刑による壮絶な最期がインターネットで話題となるなど、かなり注目された大河ドラマだった。

 2016年の堺雅人主演の「真田丸」は、脚本は2004年放送「新選組!」以来2度目となる三谷幸喜で、2010年以来続く原作なしのオリジナル作品。戦国時代最後の名将として知られる真田信繁(幸村)が大河ドラマでは初の主人公として取り上げられた。視聴率は2011年「江・姫たちの戦国」の17.7%以来5年ぶりに16%を超えた。

 2015年の井上真央主演の「花燃ゆ」は、幕末の長州藩士で思想家の吉田松陰の妹・文(ふみ)(のちに美和と改名)の物語であるが、ヒロインが歴史上、ほとんど知られておらず、視聴率は苦戦し、期間視聴率(関東地方)は12.0%と1994年の日野富子というやはりどちらかというとマイナーな歴史上の人物を描いた三田佳子主演の「花の乱」(14.1%)を下回り、2012年度「平清盛」と並ぶ大河ドラマ史上歴代ワーストタイとなった。

 近年平均視聴率30%を超えるような圧倒的な人気ドラマは出ていないが、NHKの朝の連続テレビ小説(図録3965)や大晦日のNHK紅白歌合戦(図録3967a)と同様に2014年の岡田准一主演の「軍師官兵衛」が15.8%と2年連続で視聴率が上昇するなど長期低落傾向からの下げ止まりが認められたかの如くであったが、やはり同傾向は根深いのであろう。

 2010年放映の「龍馬伝」については、日本における政治の現状との対比が意図されているということをNHK関係者へのインタビューを通じて英エコノミスト誌が明らかにしている(The Economist 2010.12.4)。また2009年から2011年にかけて放映されている「坂の上の雲」についても同様の意図があるとしている。2007年に顕在化した年金記録問題に端を発した国家への失望感は2009年には民主党への政権交代の原動力となったが、私見では、いま描くべきは明治時代の使命感にあふれた国家というより、むしろ長い目で見れば国家はそもそも頼りない存在であるという点である(図録2996参照)。メディアがないものねだりをしていると国民の失望感はいつまでも解消されず、誰もが望まない事態につながりかねないと思われる。英エコノミスト誌の同記事は、「坂の上の雲」の英訳者から聞いた作者司馬遼太郎の見解として、「坂の上の雲」は戦争の愚かしさを描いた作品であり、司馬遼太郎は「愛国主義を栄光化する恐れからテレビ化を望んでいなかった」と紹介している。

 2010年暮れ、タイガーマスクの主人公伊達直人を名乗る何者かが児童養護施設にランドセルを贈ったニュースが伝わると、全国あちこちに伊達直人が現れた(注)。これは、期待した民主党政権になってもやはりダメならそもそも自民党が悪かったのではなくそもそも国家は頼りなかったのだから期待してもしょうがないという気分のあらわれだと思っていたら、同様の考えの人もいるようだ。演歌歌手の原田悠里は東京新聞の「言いたい放談」でこう書いている。「わが家の86歳の母は、タイガーマスクのニュースに、「政治があてにならないから、下々が(失礼、国民のことです)動き始めた」と溜飲を下げています。確かに弱い者が守ってもらえないような国家ならば、一人一人が真剣に将来を考えざるを得ないというところまできているのかもしれません」(2011年1月28日)。識者やマスコミは権力を批判しても仕様がないとすると自らの存在理由が問われるのでこうしたストレートな考えには至らないようだ。

(注)毎日新聞2011年1月15日「「タイガー現象」全都道府県で確認−漫画「タイガーマスク」の主人公・伊達直人などを名乗る人物からの贈り物は全国的な広がりを見せ、全都道府県で確認された。毎日新聞の集計では、昨年末以来、少なくとも計299件(12日午後2時現在)に達した。贈り物もさまざまな文具や食べ物など多様化し、小中学生が贈り主になるケースや企業による寄付も出てきた。」

 最後に、参考までに、以上の世帯視聴率では分からない男女・年齢別の視聴率を以下に掲げた。詳しくはこの図の出所である図録3964d参照。


NHK大河ドラマ
順番 放送年 作品名 作/原作 主役 俳優 平均視聴率
(総合視聴率)(%)
1 1963 花の生涯 船橋聖一 井伊直弼 尾上松緑・二代目 20.2
2 1964 赤穂浪士 大仏次郎 大石内蔵助 長谷川一夫 31.9
3 1965 太閤記 吉川英治 豊臣秀吉 緒形拳 31.2
4 1966 源義経 村上元三 源義経 尾上菊五郎 23.5
5 1967 三姉妹 大仏次郎 おむら 岡田茉莉子 19.1
6 1968 竜馬がゆく 司馬遼太郎 坂本竜馬 北大路欣也 14.5
7 1969 天と地と 海音寺潮五郎 長尾景虎=謙信 石坂浩二 25.0
8 1970 樅の木は残った 山本周五郎 原田甲斐 平幹二郎 21.0
9 1971 春の坂道 山岡荘八 柳生但馬守宗矩 萬屋錦之介 21.7
10 1972 新・平家物語 吉川英治 平清盛 仲代達也 21.4
11 1973 国盗り物語 司馬遼太郎 斎藤道三 平幹二郎 22.4
12 1974 勝海舟 下母沢寛 勝麟太郎=海舟 渡哲也→松方弘樹 24.2
13 1975 元禄太平記 南条範夫 柳沢吉保 石坂浩二 24.7
14 1976 風と雲と虹と 海音寺潮五郎 平将門 加藤剛 24.0
15 1977 花神 司馬遼太郎 村田蔵六=大村益次郎 中村梅之助 19.0
16 1978 黄金の日日 城山三郎 呂宋助左衛門 松本幸四郎 25.9
17 1979 草燃える 永井路子 源頼朝/北条義時 石坂浩二/松平健 26.3
18 1980 獅子の時代 山田太一 平沼銑治 菅原文太 21.0
19 1981 おんな太閤記 橋田寿賀子 ねね=北政所 佐久間良子 31.8
20 1982 峠の群像 堺屋太一 大石内蔵助 緒形拳 23.7
21 1983 徳川家康 山岡荘八 徳川家康 滝田栄 31.2
22 1984 山河燃ゆ 山崎豊子 天羽賢治 松本幸四郎 21.1
23 1985 春の波濤 杉本苑子 川上貞奴 松坂慶子 18.2
24 1986 いのち 橋田寿賀子 高原未希 三田佳子 29.3
25 1987 独眼竜政宗 山岡荘八 伊達政宗 渡辺謙 39.7
26 1988 武田信玄 新田次郎 武田信玄 中井貴一 39.2
27 1989 春日局 橋田寿賀子 春日局 大原麗子 33.1
28 1990 翔ぶが如く 司馬遼太郎 西郷隆盛 西田敏行 23.2
29 1991 太平記 吉川英治 足利尊氏 真田広之 26.0
30 1992 信長 田向正健 織田信長 緒形直人 24.6
31 1993 琉球の嵐 陳舜臣 啓泰 東山紀之 17.3
32 1993 炎立つ 高橋克彦 藤原経清、藤原泰衡 渡辺謙 17.7
33 1994 花の乱 市川森一 日野富子 三田佳子 14.1
34 1995 八代将軍 吉宗 ジェームス三木 徳川吉宗 西田敏行 26.4
35 1996 秀吉 堺屋太一 豊臣秀吉 竹中直人 30.5
36 1997 毛利元就 永井路子 毛利元就 中村橋之助 23.4
37 1998 徳川慶喜 司馬遼太郎 徳川慶喜 本木雅弘 21.1
38 1999 元禄繚乱 船橋聖一 大石内蔵助 中村勘三郎 20.2
39 2000 葵 徳川三代 ジェームス三木 徳川家康/徳川秀忠 津川雅彦/西田敏行 18.5
40 2001 北条時宗 高橋克彦 北条時宗 和泉元弥 18.5
41 2002 利家とまつ〜加賀百万石〜 竹山洋 前田利家/まつ 唐沢寿明/松嶋菜々子 22.1
42 2003 武蔵 MUSASHI 吉川英治 宮本武蔵 市川海老蔵 16.7
43 2004 新選組! 三谷幸喜 近藤勇 香取慎吾 17.4
44 2005 義経 宮尾登美子 源義経 滝沢秀明 19.5
45 2006 功名が辻 司馬遼太郎 千代/山内一豊 仲間由紀恵/上川隆也 20.9
46 2007 風林火山 井上靖 山本勘助 内野聖陽 18.7
47 2008 篤姫 宮尾登美子 天璋院篤姫 宮崎あおい 24.5
48 2009 天地人 火坂雅志 直江兼継 妻夫木聡 21.2
49 2010 龍馬伝 福田靖(脚本) 坂本竜馬 福山雅治 18.7
50 2011 江 姫たちの戦国 田渕久美子(脚本) 江(崇源院) 上野樹里 17.7
51 2012 平清盛 藤本有紀(脚本) 平清盛 松山ケンイチ 12.0
52 2013 八重の桜 山本むつみ(脚本) 新島八重 綾瀬はるか 14.6
53 2014 軍師官兵衛 前川洋一(脚本) 黒田官兵衛 岡田准一 15.8
54 2015 花燃ゆ 大島里美/宮村優子/
金子ありさ/小松江里子(脚本)
吉田松陰妹・文(ふみ) 井上真央 12.0
55 2016 真田丸 三谷幸喜(脚本) 真田幸村 堺雅人 16.6
56 2017 おんな城主 直虎 森下佳子(脚本) 井伊直虎 柴咲コウ 12.8(17.3)
57 2018 西郷どん 林真理子(中園ミホ脚本) 西郷隆盛 鈴木亮平 12.7(18.0)
58 2019 いだてん〜東京オリムピック噺〜 宮藤官九郎(脚本) 金栗四三/田畑政治 中村勘九郎/阿部サダヲ 8.2(11.2)
第39回3.7(ワースト記録)
59 2020 麒麟がくる (作)池端俊策/前川洋一/
岩本真耶
明智光秀 長谷川博己 14.4(20.2)
60 2021 青天を衝け 大森美香(脚本) 渋沢栄一 吉沢亮 14.1(19.6)
61 2022 鎌倉殿の13人 三谷幸喜(脚本) 北条義時 小栗旬 12.7(20.2)
62 2023 どうする家康 古沢良太(脚本) 徳川家康 松本潤 11.2(17.7)
63 2024 光る君へ 大石静(脚本) 紫式部 吉高由里子
64 2025 べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜 森下佳子(脚本) 蔦屋重三郎 横浜流星
(注)ビデオリサーチ(関東地方)による。
(資料)NHK年鑑2013ほか

(2006年12月25日収録、2008年2/22・7/15・12/24更新、2010年1月4日更新、11月29日更新、2011年1月12日龍馬伝・坂の上の雲コメント追加、1月28日タイガーマスクのコメント追加、11月28日更新、2012年12月25日更新、2013年12月16日更新、2014年7月9日資料を東京新聞から変更、1993年2番組の値を補正(入替)、2014年12月22日更新、2015年12月14日更新、2016年12月19日更新、2017年12月18日更新、2018年8月5日西郷どん西高東低、12月17日更新、12月25日総合視聴率、2019年1月20日表更新、2月12日いだてん10%切る、4月12日表示選択、6月10日いだてん6.7%、10月15日いだてん3.7%、12月16日更新、2020年1月14日表更新、7月11日21年度予定、2021年2月8日・16日更新、12月27日・1月21日更新、2022年12月19日・12月27日更新、2023年1月10日初回と期間平均の視聴率推移図、3月3日同推移図年次拡張、4月28日次回、次次回予定、12月18日・12月26日更新、2024年1月9日更新)


[ 本図録と関連するコンテンツ ]



関連図録リスト
分野 教育・文化・スポーツ
テーマ テレビ番組
情報提供 図書案内
アマゾン検索

 

(ここからの購入による紹介料がサイト支援につながります。是非ご協力下さい)